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» 2017年08月03日 05時00分 公開

超入門「クラウドマネージドサービス」――オンプレミスの運用・保守との違い、利点、注意点 (2/2)

[秋山孝之,日本アイ・ビー・エム株式会社]
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オンプレミスとクラウドにおける運用・保守の課題

 近年、クラウドを利用する企業が増加傾向にあり、それに伴って運用・保守サービスの在り方も変わってきています。オンプレミスとクラウドを比較することで、運用・保守サービスにおけるそれぞれの課題を整理します。

 図6にオンプレミスおよびクラウド(IaaS)における運用・保守サービスのメリット、デメリットの比較図を示します。

図6 オンプレミスとクラウドにおける運用・保守サービスのメリット・デメリット

オンプレミスにおける主な課題

 従来、オンプレミスにおける運用・保守作業においては、企業のIT部門の要員がアプリケーション、ミドルウェア、OS、インフラなど全てを管理する必要があり、ユーザー対応や老朽化対応プロジェクトなどに忙殺されていました。

 一方で、競合他社との差別化を図る経営戦略立案および、それをITにより下支えするような長期的なIT計画立案など十分な時間をいかに捻出するかが課題でした。

クラウドにおける主な課題

 クラウドにおける運用・保守作業においては、クラウド提供ベンダーの事情によるリスクが存在します。

 例えば、システムメンテナンスなどによりクラウドサービスが停止する場合など、クラウド提供ベンダーの都合により利用者側の業務が影響を受ける危険性があります。そこには、クラウド提供ベンダーにおける人為的なミスや障害などによる計画外停止も含まれ、その対応の遅れが利用企業の事業にまで影響する場合もあります。

 また、クラウド提供ベンダーと締結されるSLA(Service Level Agreement)についても留意したいポイントがあります。例えば、あるクラウド提供ベンダーでは、可用性や稼働率などのサービスレベルをクリアできなかった場合、そのペナルティーとして企業のビジネスの保証を行うのではなく、「SLAをクリアできなかった影響部分の時間のみを、翌月のクラウド利用料から差し引く」といった内容のものが多くなっています。ここで注意したいのは、クラウド提供ベンダーとのSLA締結が非機能要件の可用性を保証するものではなく、「可用性を担保する設計責任はクラウド利用企業側にある」ということです。この点をしっかりと認識する必要があります。

 ここまでオンプレミスおよびクラウドにおける運用・保守の課題について述べてきましたが、それぞれメリット・デメリットがあることが分かります。

クラウドに求められるシステム運用・保守の方向性と解決策

 クラウドマネージドサービスの方向性について整理したものを図7に示します。

図7 クラウドマネージドサービスの方向性

 図7では、アプリケーション種別を大きく「事業(業務)コアシステム」「事業(業務)ノンコアシステム」「バックオフィス系システム」に分類しています。

 クラウドマネージドサービスの観点から、事業継続性や事業の重要度に応じて事業(業務)システムを停止させないか、もしくは一時的に停止させても事業上あまり影響のないものの識別が重要です。

 次に、アプリケーション種別ごとにあるべき解決策の方向性について考えます。

「事業(業務)ノンコアシステム」「バックオフィス系システム」のクラウドマネージドサービスの方向性

 これらのシステムは、事業継続性がそれほど高くないため、クラウド提供ベンダーが提供するクラウドマネージドサービスをフル活用すべきです。なぜなら、前述した通り、企業のIT部門の要員が膨大な運用・保守作業から解放され、余剰時間が生まれることで、その時間を競合他社との差別化戦略立案などに割くことが可能になるからです。

 さらにクラウドを最大限活用することで、クラウドの最大のメリットである従量課金型の効果により、さらなるランニングコストの削減が可能となります。万が一、クラウド停止によりシステムが停止したとしても、事業継続性がそれほど高くないシステムであるため、許容の範囲内と割り切れます。

「事業(業務)コアシステム」のクラウドマネージドサービスの方向性

 このシステムの特性は、事業(業務)と密接に関連しており、基幹系に代表されるミッションクリティカルであることです。そのため、ここはコストをかけてでも24時間365日運用などの事業システムを継続利用する必用があります。

 オンプレミスとクラウド環境共に冗長化構成にし、稼働系が停止した場合でも、待機系を稼働すれば事業継続が可能といった構成を取ります。この場合、オンプレミスとクラウド環境の複合(第1回の記事で述べた「ハイブリッドIT」)的な運用・保守サービスの適用を前提に考えるべきです。

ハイブリッドITにおける目指すべきマネージドサービスとは

 今まで述べてきた通り、事業(業務)の重要度を踏まえ、それに合わせたマネージドサービスを適用することが重要です。図8に「ハイブリッドITにおける目指すべきマネージドサービスの全体像」を整理しました。

図8 ハイブリッドITにおける目指すべきマネージドサービスの全体像

 図8に示す「事業系コアシステム」は、いわゆるハイブリッドITの形態で、オンプレミスの高可用システムやクラウドの冗長化などで構成されます。一方、「事業系ノンコアシステム」「バックオフィス系システム」は、クラウドシステムとしてSaaSなどを積極的に利用します。

 この際、クラウド提供ベンダーが提供するマネージドサービス、オンプレミスの運用・保守作業および、マルチクラウド(例:AWS、Azure、Bluemixなどの組み合わせ)のマネージドサービス、これら全体を含めた統合的なマネージドサービスを適用することが重要になります。

 理由は、従来はオンプレミスやクラウド提供ベンダーごとに運用・保守体制が複数構築されてきましたが、それらを統合的なマネージドサービス体制として集約することで、運用・保守の効率化向上やコスト削減に大きく寄与することが可能となるためです。

 このような統合的マネージドサービスは今後求められるのは間違いありませんし、既にそのようなサービスの提供が始まっています。

 以上のように見てくると、アプリのSLAを担保しながらコスト効率良く運用するためには、アプリケーションの特性に応じて最適なシステム運用の在り方が変わってくることがご理解いただけたのではないでしょうか。このことがビジネス展開のスピードや安定性、コスト効率を支えている以上、システム運用・保守サービスはまさしく経営に寄与するといえるでしょう。

システム運用・保守サービス業務は、“経営”に寄与する

 この「システム(アプリケーションとインフラの両方の)運用・保守サービス業務は、“経営”に寄与することを忘れてはいけない」という点については、あえて強調しておきたいポイントです

 一般的にシステム運用・保守サービス業務は、アプリケーションやインフラを運用管理するものですが、そのアプリケーションがなぜ存在するのか、プロジェクト発足の背景や目的についてサービス業務を担う側でも理解していることが理想です。つまり、アプリケーションは会社の経営や事業の課題を解決するための手段の1つであり、売上増もしくは、生産性向上など原価低減により利益を増やすために具現化されたものだということです。

 そして、そのアプリケーションは、経営や事業の観点から“安定的”かつ“確実”に稼働することが前提になります。これは、SLAや非機能要件によって定量的な指標で示されることもありますが、クラウドへ移行する/しないという判断基準としても重要になってくるからです。

今後求められるクラウドマネージドサービスの姿

 最後に「今後求められるクラウドマネージドサービスの姿」を図9に示します。

図9 今後求められるクラウドマネージドサービスの姿

 今までの運用・保守サービスは、ヘルプデスク以外は一極集中型で、定常運用、非定常運用を含めたほぼ全ての運用・保守作業を実施してきました。特に非定常運用業務は、スキルの高い要員を維持するために多大なるコストが必要でした。しかし、クラウド時代においては、アジャイル開発やDevOps(開発と運用のシームレスな連携手法)を適用し、それを支えるオープンソースの運用・保守ツールを利用することで、革新的なクラウドマネージドサービスが可能となります。

 従来、特定ベンダーから提供される運用・保守ツールは、製品や実装を理解している技術者が不足しており、その技術を保有するベンダーの都合によりコストが跳ね上がることが往々にしてありました。しかし、オープンソースの運用・保守ツールを適用すれば、それらを使いこなす技術者が世界中におり、その技術者は世界中の拠点から遠隔で運用・保守を行えるため、需要と供給の関係でコストが大幅に削減されるというメリットがあります。

 ビジネス環境のグローバル化が進み、国際競争の中で柔軟性、機敏性、効率性を求められる状況下では、このようなクラウドにおけるコントロールセンター型の仕組みを持っているベンダーにマネージドサービスを依頼することで、下記のような経営上の課題解決や効果向上に寄与することが可能であると考えます。

  • 企業戦略の迅速な具現化が可能
  • コスト改善や効率性向上が可能
  • 安定かつ確実な運用の実現が可能

次回は、レガシーマイグレーションについて

 本連載第3回では、クラウドに求められる運用・保守サービスについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。

 世の中には、さまざまなクラウド提供ベンダーからソリューションが提供されており、利用するクラウド提供ベンダーが1社ということはなくなりました。企業において、適材適所に分散配置されたマルチクラウド環境を、一元的に運用・保守する必要性も高まってきています。実際に、マルチクラウド環境を統合管理できるソリューションも市場には出始めており、今後はマルチクラウド環境でも安定・確実な運用・保守を行えるような方向へ進化していくと考えられます。

 これからクラウドの活用がより加速することは間違いありません。このような流れの中で、今後、世の中をリードする企業は、計画フェーズから運用・保守フェーズまで一貫したソリューションを提供している企業と協業することで、守りのITから攻めのITへ変革し、イノベーションを起こしていくと期待されます。

 次回は連載最終回です。SoRの基幹系がクラウドへと移行されていく中で、メインフレームに代表されるレガシーシステムをどうしていくべきなのか、レガシーマイグレーションについて考えます。

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