連載
» 2016年07月06日 05時00分 公開

特集:IoT時代のビジネス&IT戦略(6):コグニティブ技術も生きる、IoTの最新12社事例――製造業、自動車、ヘルスケア・医療、顧客対応、農業、建築・公共 (3/3)

[唐沢正和,ヒューマン・データ・ラボラトリ]
前のページへ 1|2|3       

農業、建築・公共

 林氏のセッションではこの他、「農業」分野で笑農和、「建築・公共」分野でJVCケンウッド・公共産業システムのIoT活用事例が紹介された。

【10】笑農和

 笑農和は、水田に設置された水門を自動管理するIoTソリューションを提供している。

 高齢化が進み、労働人口が減りつつある農家では、1人当たりの手掛ける水田の数が増加し、水量を調整するために水門を開け閉めする作業負荷も増大し続けているのが実情だ。この課題に対して、同社は、水門にIoTデバイスを設置し、水田の状況に応じて水門の開閉を自動管理する仕組みを開発した。また、IoTデバイスのセンサーでは、水温や水質、土壌の状態などのデータも収集しており、稲作の改善提案にも活用している。

笑農和の水稲農家向け水位調整サービス「Paditch(パディッチ)」

【11】JVCケンウッド・公共産業システム

 JVCケンウッド・公共産業システムは、同社が培ってきた監視カメラや業務用無線機器技術と、IBMのビデオ分析技術「Intelligent Video Analytics」(IVA)を連携し、新たな監視システム「インテリジェントビデオ解析システム」を開発した。同システムでは、映像解析の基盤技術にIVAを採用することで、特定の人物や車両、置き去り物体検知や盗難防止などの検出まで、幅広い監視を実現。

インテリジェントビデオ解析システム

 これにより、交通機関や商業施設、小売店舗、重要施設、テーマパーク、官公庁などでの異常検出業務を無人化するとともに、犯罪や重大事故の未然防止、また混雑把握や動線分析による顧客満足度向上や売上向上にも貢献することが可能になるという。

【12】レイ・フロンティア

 また、「建築・公共」分野に関連するIoT活用事例として、25日に行われたレイ・フロンティアのセッション「位置×範囲×時間で人を知る。―行動分析の事例紹介」も見逃せない内容であった。

 レイ・フロンティアでは、位置情報をベースにしたライフログアプリ「SilentLog」をiPhone向けに提供している。このアプリは、iPhoneを持って歩くだけで、ユーザーの移動手段、経路、歩数を自動で記録して、撮影した写真と共に、毎日の行動を時間軸に沿ってまとめておけるというものだ。「健康管理」における用途を想定している。

レイ・フロンティア 代表取締役 CTO 大柿徹氏

 レイ・フロンティア 代表取締役CTOの大柿徹氏は、「『SilentLog』を利用することで、ユーザーは、その日にどんな移動手段で、どこに行って、何をしたのかといった自分の行動を詳細に振り返ることができるようになる。自分の記憶を補完するツールとして、多くのユーザーに活用されており、一般的なアプリと比較して継続率も非常に高くなっている。現在、アプリインストールから30日間の継続率は40%をキープしている」と説明する。

 さらに、同社では、「SilentLog」を個人向けアプリとして提供するだけでなく、アプリに記録される“位置×範囲×時間”の行動情報を、人工知能を活用してリアルタイムで分析するサービス「SilentLog Analytics」を展開している。具体的には、行動情報の分析データを基に、人や物の行動を俯瞰視点で可視化、ペルソナの構築や検証、各個人に最適化した情報配信などが可能になるという。

SilentLog Analytics

 大柿氏は、「SilentLog Analytics」の応用分野として、「自動車の安全運転」「交通情報の提供」「消費者の行動分析」「訪日旅行者向けサービス」「高齢者向けのスマートシティー」「従業員の遠隔管理」などを挙げ、「2016年3月には、モビリティの分野でイードと業務提携を行った。イードが開発・運営する自動車の燃費計測サービス『e燃費』の次期バージョンで、『SilentLog Analytics』を活用した新たなサービスを提供する計画」としている。

 なお、「SilentLog Analytics」の行動分析基盤には、分散インメモリを用いて大量データを処理するIBMの分析基盤「Spark as a Service」を採用している。「Spark as a Service」は、「IBM Bluemix」上で提供されているクラウドサービスで、ハードウェアの制約やメンテナンスの必要がなく、柔軟な拡張性を備えているのが特長だ。これにより、大規模データに対するデータ分析処理の効率化、およびサービス開発へのリソース集中化を実現している。

日本企業のデジタライゼーションは進むのか

 ここまで、多種多様な分野でのIoT活用事例を紹介してきたが、これら多くの事例の基盤となっているのがIBMの「Watson IoT Platform」によるコグニティブコンピューティングだ。「Watson IoT Platform」は、「IBM Bluemix」のクラウド環境で展開され、センサー情報をリアルタイムに収集・分析・活用するためのさまざまなAPIが提供されている。さらに、基幹業務システムとのデータ連携APIも提供されており、センサー情報から資産情報、保全情報まで含めたエンドツーエンドのIoTソリューションを実現している。

日本アイ・ビー・エム 代表取締役社長 執行役員 ポール与那嶺氏

 ゼネラルセッションで、日本IBM 代表取締役社長執行役員のポール与那嶺氏は、コグニティブコンピューティングの意義について、「これからの企業には、デジタイゼーションからデジタライゼーションへのシフトが求められる。デジタイゼーションは、単に情報をデジタル化すること。これに対してデジタライゼーションは、ビジネスをデジタル化することだ。このデジタライゼーションへのシフトを支援するべく、当社が推進しているのが『Watson IoT Platform』を基盤としたコグニティブコンピューティングである」と語る。

 「IoTでは、人工知能の技術に注目されがちだが、それ以上に、いかに早くデータを収集・分析して、ビジネスに活用できるかが重要であると考えている。いかに人工知能が優れていても、学習や解析に何日もかかってしまうのでは意味がない。その意味で、『Watson IoT Platform』は、当社が蓄積したノウハウと知見を生かし、業界ごとのベストプラクティスを提供できるのが大きなメリットだ。これによって企業は、それぞれの業界のニーズに最適化したIoTソリューションを早期に立ち上げ、デジタルビジネスを展開することが可能になる」と、業界に特化したソリューションを展開することで、企業のデジタライゼーションを促進していくと強調した。

 具体的な業界特化ソリューションの展開としては、自動車業界向けの「IoT for Automotive」の一部機能を2016年5月に提供開始している。さらに、2016年後半から2017年にかけて、家電、小売、保険、製造の各業界に特化したソリューションを順次リリースしていく計画だ。

 先進的なアーリーアダプター企業から一般企業へ、今後、IoTのビジネス活用が国内で広く普及していくために、「Watson IoT Platform」を基盤としたコグニティブコンピューティングが重要な役割を担うことになるのかもしれない。

特集:IoT時代のビジネス&IT戦略〜「チャンス」にするか、「リスク」になるか、いま決断のとき

今、IoT(Internet of Things)が世界を大きく変えようとしている。企業は現実世界から大量データを収集・分析して製品・サービスの開発/改善につなげ、社会インフラはあらゆる予兆を検知してプロアクティブに対策を打つ。だが、IoTはドライバーにもリスクにもなり得る。データの収集力、分析力、そして価値あるアクションに落とし込む力次第で、チャンスをモノにもできれば奪われもするためだ。企業・社会はこの流れをどう受けとめるべきか?――本特集ではIoTの意義から、実践ノウハウ、不可欠なテクノロジまでを網羅。経営層からエンジニアまで知っておくべき「IoT時代に勝ち残る術」を明らかにする。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

編集部からのお知らせ

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。