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» 2016年03月16日 05時00分 公開

特集:アジャイル時代のSIビジネス(3):「ウオーターフォールかアジャイルか」ではなく「目的に最適かどうか」、“本質を見極める視点”が勝負を分ける――グロースエクスパートナーズ (2/3)

[斎藤公二/構成:編集部/@IT]

強みは「顧客に最適なものを考え抜く」カルチャー

 同社が得意とする領域の1つは、企業内、企業間、企業と顧客など、コミュニケーションが発生する領域――具体的にはSFAやCRM、EDI、ECなどのコンサルティング、開発、運用と、まさしく「戦略的なIT活用」が求められる領域だ。

 「コミュニケーションが発生する領域こそ、“人とITのバランス”をきちんと考えなければいけません。企業の独自性が出やすいため、パッケージやSaaSだけでは対応が難しい領域です。各社各様の業務慣習やそれに沿ったコミュニケーションの在り方を効率化するためには、どうしてもカスタマイズが発生する。SIerにとっては工夫のしがいがあり、エンジニアにとってはコーディングで力を発揮できる領域です」

 また、エンタープライズのシステムは、既存の基幹系システムと連携せずに済む案件はほとんどない。例えばフロントのWebシステムであっても、基幹システムに保存された販売情報や顧客情報などと連携して初めて意味のあるシステムになる。その際、「基幹連携によって何をどのように効率化するのか」「手動でデータを移し替えていたようなフローを自動化することで、どう便利になるのか」などを熟慮し、「確実にビジネスメリットが出るよう設計できるか否か」がシステムの品質を決定する。

 「基幹系と連携するシステムを作る際は、あまり基幹系に引きずられると納品や改善のスピードが遅くなるため、『どこまで基幹系が担当する範囲なのか』『基幹系が担当しない範囲に対して、どこまでできるのか』を明確化します。その上で、最も効率良く、無駄や重複のない形で、新たに開発するシステムと基幹系の間のギャップを埋める。目的や予算に最適な設計によって業務効率化を果たすことが、われわれの腕の見せ所です」

 ちなみに同社の全案件を開発手法で分けると、純粋なアジャイル開発を適用するものは2割ほどしかないという。同社が得意とする領域は、スピードや柔軟性、変化対応力などを重視するSoE(System of Engagement)領域でアジャイルが適すると言われる。しかし前述のように、企業システム開発では、高度な安全性・信頼性を重視するSoR(System of Record)領域との関わりも重要になる。よって、両方のアプローチが必要となり、ハイブリッドな手法になることがほとんどだという。ただ、鈴木氏は「ウオーターフォールかアジャイルか、といった意識でプロジェクトを進めることはない」と話す。

 「大切なのは、アジャイルかどうか、クラウドかパッケージかといった話ではありません。『目的に対して最も効率良く進めるにはどういう戦略が正しいのか』を毎回きちんと考えることです。『これを使えばできるはず』といった決め付けをせず、『なぜ必要か、なぜそうするべきか』と考えるのが弊社のカルチャーです」

ALT 「大切なのは、アジャイルかウォーターフォールかではなく、顧客企業のビジネス目的に最適かどうか」

 従って「この技術なら絶対うまくいく」「標準化することが絶対に必要だ」といった判断の仕方はしない。あくまで「顧客企業のビジネス目的にとって本当に良いやり方、良いプロセス、良いツールは何か」といった具合に、目的起点で考える。

 「今は技術の選択肢も、プロセスやツールの選択肢も幅広くなっています。昔のようにある技術に特化しないと効率化できないという時代ではありません。そのときどきで最適な技術を選び出し、組み合わせることが非常に重要になってきています。さまざまな技術のユーザーとして、新旧問わず技術の目利きをし、目的に必要なものを選び、最適化していくスキルとノウハウが重要なのです」

 こうしたアプローチが発揮されるのは技術の選択、組み合わせだけではない。前述のような、企業の独自性が強い領域や、競争力の源泉となる差別化システムの領域、すなわち“既存のものだけでは実現できない部分”についてはスクラッチで作り込み、そうではない部分については目的に最適な既存の技術を組み合わせる。つまり“目的起点のアプローチ”は、戦略的な観点で「作るもの/作らないもの」を切り分ける上でも力を発揮する。

 これにより、開発のスピード、メンテナンス性を上げるとともに、顧客企業にとっては限られている期間・投資の中で最大の効果を上げる――手段先行、技術先行に陥ることなく、目的起点で最も合理的なアプローチを“考え抜く”スタイルが、同社自身のパフォーマンスを上げるとともに、そのまま顧客のメリットにつながっているわけだ。

SIerやエンジニアが陥りがちな“思考停止”をどう打破するか

 ただ鈴木氏は、従来型のSIerの中には「“考えること”をやめてしまっているケースも少なくない」と危惧する。

 「他のSIerの提案書を見ていると、顧客企業の目的に寄り沿うことではなく、自社が扱っている標準的なツールを顧客企業に適用することばかりを優先してしまっていると感じることもあります。確かに日々の仕事はこなさなければならないのですが、SIerが付加価値を付けるべき部分で“こなす”感覚の仕事ばかりしていると、いつかはパブリッククラウドに置き換えられてしまうのではないでしょうか」

 鈴木氏は、「必ずしも毎回ゼロから考える必要はないが、常に顧客が何を望んでいるかを見極めることが重要です」と強調する。従って、鈴木氏はエンジニアが「ここではこの技術を使います」と報告してきた際、「なぜその技術を使うのか」を徹底的に問う。

 「その動機を確認していくと、『使ったことがある』『新しい技術で面白そうだから』などと、明確な理由がない場合もあります。『その技術にどういう特性があり、どこに適用すると、どうフィットし、どのような成果を生み出すか』を明確に答えられないなら、その技術は使うべきではないのです。お客さまに『面白そうだからこの技術を使います』と言って納得するでしょうか。とはいえ、これはエンジニアにとって楽しい作業でもあります。『顧客のやりたいこと』を起点に何が最適なのかを、チームで考えれば考えるほどアイデアが出てくるものですし、みんなでワイワイやっていいものを作ろうとすると、工夫のしがいがどんどん出てきます。われわれはそうしたノウハウをお客さまに提供して、お客さまと共に考え、成長していく。それがSIerと顧客企業の最も健全な関係性だと思います」

ALT 「SIerが付加価値を付けるべき部分で“こなす”感覚の仕事をしていると、いつかは存在意義をクラウドに奪われてしまうのでは。思考停止に陥ってはいけない」

 顧客のビジネス成長や効率化に本当につながるのであれば、昨今ネガティブに論じられがちな人月見積もりも取り入れる。顧客のビジネス展開にとって必要だと判断すれば、3カ月、6カ月といった短納期にも積極的に応じる。逆に短期間でシステムリリースしてもビジネスの現場がついてこられないなら、ビジネスの視点から最適な納期を設定するとともに、例えば「少しずつリリースする」など顧客企業の業務慣習に沿った納品に対応する。納品状況とシステムの成果についても、顧客企業の経営層が把握しやすいよう工夫する――まさしく“「何のためか」という本質”に基づいて最適なアプローチを決める点に、同社の基本スタンスがある。

 「私自身は、人月見積もり自体が悪いと思ったことはありません。ITが労働集約産業である以上、一定の作業時間に対してフィーをいただくことは当たり前です。問題は、適切な単価を設定できるか、適切な生産性であるかということでしょう。人を固定する委任型か、人の入れ替えができる請負型か、顧客企業とどういった契約になるかも含め、目的に対してどうバランスを取るかが重要であり、人月見積もり自体に問題があるわけではありません」

 「顧客のことをよく考え、目的に最適なシステムを提供する」というとSIerとして当たり前のようにも思える。だが顧客企業の「戦略的なIT活用」を支援するパートナーとして、“問題の本質”を見抜き、最も合理的な方法で確実にビジネスメリットを生み出せるかというと、それができるSIerは自ずと限られることだろう。徹底的な顧客起点、目的起点の考え方と、それを支える豊富な知見とノウハウが、やはり同社最大の強みといえるのだろう。

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