「OpenFlowの父」が語るVMware NSXの今後、オープンソース、最高の判断と後悔Martin Casado氏が、今だから話せること(2)(1/3 ページ)

Martin Casado(マーティン・カサド)氏の、OpenFlowからNicira、ヴイエムウェアに至る、SDNをめぐる旅を振り返る2回連載。今回は、VMware NSXの成功の要因と今後、これからのエンタープライズIT市場とオープンソース、これまでにおける最高の判断と後悔、テクノロジストが起業するということについて聞いた部分をお届けする。

» 2016年04月26日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]

 SDN(Software Defined Networking)のキーパーソン、Martin Casado氏へのインタビューを2回に分けてお届けしている。前回は主に、Nicira設立からヴイエムウェアによる買収までを振り返った。今回は、VMware NSXの成功の要因と今後、これからのエンタープライズIT市場とオープンソース、これまでにおける最高の判断と後悔、テクノロジストが起業するということについて聞いた部分をお届けする。

 Casado氏は2016年4月より、ベンチャーキャピタルAndreessen Horowitzのジェネラルパートナーになった。その経緯はこうだ。

 前編でお伝えしたように、Andreessen HorowitzはNiciraの窮地を救ってくれたベンチャーキャピタルであり、その後ヴイエムウェアに12.6億ドルという巨額で買収されたことで、カサド氏は同社に大きな恩返しをしている。「互いに信頼する間柄だ」と、Casado氏はいう。

 Andreessen Horowitzの共同創立者であるMark Andreessen(マーク・アンドリーセン)氏は、「Software eats the world,」(ソフトウェアが世界を席巻する)という言葉で知られる。ITの未来はソフトウェアにあるというのが持論で、同キャピタルはソフトウェア企業への投資にほぼ特化している。投資先としては、Facebook、Twitter、Airbnb、PinterestからBox、GitHub、Mesosphere、CoreOS、Okta、DigitalOceanに至るまで、ソフトウェアの力で成功し、あるいは注目されてきた多数の企業がある。同社のソフトウェア中心主義は、Casado氏の「ソフトウェアでネットワークの世界を変える」という考え方と完全に一致する。

参考:

「私が朝起きる理由は、ネットワークの世界を変えること」

 その会社から、「エンタープライズ担当のジェネラルパートナーのポジションに空きが出たため、来てほしい」と誘われたのだという。Casado氏は今回雑談で、「米国でのトップに名を連ねるAndreessen Horowitzのようなベンチャーキャピタルのジェネラルパートナー(注:米国の法律事務所のパートナーのように、他のジェネラルパートナーと対等の立場で、案件に全責任を負う)のオファーは、10年に一度くらいしかないチャンスで、断るわけにはいかなかった」と話した。同時に、ネットワークより、もっと広い世界で仕事がしたいと考えたという。

 それでも、VMware NSXを推進する仕事から離れる気にはなれなかった。Casado氏は同社に「あと1年待ってくれ、まだやりたいことがある」と頼んだが、「それではエンタープライズ分野での投資が1年間止まってしまう」といわれ、悩んだ挙句、3月末をもって転職する決断をしたのだという。

 Casado氏はヴイエムウェアという会社を去るものの、VMware NSXから完全に離れるわけではない。四半期ごとにある程度の時間を割いて、この製品の推進を手助けするという。VMware NSXにカサド氏が特別な思いを抱いていることは、VMware NSXの今後の展開についての答えからもうかがえる。

「VMware NSXが成功したのは、SDNだからではない」

――Casadoさんのこれまでのお話を踏まえた上で、あえて聞きますが、SDNで成功したといえる企業は、現在のところ一握りしかないと思います。VMware NSXが6億ドルのビジネスに育った理由は何だと思っていますか?

テクノロジストから年商6億ドル規模のビジネスの責任者になり、ベンチャーキャピタリストに転身したMartin Casado氏

Casado氏 SDNは何にでも使えます。既存のネットワーク製品ベンダーが自社製品をより良いものにするために使っていますし、SD-WAN関連ベンダーも増えてきました。Google、Apple、Amazon、Facebookなどは自社のために活用しています。市場のシフトは起こりつつあります。一方、製品の成功例はというと、VMware NSX、Cisco ACI、そしてSD-WAN製品の一部くらいでしょうか。

 VMware NSXが成功したのは、SDNだからではないと思います。ネットワーキングと仮想化されたデータセンターは、Niciraの誕生以前から、問題を抱えてきました。コンピューターを仮想化すると、この仮想マシンは自動的に動き回ることになります。一方でネットワークは仮想化されていないため、これに対応できません。大きな断絶があります。典型的な企業では8割のコンピューターが仮想化されるような状況になっても、この問題に取り組もうとする人がだれもいませんでした。

 つまりVMware NSXの成功の理由は、SDNだったからではありません。現実的な問題を見出し、これをSDNによって解決したことです。同じ問題を、従来型の手法で解決したとしても、ある程度は成功したと思います。

――しかし、一般企業に販売するのは、難しい部分もあるはずです。情報システム部門においてネットワーク運用チームが仮想化インフラ運用チームとは別に存在していて、自分たちの考え方でやっているようなところに、どうアプローチしてきたのですか?

Casado氏 だからこそ、Niciraはヴイエムウェアのような大企業の一部になる必要があったのだと思います。それは仮想化インフラ運用担当者とのやりとりから始まります。「アプリケーション展開の自動化を進めたいのに十分できていない」「セキュリティを高めたいのにできていない」、そうした問題の解決を私たちが支援できると分かってもらえたとします。すると、仮想化インフラ運用担当者はネットワーク運用担当者や、セキュリティ担当者を、会話に呼び入れてくれます。

 ヴィエムウェアのブランド、そして顧客との関係がなかったとしたら、(注:すなわち同社に買収されず、独立企業のままだったとしたら、)そうした状況で販売するのは非常に難しかったと思います。ネットワークの担当者にいきなり話をしても、製品の価値を分かってもらえなかったはずです。また、仮想化インフラ担当者にはネットワークベンダーとしか認識されず、取り合ってもらえなかったでしょう。

 ヴイエムウェアという企業に加わったことは、ネットワーク仮想化製品ビジネスの成功に不可欠でした。以前からの同社の営業スタッフは仮想化インフラ担当者と太いパイプを持っており、一方で私はネットワーク担当者と話ができるセールスチームを構築したからです。

 多くの場合、VMware NSXはネットワークやセキュリティ関連の予算で購入されています。つまり私たちは、最終的にはネットワークの予算を獲得してきました。しかし、そのためにはVMware NSX専任のセールスチームが必要で、このチームはヴイエムウェアの既存のセールスチームの力を借りて、潜在顧客にリーチする必要があったのです。ただし、あなたが言うようにこれは難しいことで、正しいアプローチを見出すまでには時間が掛かりました。

 こういうお話をしていると、私は技術者というよりもビジネスマンのように聞こえるでしょう?(笑)

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