アイデアとテクノロジーで社会の課題を解決する5つのCivicTechサービス特集:“業種×Tech”で勝つ企業、負ける企業(2)(2/2 ページ)

» 2016年10月20日 05時00分 公開
[柴田克己@IT]
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方向音痴でも迷わない道案内を簡単に作成する「KULKU」

「KULKU」をプレゼンした合同会社フィヨルド 町田哲平氏

 スマホの登場以降、Googleマップをはじめとする「地図アプリ」は多くの人にとって日常生活の「必需品」となった感がある。外出時に、スマホを忘れると「目的地にたどり着けるか自信がない」という人もいるのではないだろうか。

 では「地図アプリさえあれば、絶対に迷わない」のかといえば、実際にはそうでもない。アプリ上で提供されている地図の情報が古く不正確なものだったり、目的地がビルの場合はビル名や入り口の位置が分かりづらかったりすることで「地図があるにもかかわらず迷ってしまう」という状況は起こり得る。実際、会社や店舗、イベント会場へのアクセス方法を示すために、最寄りの駅などからの道順を「ストリートビュー」などの画像を切り貼りして、作った「道案内」をWebサイトやブログなどに掲載しているケースも散見される。

 こうした「道案内」を、多くの人がより手軽に作り、ウェブ上で共有できることを目指したサービスが、合同会社フィヨルドによる「KULKU」だ。

 「KULKU」での道案内の作成は、自分で画像を用意して切り貼りするよりも簡単だ。Googleのストリートビューを利用し、最寄りの駅などから目的地までの間にある目印となる個所を画像として切り出す。切り出した画像の上に進行方向を示す「矢印」や、補足の情報を「メモ」として加えることで道案内を作成し、そのURLを共有できる。

 フィヨルドでは、実際にKULKUで作成した地図を基に、ユーザーが迷わずに目的地にたどり着けるのか、さらには、KULKUでの案内図の作成が多くの人に簡単にできるのかを実証するためのテストを実施し、いずれも良好な結果が得られたとしている。

 事業化に際しては、共有する「道案内」上への広告掲出、ならびに広告を非表示にできる「プレミアムアカウント」の提供による収益を想定しているとした。

「実験機器」と「使いたい人」のマッチングでコラボレーションを推進する「Co-Labo-Maker」

チームCQ 古谷優貴氏

 「売りたい人」と「買いたい人」、「何かをしてほしい人」と「やりたい人」といった形で、「需要」と「供給」を効率的にマッチングさせるサービスは、ネットとの相性が非常に良い。こうした「マッチングサービス」は、既にオークションやクラウドファンディングといった形で広く展開されておりユーザーを集めているが、特定のテーマに関心を持つ人のみをターゲットとしたニッチな分野には、まだ新規参入の余地が残されていそうだ。

 チームCQによるMVP「Co-Labo-Maker」は、研究分野で用いられる「実験機器」を、それを利用したい「研究者」と結び付けることで、イノベーションを生みだすコラボレーションを促進していくことを目指したサービスである。

 発表者の古谷優貴氏は、総合化学メーカーで材料系の研究開発や事業開発に携わっていると言い、「研究をしている中で感じていた問題点への解決策をアイデアとして提案した」と話す。

 研究に必要な分析装置のような実験機器は、一般に極めて高価なため、企業や大学などの組織に所属している研究者でなければ、通常は利用することができない。一方で、資金的に恵まれている研究室には多くの実験機器があるが、むしろ持て余す状況が起こっているという。

 「Co-Labo-Maker」は、研究室や企業の研究組織に所有する「実験機器」を登録してもらい、それらを使いたい研究者がウェブ上のサービスで気軽に利用できるようにするマッチングサービスとなっている。このサービスが実現すれば、機器を持たない個人や財政的に厳しい研究室が比較的簡単に実験を行えるようになり、実験機器を持て余している研究室は、設備稼働率を上げながら収益(使用料)も得られるようになる。

 「結果として、狭い専門分野に閉じこもる人が減り、頻繁に研究者間のコミュニケーションが起こるため、よりイノベーションが起こりやすい環境になる。個人の研究者との交流もできることで、裾野も広がるのではないか」(古谷氏)

 研究領域において「横の交流」を活性化させる取り組みは、海外では「Schience Exchange」のような形で生まれて活発になりつつあるが、日本ではあまり浸透していないという。古谷氏は、こうしたプラットフォームに対するニーズについて事前にリサーチを行っているが、機器を利用するゲスト側では「活用したい」という意見が大勢を占める一方で、機器を提供する企業、研究室側では「賛否両論」だったという。

 「大学による設備開放も重要だが、そこに民間企業を巻き込んでプラットフォームを作っていくことが重要になってくる。企業の場合は、当然、ビジネス上の競争があるので、全てをオープンにしていくことには抵抗もあるだろうが、オープンイノベーションの流れがある中、今後はスピードで海外勢に勝てなくなる可能性の方が高くなってくるだろう。そうした危機感を共有した上で、Co-Labo-Makerでは研究開発の民主化を目指していきたい」(古谷氏)

地域の課題を「ゲーミフィケーション」で解決する「まちかどギルド」

西村治久氏

 新潟県を拠点に活動するフリーのWebプランナー、西村治久氏が提案したのは、日本中、どんな地域にもある「小さな課題」の解決を「ゲーミフィケーション」の手法を取り入れて活性化する試み「まちかどギルド」だ。

 2011年にIT関連企業を退職した西村氏は、約3年にわたって全国各地のコワーキングスペースなどを回り、2015年5月に新潟県にあった空き家を再生して「ギルドハウス十日町」を開設。現在も、そこを拠点とした活動を行っている。「まちかどギルド」は、全国を回り、その地域の人々と交流した経験をもとに、「まちでの支えあい」を増やすことを目指して生み出したアイデアだという。

 各地域には、求人情報サイトなどには載らない「小さな用事」が数多くある。それは例えば、「町内行事の飾り付け」「商店街のお店で一日限りのバイト」「独居老人の買い物代行やおしゃべり相手」「草むしりや雪かき」「農作業の手伝い」など。こうした用事を、これまで町内や商店街との接点がなかった学生、地域外から転居してきた家族、空き時間をまちのために使いたいと考えている人がスマホアプリを通じて引き受けることができるのが「まちかどギルド」の基本だ。

 ユニークなのは、この「用事を引き受けて実行する」という流れを、ロールプレイングゲームの「クエスト」になぞらえている点だ。プレイヤー(利用者)はアプリを通じて、引き受けたい用事を見つけたら、その地域に設定された「ギルド」に足を運び、実在の「ギルドマスター」に会って、クエストを受けることになる。クエストを受けたプレイヤーは、その場所でクエストをこなし、達成すれば、あらかじめ設定された何らかの「報酬」と「経験値」を得られる。経験値をためてレベルが上がれば、より上位の「クエスト」にチャレンジできる仕組みだ。

 地域に存在するリアルな課題や人とのつながりを、ゲーム的なメタファで表現することで、若い世代が楽しみつつ、気軽に「まちづくり」に参加できることを目指しているという。

 ギルドマスターには、地域の課題を探し出しての「クエスト」設定、「依頼人(まちの人)」と「受注者(プレイヤー)」との間を取り持つ仲介者としての役割など、重要な役割が与えられる。ギルドマスターの任命については、実際に多くの地域に足を運び、そこで暮らす人々との交流を持ってきた西村氏の人脈によるところが大きいという。

 西村氏が、このアイデアをクラウドファンディングサイトで公開したところ、全国で2000人を超える賛同者を得たという。西村氏は「アイデアはあり、多くの賛同が得られている一方で、実際のアプリケーションの開発、インフラの運用に当たってはリソースが足りていない状況。ぜひ、形にするための力を貸してほしい」と話した。

3つの受賞作品が決定――最優秀賞は「Co-Labo-Maker」

 5チームによるプレゼンテーション後に、審査結果が発表された。受賞作は以下の通りとなった。

  • 最優秀賞:Co-Labo-Maker
  • 優秀賞:Monovation
  • 特別賞:まちかどギルド

 受賞作品には賞金として、最優秀賞100万円、優秀賞50万円、特別賞30万円が贈られた。また、主催のSBメディアホールディングスおよびギルドワークスにより、今後、事業化支援やサービス化、商品化の検討が行われるという。

 最優秀賞を受賞した「Co-Labo-Maker」の古谷氏は「このアイデアは、MVP Awardが実施されていることをきっかけに出したもの。MVP化していく中で、いろんな偶然が重なり『これを全力で形にしろ』と後押しされているかのように感じている。この受賞を励みに、サービスの実現を進めたい」と話した。

特集:“業種×Tech”で勝つ企業、負ける企業〜ビジネスの常識が変化する中で、どう生き残るか〜

 今回のイベントは、MVPを募集していることもあって、ベンチャー企業向けとしてとらえられ、「大企業では、参考にならない」と思うかもしれない。しかし、ITでビジネスを推進するデジタル時代においては、企業内ベンチャーを作るぐらいのマインドを持って新規ビジネスを興す気概が求められている。企業の規模も新旧も超えて創造性と技術力で勝負が決まる――それが「業種×Tech」というデジタルトランスフォーメーション時代の戦場なのだ。

 特集の次回は、企業にインタビューを行い、より具体的な「業種×Tech」の事例を紹介する。



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