今、情報システム部門に求められる役割とは?デジタル時代を勝ち抜くために

デジタル時代、情報システム部門(以下、情シス)には単にITインフラを維持・管理するだけではなく、「ビジネスに寄与する」という観点が重要だと指摘されている。だが「ビジネスに寄与する」とは具体的には何をすることなのか、具体的に語られることは少ない。そこで本稿では“情シスの現実”をよく知るお二人の対談を通じて、デジタル時代の情シスの役割を明確化いただいた。

» 2016年07月27日 10時00分 公開
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 社会、ビジネス、生活のさまざまなシーンにITが関わるようになり、その重要性はますます増している。最近では、さらに「システム開発・運用の在り方」が「ビジネスの成果」にも直結するとさえ言われるようになった。IoT、FinTechなどのトレンドに象徴されるように、社外向けシステムは重要な顧客接点となり、社内システムには俊敏なビジネス展開を支えるスピード・柔軟性が求められている。もはやITは「省力化の手段」という位置付けにとどまらず、収益・ブランドにも影響を与える「価値を生み出す手段」となっているのだ。

 これに伴い、情シスの立場、位置付けも変わった。「サーバが動いていればそれでいい」といったスタンスは過去のものとなり、今は「ビジネスに貢献する」テクノロジーの専門家としての役割が期待されている。この「ビジネスに貢献する」とは、具体的にはどういうことなのか? 今は、いったい何が足りないのか?――

 編集部では、ユーザーとベンダーの立場でIT分野を牽引するお二人の対談を実施した。1人は、プライベートクラウドの設計・構築をはじめ、テクノロジーで富士フイルムグループ全体のビジネスを支え続ける、富士フイルム ICTソリューションズ システム事業部ITインフラ部 部長の柴田英樹氏。もう1人は、さまざまなビジネス課題、情シスの悩みを統合運用管理「JP1」の機能に昇華させてきた日立製作所 ソフトウェア・サービス開発本部システム管理ソフト設計部 部長 石田貴一氏である。“情シスの現実”と“今求められているもの”を深く知る二人の観点から、「ビジネスに貢献することの具体像」を明確化いただいた。本稿ではその模様を紹介する。

「デジタル化」する社会、ビジネス、生活

編集部 昨今の企業ITをとりまく環境を、お二人はどう見ていらっしゃいますか。

ALT 富士フイルム ICTソリューションズ システム事業部ITインフラ部 兼 IT企画部 部長 柴田英樹氏

柴田氏 ITやICTという言葉で表現してきたものが大きく変わってきましたね。富士フイルムでは、経営環境の変化や情シスが統括する範囲の拡大を受けて、IT(Information technology)からICT(Information and Communication Technology)へとシフトしてきました。ところが今は、ビジネスの最前線ではそうした表現をしなくなってきました。代わりに使われるようになったのが「デジタル」です。

 ここ数年でICTの活用範囲が拡大し、社会、ビジネス、生活の多くがデジタル化されています。事実、ICTより「デジタル」の方がわれわれの日常に身近な印象が強いのではないでしょうか。当社でもIoT、ロボットやAIなどの取り組みを進めています。世の中では、これらを「デジタルテクノロジー」と呼んでいます。ビジネス部門でもそうした言葉を使うようになってきていますが、その背景には、ICTがビジネスや生活に浸透し、その使い方によってビジネスも生活も大きく変わるというICTの影響力、重要性に対する認識の向上があるように感じます。

ALT 日立製作所 ICT事業統括本部 ITプロダクツ統括本部 ソフトウェア・サービス開発本部システム管理ソフト設計部 部長 石田貴一氏

石田氏 確かに「デジタル」というと消費者の日常に深く関係している印象がありますね。実際に、Web、クラウド、モバイルをはじめ、ITはわれわれの生活に深く浸透しています。そして重要なのは、そうした中で消費者の持つパワーが大きく変わったことでしょうね。消費者の行動が、企業経営に非常に大きなインパクトを与えるようになってきた

 これを受けて、企業側には市場環境やニーズの変化に対応する「スピード」が強く求められるようになりました。競争が激しさを増す中にあって、ビジネス展開の「スピード」こそが競争優位の獲得条件になっています。また、消費者のニーズにピンポイントで応えることで、業界構造を変えてしまうようなサービスも表れ始めています。多くの領域をITが支えるデジタル時代を迎えて、まさにITの使い方が経営を左右する時代になっていると思いますね。

情シスの考え方と、ビジネス部門の考え方の「かい離」とは?

編集部 そうした中で、いま情シスは何を期待されているのでしょうか?

柴田氏 企業システムをモード1/モード2に分ける考え方があります(※)。これに当てはめると、従来の情報システム部門は基幹システムの導入展開・運用保守などを中心としたモード1の取り組みが中心でしたが、これからは顧客接点の強化やビジネスへの貢献といった、モード2に注力していく必要があるとされています。こうした中で、IoTやFinTechに象徴されるモード2領域の新しい取り組みサービスが次々とはじまっています。

(※)ガートナーでは、要件に応じてシステムの特性を分けて考える「二つの流儀」という考え方を提唱している。「モード1」は変化が少なく、確実性、正確性、 高品質が求められる領域を指し、コストが高くなることを許容してでも、確実性や品質を重視するようなシステムを指す。例としてはメインフレームなどが挙げられる。「モード2」は開発・改善のスピード、より低いコスト、使いやすさなどを重視する領域を指す。モード1、2ともに「ユーザーの満足度」を狙うことは同じだが、モード1が「安心・安全」を優先するのに対し、モード2は「すぐに分かる、できる、楽しい」といった要素を優先する。


 とはいえ現時点では、多くの企業において、情シスの役割はまだモード1にあるのが現実です。これまでのITは「効率化、省力化」を主な狙いとして利用されてきた経緯があります。「スピード」「使いやすさ」といった要素を軸に顧客満足度向上を狙うモード2は、効率化・省力化を軸としてきた従来とは方向性が大きく異なります。そこに多くの情シスが難しさを感じているのでは≫ないでしょうか。

石田氏 それはお客さまと接していても感じます。ここ5〜8年の間、ITのコスト構造の変革やビジネス展開のスピードアップのためにIT基盤をクラウドに刷新する動きが進み、現在も進行中です。先進的なユーザー企業では、IT基盤をプライベートクラウドに分散したり、パブリッククラウドに統合したりといった取り組みが一巡したところだと思います。

 そうしたお客さまから「新しいIT基盤は作ったが、思ったほど柔軟に使えない」「期待したほど維持管理コストが下がっていない」と漏れ聞こえることもありますし、次期基盤への更新に向けて、ベンダーとしてのノウハウを提供してほしいといった相談もよく受けるようになりました。

 つまり、クラウドはモード2の取り組みの基盤となるものであり、そこに向けた取り組みの重要性は多くの企業が認識し、着実に進展してはいるのですが、ビジネス部門や経営幹部の期待値までには届いていない、というのが現状ではないでしょうか。

柴田氏 結局、「いかにコストを削減するか」という視点だけで考えてしまうということだと思います。ビジネス部門にとっては「ITコストを下げる」という視点よりも、「売上をどう上げるか」「新規顧客をどう獲得できるか」などが重要です。モード2に対するビシネス部門の期待に応えられない要因は、そうした評価・効果に対する考え方のかい離にあると考えます。従来通り、効率化とコスト削減を進める一方で、「いかにビジネス部門の能力を引き出すか」「ビジネス価値を高めるか」という考え方、価値観に切り替えていく必要があります。

デジタル時代の「情シスの役割」

編集部 では具体的に、情シスはどのような役割が求められているのでしょうか?

柴田氏 まずITの投資対効果を向上させる役割が求められます。IT投資をビジネス目線で見て、どうリターンを最大化させるかを考える。また、ICTを活用したビジネス創出支援を積極的に考えることも必要です。ビジネス部門とともに、テクノロジーの可能性と制約を確認しながら、新しいビジネスプロセスやサービスをスピード重視で検討していくことになります。

 ただ、これらの役割は、既存の人材だけで取り組もうとしてもすぐにはできません。新しい役割が必要だという認識の下、そうした観点を持つ人材を育成する、積極的なローテーションを図るなど、組織として工夫が求められます。

石田氏 おっしゃる通り、方向性の異なる取り組みを同じ部門が同時に行うことは簡単ではありません。そこで「情シスの役割」を思い切って分けてみることも1つの方法だと思います。例えば、自社業務を深く理解しているという前提の下、情シスもビジネスサイドのKPIで動くようにする。一方で、技術の実装や運用は、業務知識と技術知識を生かして、信頼できるパートナーを選択し、アウトソーシングしたり、ツールを使って運用を自動化したりすることで省力化し、本来的な業務に集中するわけです。

柴田氏 ここで重要なのはモード1の業務がなくなるわけではないことでしょうね。運用管理業務を起点にして、ビジネス部門にビジネスプロセスの改善点、システムの改善点をフィードバックする役割も求められます。明らかに無駄なプロセスがあったり、利用価値が少ない機能が存在したり、システムがサイロ化していたり、といったことが散見されます。日々の運用管理業務の中で問題点を見つけ、個別最適から全社最適、グローバル最適へとリードしていくことも重要な役割です。

石田氏 そうですね。モード2領域を担当している人なら「ビジネスへの貢献」として、具体的に何をすればいいのかイメージしやすいと思いますが、例えば、基幹システムの運用などモード1領域を担当している人にとっては、「ビジネスへの貢献」と言われても、ビジネスへの距離が遠いためにピンとこないことが多いのではないかと思います。

 しかしそうした領域においても、ビジネスへの“直接的な”貢献ではないかもしれませんが、運用管理を通じた既存業務の改善がビジネスに貢献することは多い。要は、これまでビジネス部門と情シスは一方通行の関係だった。そこを改善して双方向にすることは非常に重要なことだと思います。

柴田氏 これはシステムを通じて自社ビジネス全体を俯瞰できる情シスでなければできない役割でもあります。「情シスの運用業務を効率化」するだけではなく、「ビジネス部門の業務プロセスを効率化する」という視点を持つことも重要です。

先が見えない時代、サービスを迅速に改善し続けるフィードバックサイクルの構築が不可欠

編集部 では、モード1の重要性も踏まえた上で、モード2の取り組みを進める上では何がポイントになるのでしょうか。

柴田氏 新しいビジネスモデル、システムをいかにスピーディに作るかが大きなポイントとなります。ユーザー企業の情シスは、当然ながら外部のベンダーより自社ビジネスの業務知識を持っています。そこを生かして、速く、安く、システムに落とし込んでいく。

 そのためのプロジェクトマネジメントの在り方もポイントです。特にビジネス観点ではゴール設定が難しいため、最初に要件を固めることができません。この点で、ウオーターフォールのアプローチが有効に機能しません。「ビジネスに応じてユーザーの要望は変化する」ことを前提に、リリースした後も変更・改善し続けられる体制が必要です。

石田氏 アジャイル開発やDevOpsのアプローチですね。ベンダーとしては、そうしたビジネス/システム改善のフィードバックサイクルに入っていくことが強く求められていると実感しています。

 ユーザー企業の強みは、自社業務やデータの意味が分かることです。これはベンダーが逆立ちしてもかなわない。一方、ベンダーの強みは、多くの企業の支援を通して、新たなIT基盤の運用やデータの管理・利活用のノウハウを豊富に持っていることです。ユーザー企業とベンダー、それぞれの強みを生かす形で、共にアジャイルやDevOpsのフィードバックサイクルを回していく。そのバランスが重要になってきていると思います。

柴田氏 また「情シスは技術の目利き役になれ」と言われていますが、これだけ変化のスピードが速いとキャッチアップするにも限界がある。そこでユーザー企業とベンダーが共に技術を交通整理して現場に適用していければいい。こうした協働体制の構築は今後非常に重要になってくると思います。

デジタル時代、情シスが持つべき観点、スキルとは何か

編集部 システムのあるべき姿に向けて、富士フイルムICTソリューションズではどんな取り組みをされているのですか?

柴田氏 弊社では、2009年からプライベートクラウドを構築し、全体最適を進めてきました。「ユーザー部門に対し、ITリソースを効率的に提供するためには、どのような機能・サービスが必要か」を検討し、標準化・自動化・効率化を追求してきました。現在は、「いかに意思決定を速くするか」という観点や、散在するデータを連携・一元管理できることが重要と考えています。

 また、富士フイルムグループでは様々な事業を展開していますが、各ビジネス部門がIoTやAIを活用し、イノベーションを創出し、より付加価値の高い製品・サービスを生み出そうとしています。

 ただ、そうしたモード2領域の取り組みや、そこで必要になる情シスの役割をどう実現するかについては、弊社も模索している段階です。例えばIoTのデータは今まで情シスが扱ってきた量とは桁が違いますし、更新頻度も違います。。それらをビジネス部門にリアルタイムに活用できるようフィードバックする必要もあります。データを貯めるビッグデータ基盤を提供したり、クラウドサービスを適材適所で活用したりといった、新たな工夫が必要になってきます。

 また、モード2であればモード1のような信頼性や安定性が求められないというわけではありません。特にIoTの取り組みは、サービス同士を連携させたり、巨大なサービスを安定して運用したりする上で、モード1領域の高度なノウハウが不可欠になってきます。

石田氏 おっしゃる通りですね。また、モノとインターネットがつながるIoTでは、企業システムの世界で使われてきたITと、社会インフラや製造設備などの制御・監視・運用を行う技術、OT(Operational Technology)の両方の知見・スキルが必要になります。そこで弊社では長年ノウハウを蓄積してきたITとOTを融合させたIoTプラットフォームを核に、お客さまとの協創を通じて、高信頼で安全なデジタルソリューションの迅速な構築・提供を目指しています。

 デジタル時代に向けて、情シスがモード2領域のビジネスをどう支えていくのか、IoTに限らず多くの企業が模索している段階だと思います。弊社としてはさまざまなノウハウを基に、お客さまやパートナーとビジネス価値を創出できる協創関係を築いていきたいと考えています。

編集部 では最後に、デジタル時代において、情シスが存在価値を発揮するためのアドバイスをいただけますか。

柴田氏  「攻めと守り」という表現がありますが、システムの在り方をそのように対極的に捉えることは難しいと考えています。例えば前述のように、基幹システムの運用管理の観点から業務課題を見つけ、積極的にフィードバックすることも、守りではなく一種の攻めです。ビジネスの成果に直結するモード2ばかりが攻めではありません。モード1、モード2、双方の領域において、ビジネス部門と一緒にビジネス価値を作り出そうというマインドを持つことが大切だと考えます。

石田氏 冒頭で消費者やユーザーの影響力が増しているとお話ししましたが、今後は消費者の視点、ユーザーの視点で自社のITシステムを見直すことが重要になってくると考えます。モード1、モード2を問わず、「システム管理者が管理しやすいシステム」ではなく、「ユーザーが快適に使えるシステム、ユーザーに求められるシステム」を妥協せずに考えていく必要がある。その上で、具体的に何をしていくのか――われわれベンダーは、そこで多くの企業の情シスと共に、価値を創出していければと考えています。



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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2016年8月31日

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