ロボットが人間と自然に話すための技術――音声認識、音声合成、知的エージェント、感情認識、感情生成ロボットをビジネスに生かすAI技術(4)(2/2 ページ)

» 2016年12月07日 05時00分 公開
[神崎洋治]
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ロボットと「感情」

 ソフトバンクグループで、人工知能関連の製品やサービスとして最も知られているのはコミュニケーションロボット「Pepper」です。Pepperはソフトバンクロボティクスが開発・販売しており、会話に関する様々な処理をクラウドAIで行っています。また、目の前にいる人を認識し、声のトーンや表情から感情を読み取ったり、性別や年齢を推定したりすることができます。

Pepperの「感情生成エンジン」と「感情認識エンジン」

 Pepperには、重要な人工知能技術が搭載されています。それは、ロボット自身が感情を持つ感情生成エンジンです。

 IT業界で注目されている人工知能関連技術にはいろいろありますが、

  • 知恵や知識を自律学習したり、分析や解析を行ったりするタイプ
  • 人間の感情や感性、感覚を学習するタイプ

に大別する見方があります。Pepperの感情生成エンジン(感情エンジン)を開発したcocoroSBによれば、前者は人間の脳で言うと「大脳新皮質」に当たる部分で、いわゆる「万能型の人工知能」、後者は大脳辺縁系に当たる部分で「人工感性知能」と呼び、主に人間の感情表現を模倣した分野の研究となります。

 人間のように振る舞い、人間と同様に自然会話を行うためには、後者の大脳辺縁系の研究と開発が、とても重要な意味を持ちます。同社では感情生成エンジン、自然言語処理雑談エンジン、物体認識エンジンの3つに加えて、傘下のAGI(Advanced Generation Interface Japan)社が担当している感情認識エンジンの技術を持ち、Pepperに搭載しています。家族向けのPepperでは、この機能を家族との親和に利用することができます。一方、ビジネス向けでは、来店客を性別・年齢別に集計したり、紹介した情報に対する顧客の反応(表情解析)を読み取って、この情報が効果的だったかどうかを評価したりすることができるので、広告やマーケティング施策としても期待されています。

 これらのエンジンは、東京大学大学院医学系研究科特任講師、科学者・数理研究者の光吉俊二氏の「感情地図」の考えに基づいています。

 「感情地図」は、心理学辞典などから抜き出した約4500語の感情表現を、英訳できた限界である223のジャンルにわけ、それを円形のダイアグラムにまとめたもので、さらに、脳内伝達物質、ホルモンなどと情動の関係を、論文調査によりマトリックス化しています。

 一般販売向けPepperには、AGIの感情地図を元にした感情生成エンジンと感情認識エンジンが搭載され、ビジネス向けPepperには感情認識エンジンが搭載されています。

 また、同社はIBM Watsonの日本語化と販売で提携していて、IBM Watsonのビジネス市場の一翼を担っているだけでなく、IBM WatsonとPepperを接続して、コミュニケーションロボットの対応や情報提供をより高度に進化させる可能性をうたっています。

 ソフトバンクグループとしては、Pepperのほかに2016年4月にソフトバンク コマース&サービスが人工知能型学習エンジン「MUSE」を活用した小型のロボット「Musio」(AKA LLC 社製)の販売・流通における提携を発表しています。Musioは日本国内向けには英語学習用のロボットとしての利用が想定されています。

Pepperに搭載されている感情地図 CRH、ドーパミン、ノルアドレナリン、ACTH、コルチゾール、セロトニンなど7種類の内分泌をシミュレートし、ロボットの感情を生成する。

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神崎洋治著
秀和システム 1600円(税別)
2016年3月、Googleの開発した人工知能(AI)が、囲碁のトップ棋士を破ったというニュースが流れ注目を集めました。実はいま、囲碁に限らず、さまざまな分野で人工知能の技術が急速に導入されはじめています。本書は、人工知能の関連技術、特に機械学習やニュートラルネットワークの仕組みなどの基礎知識や最新情報をわかりやすく解説します。AIの主要プレイヤーであるIBMやMicrosoft、Googleなどのビジネスへの活用事例も紹介します。

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