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» 2017年06月05日 05時00分 公開

基幹業務のSoRはどこまでクラウド化できるのか(2):「ハイブリッドIT」におけるアーキテクチャとその意義、変革への3ステップ (2/2)

[本郷啓輔, 徳山衛,日本アイ・ビー・エム株式会社]
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クラウドマイグレーション&モダナイゼーションの検討ステップ

 前述の2つのポイントを踏まえると、クラウドマイグレーション&モダナイゼーションに必要なステップは以下の3つです。

図5 検討・実行ステップ

【ステップ1】クラウド化戦略策定&構想策定

 初めのステップでは、現在のビジネスおよびアプリケーションの全体を俯瞰し、クラウドとの親和性やビジネスの成長性などを評価しつつ、クラウド活用を踏まえた将来のビジネスおよびアプリケーションの構想を策定します。下記は【ステップ1】の具体的な活動です。

  • 企業内の全アプリケーションを対象に、クラウド化に適しているかどうかの簡易アセスメントを行う
  • ビジネス戦略やアプリケーション分析結果を基にマイグレーションおよびモダナイゼーション対象の候補を選定する
  • クラウドとの親和性を分析する。アプリケーションがどのようなクラウド形態に適しているかを判断する(「SaaS、PaaS、IaaSのどれを活用するか」「パブリッククラウドとするかプライベートクラウドとするか」など)
  • クラウドを活用する領域のモダナイゼーションを検討する(AI、IoT、API活用、エコシステム形成、異業種連携などを含む)
  • マイグレーションを検討する。移行方式の概要を決定する(「現状のまま移行すべきか」「OSやミドルウエアのバージョンアップや変更を行うか」など)
  • 上記を踏まえた全社レベルのハイブリッドITアーキテクチャを策定する
  • 概算レベルでの投資対効果(ROI)を算出し、クラウド活用のための投資の是非や適用のレベルを決定する

 ここでは、前述のマイグレーションとモダナイゼーションを以下の視点で考えていくことが重要です。

  • クラウド活用によるTCO削減を達成するためのマイグレーション
  • ビジネスに寄与するアプリケーションへの投資としてのモダナイゼーション

 投資対効果の判断のための活動として、「現在のランニングコスト」「更改、移行のための一時費用」「クラウドにおけるランニングコスト」を比較し、実行による期待効果を試算します。

 TCO削減の側面においては、「クラウドへの移行に伴うデータセンターの廃止や用途変更などの設備面の要素」「重複あるいは非活用システムの統廃合」「各種ライセンスの最適化」「運用の効率化」「保守期限対応に要する費用」といった要素を盛り込むことが重要です。

 またモダナイゼーションにおいては、「クラウドを活用した新たなビジネス実現のための投資」という側面を考慮に入れ、実現による「新たなビジネスベネフィット」(売上、利益、価値、評判など)を考慮しつつ投資の是非を判断します。

【ステップ2】アプリケーションの可視化&計画策定

 次のステップでは、前述のステップで洗い出されたクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの対象システム群に対して、実際の移行に向けた詳細調査と移行計画の策定を行います。下記は【ステップ2】の具体的な活動です。

  • 対象となるアプリケーションの実態調査と【ステップ1】における決定事項の検証
  • アプリケーション間の依存関係や関連性の詳細調査
  • アプリケーション間の関係に基づくグルーピングと移行の優先順位付け
  • 移行先となるクラウドプラットフォームの決定と概要設計
  • マイグレーションおよびモダナイゼーションの方式および使用技術の具体化
  • 移行に伴うアプリケーション改修の要否、内容、テスト方針の整理
  • アプリケーション設計が不明な場合の設計調査やソースコード解析
  • 移行対象アプリケーションのアーキテクチャ策定と概要設計
  • 各種前提や制約、非機能要件の整理
  • 移行計画の策定
  • 移行の概念実証(PoC:Proof of Concept)と結果評価

 ハイブリッドITでは、「クラウドと従来型IT環境に、それぞれどのアプリケーションを配置し、双方をどのようにつなぐか」のデザインが特に重要です。その前提として、「アプリケーション同士が現在どのような関係を持っているか」を詳細に調査、分析することがポイントです。アプリケーション間の依存関係や関連性は、移行計画の立案の際においても、「移行対象アプリケーションのグループ化や優先順位付け」「移行の過渡期に発生する通信」といった検討テーマのインプットとなるからです。

 このステップでは、各種の調査、解析ツールや移行ツール群を用いて、いかに効率的に作業を推進、計画できるかも重要です。

【ステップ3】マイグレーション&モダナイゼーションの実行

 【ステップ3】では、移行計画に基づき、選定された対象システム群を移行していきます。【ステップ2】の計画策定の中で、概要レベルの方針策定は終えていることが理想です。

 このステップは、オンプレミスの移行案件、システム更改案件とほぼ同様の活動ですが、ハイブリッドIT化、クラウド化という意味では、下記のポイントが重要となります。

  • クラウドとオンプレミス間、特定のクラウド間の接続部分のアーキテクチャ(実現方式、ネットワーク構成、API連携の考慮など)
  • システム間のインタフェースの詳細把握(データ量、頻度、鮮度、フォーマットなど)
  • ツールを活用した移行のパターン化、自動化
  • テスト計画(テスト観点、方式、自動化などの効率化手法)
  • 運用の効率化(インフラのコード化など)の検討
  • 全体統括、標準、ガバナンスの計画

3つのステップを一度ではなく継続的に実施していくことも重要

 上記3ステップにより、ビジネスとアプリケーションの裏付けを持ちながら、全体最適の視点でクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの計画と実行が可能となります。

 これらの一連の活動は、クラウドへの移行時に一度だけ行うものではなく、将来のシステムのことを考えて継続的に実施していくものです。そのため、後続のシステム群への横展開を考慮した各種パターン化や自動化、アセットや知見の蓄積、継続的な見直しといった活動も重要です。

図6 検討・実行ステップと活動内容の例

クラウドマイグレーション&モダナイゼーションの具体例

 クラウドマイグレーション&モダナイゼーションの実行イメージを持ってもらうことを目的に、海外における事例を幾つか紹介します。海外においては、既に業界・業種を問わず数多くの事例があります。

 欧州の金融業では、システム更改の検討に合わせて全社IT環境の見直しを実施し、クラウドマイグレーションおよびモダナイゼーションの候補選定と、それに基づく移行を推進している大手企業があります。

 製造業では、企業統合に際してクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの取り組みを適用し、クラウド活用と同時に、システムの統廃合、運用の効率化、組織改変などを総合的に実施し、TCOの大幅な削減とクラウド化を達成した大手企業が存在します。

 通信業では、サーバ2000台からなる200前後のシステム群をハイブリッドIT化し、併せてシステム開発に関わる一連の活動を全社レベルでパターン化、自動化することで大幅なTCO削減を達成している大手企業が存在します。

 クラウドを活用したビジネス戦略、活用する技術やプラットフォーム、自社のIT成熟度などによって、適用の形は多岐にわたりますが、クラウドを軸とした全社レベルでのビジネスとアプリケーションの構造改革によって成果を挙げている事例が数多く登場してきていることは見逃せない事実です。

 日本においては、現時点ではまだ多くはないですが、昨今の金融業界におけるAPIバンキング、地銀共同化によるエコシステム形成、ブロックチェーンの実証実験といった事例の増加などを鑑みても、今後、同様の動きが活発化していくことが予想されます。

次回は、ハイブリッドITにおける「運用管理」の考え方

 第2回では、ハイブリッドITにおけるアーキテクチャの考え方とその意義、そしてハイブリッドITへの変革の鍵となるクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの手法について解説しました。

 既存システムのクラウド移行は、多くの企業のIT戦略において、今最も注目されているテーマの1つです。そして、その背景を受けて、IBM、アクセンチュア、富士通、日立製作所、NTTデータなど、大手SIベンダーや、主要パブリッククラウド(AWS、Azure、Bluemixなど)のサービスパートナー企業を中心に、クラウド移行のためのさまざまなオファリングが発表されています。

 ハイブリッドIT時代に必要となるスキルや技術は多岐にわたるため、基幹システムを含めたハイブリッドIT化とクラウドを活用した新たなビジネスの実現を目指す企業にとっては、自社の戦略や資源、ITケイパビリティなどを踏まえて、最適なITパートナー企業を選ぶことも重要なポイントとなるでしょう。

 次回は、ハイブリッドITにおける運用管理の考え方について解説します。

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