ガートナーが、「IT部門は全てのデータを管理すべきでない」と主張する理由ビジネスアナリティクス、ビッグデータの文脈(3)

ビッグデータ/IoTは、企業の情報システム部門にデータ管理上の新たな課題を突きつけている。ガートナー リサーチ部門バイスプレジデント兼最上級アナリストのTed Friedman氏に、どう対応すべきかを聞いた。

» 2016年08月23日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 ビッグデータ/IoTは、企業の情報システム部門にデータ管理上の新たな課題を突きつけている。ガートナー リサーチ部門バイスプレジデント兼最上級アナリストのTed Friedman(テッド・フリードマン)氏に、どう対応すべきかをインタビューした。ここでは、その前半部分をお届けする。

 企業の情報システム部におけるデータ管理は、数年前とは比較にならないほど複雑化したと、Friedman氏は話す。

 「以前、情報システム部門は、データセンターの通路を歩き、点滅するサーバやストレージのインジケーターを見れば、『私の管理すべきデータは全てここにある』と安心できました。ところがIoTでは、データが彼らの目に見えないところで作成され、保管されるようになりました。以前とは完全に逆で、データは顧客の拠点をはじめ、世界中のさまざまな場所に散在します」

――複雑さは利用目的など、いろいろな側面で増しているといえますね。

Friedman氏 まず、収集の仕方、ガバナンスの効かせ方が複雑化している。顧客の拠点にあるデータのプライバシーやセキュリティをどう確保するかという点だ。また、IoTのデータは従来のITシステムには見られなかったコンセプトや形式に基づいています。既存のバックオフィスシステムとの連携をどうするかという問題が出てきます。

 複雑化には、このように複数の側面がありますが、企業顧客から最もよく聞く懸念はセキュリティとプライバシーのリスクに関するものです。データをつなぎ合わせれば、特定の人物の姿がかなり詳細に把握できる時代になったことで深刻さは増しています。

――ビジネス担当者が、情報システム部門の介在なしに顧客とやり取りし、データを活用できる選択肢が増えてきたことも、情報システム部門にとっては新たな課題ですよね。

Friedman氏 ビジネス部署はIT部門の関与を避ける形で活動することがあります。目的は正当であっても、場当たり的なやり方で実行するなら、長期的に見てコストと複雑さはさらに増してしまいます。拡張性、制御性、反復性などが欠けていると、そのうち誰かがコストを払わなくてはならなくなります。

 ですから、やるべきことを素早く実行することと、サステナブルな取り組みにすべく計画性を保つことの間には、何らかのバランスが必要です。これはIT部門の役割になっていくと思います。目的は、必ずしも社内標準を設定したり、コントロールしたりすることではありません。ビジネス部門の人たちが、より安全に、計画性を持って目的を達成できるよう、支援することです。

――どうやってそれを実現できるのでしょうか?

Friedman氏 ビジネス部門との関係改善から始めるべきです。あまりにも多くの企業で、IT部門とビジネスのステークホルダーとの関係が良いとはいえず、『お互いに我慢する』状況になっています。これでは協力は促進されません。IT部門は第一に、ビジネス部門との関係改善に取り組むべきです。

 では、どうすればいいか。まずはIT部門の人が、ビジネスパーソンとして振る舞うことです。自分がビジネス上の目的を理解しているということを、ビジネス側の人たちに分かってもらう必要があります。「自分たちは障壁ではない、協力者であり支援者だ」ということをはっきりさせなければなりません。

 これは昔から言われてきたことです。しかし、焦点が非IT部門のIT活用強化やセルフサービスにシフトしてきたことで、従来よりもはるかに重要になってきています。

――しかし、IT部門がデータのビジネス活用に関する新たな方法を提案するなどできない限り、ビジネス側は自分たちの協力者だと認めてくれないのではないでしょうか?

Friedman氏 それはいいポイントです。関係改善の一環として、IT部門はアイデアを出し、例を提示し、何が可能なのかをビジネスのステークホルダーに示す取り組みをすべきです。

 私は今回来日して、「一般的に企業は、ビッグデータで何をすべきか理解しているか」と聞かれました。「明らかに理解できていない」というのが私の答えです。多くの企業はまだ、価値がどのように生まれるのかを模索している段階です。

 そこで、もしIT部門がファシリテーターとなり、自分たちのアイデアや、自社の属する業種やその他での例を提示することができれば、社内のIT部門に対する認識は良い方向に変わるはずです。IT部門は技術ばかりを語るのではなく、どうビジネスを変えるかについての新しいアイデアをもたらす「触媒」にならなければならないのです。

――一方で、日本だけなのかもしれませんが、システムインテグレーターが企業のビジネス部門に対し、ビジネスのためのITソリューションを直接提案し、推進する例が増えてきているようです。

Friedman氏 それは日本に限った話ではありません。ただし、システムインテグレーターは彼らの顧客企業の社内システムが本当はどうなっているのかを知りません。システムインテグレーターの持ち込むアイデアを、誰かが自社の事業のやり方にマッピングしなければなりません。これはおそらく、IT部門が果たせるもう1つの役割です。

――一般的に、IT部門は、「自社の関わる全てのデータについて管理しなければならない」という考え方を捨てるべきだと思いますか?

Friedman氏 ええ。「IT部門は全てのデータを管理できる」という考えは、2つの点で誤っていると思います。

 1つは、「IT部門はビジネス的な側面からデータを管理することを役割としていない」ということです。「データの格納技術を用意し、セキュリティを確保する」というのは守備範囲です。しかし、データの質を確保したり、価値を引き出したりするのは、IT部門の仕事とはいえません。

 もう1つは、「あらゆる種類のデータを対象に、完璧なデータガバナンスを利かすべきだ」という考えです。私が知る限り、これは最もありがちな誤りです。全データをIT部門が管理しようとすると、莫大な時間とコストを費やす必要が出てきます。非常に価値のあるデータ、あるいは管理しないと何らかの大きなリスクが生じるデータのみを、ガバナンスの対象とすべきです。つまり、IT部門は、自分たちの取り組むべきデータガバナンスの範囲について、理解を深めるべきです。

 IT部門は、ビジネスのステークホルダーによる事業の遂行を支援するために、インフラおよびツールを提供する役割を果たすべきです。

 ガートナーでは、「データのスチュワードシップ」という言葉で、データのキュレーションあるいは管理に着目すべきだと主張してきましたが、これはビジネス上のトピックです。ITチームではなく、データがビジネス行動にどんな影響を与えるかを理解する人たちの仕事です。この意味でのガバナンスはビジネス側の役割です。

 IT部門はこうしたビジネス側のガバナンスを助けるツールを提供することができます。データガバナンスは、ビジネス側の人々とIT部門との共同作業なのです。

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