子どもは絵本やダンスでプログラミングの考え方を身に付ける〜『ルビィのぼうけん』ワークショップレポート特集:小学生の「プログラミング教育」その前に (2)(2/2 ページ)

» 2016年08月10日 05時00分 公開
[齋藤公二@IT]
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プログラミング教育で「創り出す」力を

CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏

 リウカス氏の講演に先立ち、CA Tech Kids 代表取締役社長の上野朝大氏が、プログラミング教育における世界各国の現状と、それに対するCA Tech Kidsの取り組みを紹介。CA Tech Kidsは、サイバーエージェントグループの企業で、首都圏・京阪神・沖縄を中心に全国17都道府県で小学生向けのプログラミング教室とワークショップを開催する。上野氏は、文部科学省の「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」の委員も務めた。

 上野氏によると、小学校のプログラミング必修化している国はハンガリー(2003年)、インド(2005年)、ロシア(2009年)、英国(2014年)、フィンランド(2016年)などがあり、一部で実施する国はイタリア(2004年)、スウェーデン(2010年)、エストニア(2012年)、シンガポールなどがある。日本や米国、韓国、フランスなどが今後導入する予定であり、世界中でプログラミング教育の波が来ている状況だ。

 その上で上野氏は「身の回りのあらゆるものがコンピュータで制御され、あらゆる産業でテクノロジーの活用が欠かせなくなっています。これからの時代に求められるのは、コンピュータやアプリケーションを『使う』だけではなく、『創り出す』力です。子どもたちにまず知ってほしいのは、コンピュータってすごい、コンピュータって面白いということ。その可能性とスケールの大きさを感じ取ることが創り出す第一歩です」と話した。

プログラミングを教えるには、“文法”と“詩”を教える必要がある

 続いて、登壇したリウカス氏は、自身の子ども時代を振り返り、日々接している子どもたちの話を織り交ぜながら、プログラミング教育がどのような意義を持ち、親は子どもにどう接していけばいいのかについて意見を述べた。

「子どもの性格を決めつけない」

「子ども時代から続けてきたことが、実は私がプログラマーになるために必要なものだった」

 リウカス氏がまず指摘したのは、子どもの性格を決めつけないということだ。「子どもは10歳にもなると自分は算数が得意、文章が得意だと決めつけるようになります。その原因の1つは実は親なんです。コンピュータサイエンスは難解で分かりにくいものと伝えてしまうから、子どもはコンピュータが嫌いになってしまう。でも、今日、ご覧になったように、子どもは好きなものに一生懸命取り組みます。コンピュータに楽しんで取り組んでもらうためにはテクノロジーは楽しいものと伝えることが大切なのです」

 リウカス氏自身、そのことに気付いたのは大学に入ってからだったという。子どものころは、哲学が好きで、フランス語が好きで、編み物が上手だった。コンピュータは難解で理解しにくいものだった。しかし、大学で社会科学を学ぶ中で、哲学者で数学者のバートランド・ラッセル氏の考え方に触れ、全てはつながっていることに気付いてハッとしたという。

 「編み物はある手順のループですし、フランス語の動詞の活用はパターンの分類です。ラッセルは数学と哲学を結び付けようとしました。彼の試みは、現在、私たちが行っているプログラミングの作業そのものです。子ども時代から続けてきたことが、実は私がプログラマーになるために必要なものだった。そう思い至ったとき、私にとってテクノロジーはとても楽しいものに変わりました。同時に、プログラミングを教えるには、文法(grammar)だけではなく、詩(poetry)を教える必要があると考えるようになったのです」

「世の中の全ての現実的な課題はコンピュテーショナルシンキングで解決できる」

 ここでいう「詩」とは、コンピュテーショナルシンキングのことだ。リウカス氏はコンピュテーショナルシンキングがどんな考え方で構成されているのかについて、「シーケンス」「パターン」「ループ」「デバッギング」「アルゴリズム」「コラボレーション」「データ」「変数」「関数」など12の要素があると指摘。それぞれが絵本の中でどう表現されているのかについて解説した。

 「ルビィもそうですが、子どもはいたずら好きで、これらを楽しく教えるのは大変です。ループはダンスパーティよね、と教え、それから少しずつ、パターンやアルゴリズムを教えていけばいいのです。また、コンピュテーショナルシンキングには、コラボレーションのような必ずしも技術的ではない要素も含まれます。そこでは忍耐力や想像力で乗り切ることが必要になる場合もあります。大きな問題は小さな問題が1つ1つくっつきあってできている。そのことを子どもに理解させることが最も重要です」

 リウカス氏は、今や子どもを取り巻くあらゆる環境にコンピュータが組み込まれていると話す。電子レンジやリモコン、ハブラシもそうだ。「歯磨きのプログラム」がハブラシに組み込まれることも決して非現実な話ではない。世の中全ての問題はコンピュータが解決すると言っても過言ではない世界になってきたのだ。

 「世の中の全ての現実的な課題はコンピュテーショナルシンキングで解決できる。そうであるなら、コンピュータに触れる子どもたちは、世の中の全ての課題を解決できる存在です。子どもたちには課題を解決するのは自分たちだという気付きを持ってほしい。人間にしかできないものはないか。コンピュータが得意なものは何か。それを知ることで子どもたちがスーパーヒーローのチームになると信じています」

「子どもに、テクノロジーの扉を開いてあげて」

 最後にリウカス氏は、「テクノロジーとは何ですか」という質問に対する、ある子どもの回答として「テクノロジーとは人を愛することができる電力です。遊ぶために使い、話すために使い、チャットするために使う。テクノロジーを使うのは私たちです」という言葉を紹介。「テクノロジーは身近な存在であり、決して恐れる対象ではありません。子どもは、そのことを直感で分かっています。子どもに、テクノロジーの扉を開いてあげてください。興味関心を持って近づけるような環境を整えてあげることが大切です」と訴えた。

特集:小学生の「プログラミング教育」その前に

政府の成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され、さまざまな議論を生んでいる。そもそも「プログラミング」とは何か、小学生に「プログラミング教育」を必修化する意味はあるのか、「プログラミング的思考」とは何なのか、親はどのように準備しておけばいいのか、小学生の教員は各教科にどのように取り入れればいいのか――本特集では、有識者へのインタビューなどで、これらの疑問を解きほぐしていく。



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