「データストーリー」とこれに基づく議論が、適切な意思決定に直結するGartner Insights Pickup(20)

セルフサービスBIツールやアナリティクスプラットフォームのユーザーは、データと分析に基づき、容易に「データストーリー」を語れるようになってきた。これを生かすことで、組織は適切なビジネスアクションを機動的に実行しやすくなってきた。

» 2017年05月19日 05時00分 公開
[Christy Pettey, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 「世界最大の都市で8月31日、致死性の高い病気の患者が多数発生。その後3日間で発生地域とその近隣で127人が亡くなった。翌週には新規発症の報告は減ったものの、75%の住民が発生地域から避難している」

 「9月7日に開かれた市議会に、独自に現状の分析を行っていた医師が出席し、未検証ながらも『病気の原因は一部の給水の汚染』とする見解を発表した。その根拠は、足を使って集めた1次調査データだ。現地の住民への聞き取りを重ねて得たものだった」

 「取るべき対応について市当局の方針は定まっていない。一部の給水を止めるか、病気の流行は自然に収まると考えるか、あるいは別の措置を講じるか」

 この物語ではこの後、データが大きな役割を果たす。これは1854年に英国ロンドンでコレラが流行したときの実話だ。ジョン・スノウ博士は“データストーリー”を語ることで、対策として一部の給水を停止するよう市議会を説得することに成功した。そのデータストーリーには、時間、場所、量、トレンド、重要性、割合に関するデータポイントが含まれている。さらにこのストーリーには共感を呼ぶ工夫が凝らされ、筋書きがあり、ヒーローもいる。最後は問題を問い掛け、選択肢を提示することで締めくくられている。

 2017年3月に米国で開催されたGartner Data & Analytics Summitにおいて、ガートナーのリサーチディレクターを務めるジェームズ・リチャードソン氏はセッションの中で、データストーリーテリングとは何か、データが氾濫するデジタル世界でなぜ重要なのかを説明した。

 「企業がビジネスアナリティクスで得た洞察を伝える方法は進化している。中でも目立つのが、いわゆるデータストーリーテリングの利用が拡大していることだ。このトレンドは、現在広く普及しているビジネスインテリジェンス(BI)のセルフサービスモデルの延長線上にある。データの探索的なヴィジュアライゼーションと語りの技術を組み合わせて洞察を伝え、意思決定者を引き付けて支持につなげるものだ」(リチャードソン氏)

 データストーリーは、通常、一連の対応するヴィジュアライゼーションを通じ、データが時系列的になぜ、またどのように変化したか、探索し解説する。ほとんどの場合、ヴィジュアライゼーションはデータストーリーの主要な要素だが、両者は別物でもある。データストーリーは常に、語りの流れに沿ってデータと時間(またはイベント)をリンクさせなければならない。これに対し、多くのヴィジュアライゼーション手段は、ある一時点におけるデータを示すにとどまる。

 セルフサービスBIやアナリティクスプラットフォームのユーザーは、魅力的なデータストーリーの作成をサポートするさまざまな機能にアクセスできるようになってきた。こうしたユーザーが利用している多様なヴィジュアライゼーション手段には、グラフ(棒/帯、折れ線/面、円など)、地理マッピング、各種の高度なチャート(ヒートマップ、ローソク足チャートなど)がある。時間的な順序や考え方の順序に従いヴィジュアライゼーションを利用すれば、知見やトレンド、隠れたパターンを発見するのに役立つ。

 「データストーリーでは、ヴィジュアライゼーションと語りの流れが組み合わされる。この組み合わせによって、人々がデータを表面的に見ることなく、掘り下げて分析するおぜん立てができる。データストーリーテリングの目標は、クリティカルシンキングを促進し活性化させることで、データの探索によって洞察が得られるようにし、それをビジネスの意思決定につなげることにある」(リチャードソン氏)

データストーリーが信頼性に欠ける場合も

 場合によっては、データストーリーテリングを利用することで偏見や誤りが修正されずに残ってしまい、ビジネスメリットが損なわれることもある。ストーリーテリングツールや技術が出回り使いやすいことから、一部のユーザーが適切な語り方がどのようなものかや、自分のデータ解釈に偏見がある可能性を理解することなく、ストーリーに一連のビジュアルを組み込んでしまう恐れがあるからだ。

 「人間のストーリーテラーの語りには必ず主観が入る。誰もが偏見を持っているし、間違えることもあるかもしれない。偏見の危険を自覚し取り除くことが、データストーリーをうまく活用する上で不可欠だ。データストーリーについて協力的に議論し、クリティカルシンキングを適用することで、企業はデータストーリーを、意思決定プロセスのための、安全かつ有効なツールにできる。議論を行うこと自体が、データとその本当のストーリーに人々を引き込むのに役立つ」(リチャードソン氏)

出典:Use Data and Analytics to Tell a Story(Smarter with Gartner)

筆者  Christy Pettey

Director, Public Relations


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