技術知識の深さ、広さを併せ持つ「T字型人材」とノウハウ共有を核に、マーケットを拡大――サーバーワークス特集:アジャイル時代のSIビジネス(1)(1/3 ページ)

クラウドの浸透などを背景に、「SIビジネスが崩壊する」と言われて久しい。だが顕在化しない“崩壊”に、かえって有効な手立てを打てず不安だけを募らせているSIerも少なくないようだ。本特集ではSIビジネスの地殻変動を直視し、有効なアクションに変えたSIerにインタビュー。SI本来の在り方と行く末を占う。

» 2016年03月02日 05時00分 公開
[斎藤公二/構成:編集部/@IT]

着実に進むSIビジネスの地殻変動

 クラウドの浸透を背景に、「保守運用と組み合わせたハードウェア販売」「人月で収益を見積もる受託開発」を軸としたSIビジネスが崩壊すると言われて久しい。新しい付加価値を作れなければ生き残れない時代が来ると、数年前から各種メディアで盛んに指摘されている。

 特に昨今は「ビジネスのパフォーマンスはITのパフォーマンス」といった認識も広がり、いかにスピーディに市場変化に対応しながら「差別化に役立つシステム」を作るかが重視されている。これを受けて、アジャイル開発やDevOps、また内製化を見直す動きも起こりつつあり、SIerに期待する役割も「システムを発注する相手」から、「共にビジネスを改善する、育てるパートナー」に変わりつつあるようだ。

 とはいえ、現時点ではIT投資の回復傾向を受けて、既存システムの改修・リプレース案件が増加しており、経営的には潤っているSIerも多い。さまざまなメディアで半ば定期的に「SI崩壊」などという文字が躍っても、「とりあえずうちは大丈夫」と考える経営者も少なくないようだ。だが“SI業界の地殻変動”が着実に進んでいることは疑いようのない事実。その微振動は感じるものの顕在化しない“崩壊”に、有効な一歩を踏み出せないまま不安だけを募らせている経営者、従業員も多いと聞く。

 そこで本特集では、時代の要請に応じた独自のアプローチで顧客をつかみ、実績を伸ばし続けている複数のSIerを取材。彼らがどのように先を読み、従来型ビジネスモデルからの脱却を考え、ニーズに応えているのかを知ることで、“SI業界の地殻変動”を直視することが狙いだ。これを通じてSIビジネスの在り方と行く末を占う。

 では、多くのSIerが抱いている不安を、彼らはどのように受け止め、具体的なアクションに変えていったのだろうか?――今回はクラウドに特化したサービスで定評のあるサーバーワークス 代表取締役 大石良氏の声を紹介する。

地殻変動の中、未知の挑戦者と戦う能力が求められる

 AWSのパートナープログラム「AWS Partner Network」における国内のプレミアコンサルティングパートナー5社のうちの1社であるサーバーワークス。Amazon EC2サービスの提供が始まった2007年にユーザーとして利用を開始し、2008年には国内初となるAWSのデリバリー事業者となった。

ALT サーバーワークス 代表取締役 大石良氏

 以来、AWSに特化したクラウドインテグレーターとして8年にわたってサービスを提供し続け、2016年1月現在、380社1260のAWS導入プロジェクトを支援してきた実績を持つ。丸紅、味の素、ヤマハ発動機、テレビ東京、横河電機など、中堅中小から大手企業までを顧客に持つクラウドインテグレーター(以下、CI)だ。

 クラウドに特化してサービスを提供する同社だが、AWS登場以前は自前で調達したハードウェアとアプリケーションを使ってサービスを提供するシステムインテグレータだった。SIからCIへの移行を率先して進めてきた代表取締役の大石良氏は、「現在のSI業界では地殻変動が起こっている」と指摘する。

 「アプリケーションやインフラを作って納めることが仕事であることは変わりません。ただ、今後は誰も予想できなかったことが起こり始めると感じます。『Uberizaiton』という言葉があるように、競争相手が全然違う所から突然飛び込んできて、業界ががらりと変わってしまう。これから4〜5年の間にそれがSIの世界でも起こると思います」

 金融機関を中心にした統合プロジェクトや新システム構築など、SI業界全体は活況を呈しているように見える。クラウドの普及により従来型SIの必要性も薄れていくとの見方もあったが、実際には人手不足が発生し、企業のIT投資意欲も高い。足元を見ると、SI業界の中での危機感が薄れているのが現状のようだ。ただ中期的には、IoTやビジネスのデジタル化といったトレンドの中で、大石氏が指摘するような“地殻変動”が起こりつつある。

 「ひょっとしたら、新しいAI(人工知能)によって意思決定を支援する仕組みが突然生まれ、システムを作る必要性がまったくなくなってしまうかもしれません。僕らはそういう未知の挑戦者と戦っていく能力を身に付けないといけない。われわれのバリューは何か、それでお客さまの課題をどう解決していくか。そういったことに、より集中して取り組んでいます」

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