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» 2017年08月07日 05時00分 公開

プロエンジニアインタビュー(7):教えて! キラキラお兄さん「テクノロジーで花業界をぶっ壊せますか?」 (3/4)

[星暁雄,@IT]

人生で初めて「諦めたくない」と思った

 赤字がかさみ、「もう店を閉じよう」という話が出始めた。

 今までの小尾さんだったら、「それも仕方がない」と受け入れたかもしれない。しかし、このときは違った。小尾さんは人生で初めて「諦めたくない」と思った。

 自分はエンジニアだからか構造的に考えるクセがある。だから、今までは見込みがないと分かったら、先に行くようにしてきた。しかしそれは、会社員という守られた、最終リスクを取らない立場だからこその甘えではなかっただろうか。今、自分は経営者だ。先が見えなくても、論理的ではなくても、踏ん張って、粘ってもいいのではないか――。

 ここで諦めてしまったら、転職を繰り返してきた今までの自分と何も変わらない。そう思った小尾さんは、「最後に1回だけ『∞ Labo』に応募させてほしい」と西山さんにお願いをした。

 これでうまくいかなければ最後にしよう。そう思いながらビジネスプランを作った。「最後だから大きな計画を立てよう」と、花業界が抱えている問題に立ち向かうビジョンを考えた。

 「花屋さんの労働は過酷です。朝6時から競りに参加して、昼は接客、夜は終電まで閉店処理をします。そこまでやって、給料は店長クラスで18〜19万円。他にも業界構造的にさまざまな問題があります。このような状況を変える、問題を解決できるビジネスを作りたいと思いました」

 ∞ Laboの応募で最初に獲得したのは「立食パーティーに参加する権利」だった。

 「ずっとPCに向かって仕事をしてきた人間なので、パーティーは苦手でした。それでも勇気を振り絞って出かけて名刺交換をしたら、その方が『プラス』の執行役員(当時)の伊藤羊一さんの同僚の方で。その後、その方を通じて伊藤さんのオフィスで会えることになりました」

 小尾さんは伊藤さんに「花屋の業界構造を変えたい」と訴えた。そこでプレゼンの場が提供されることになった。

 「プレゼン会場は渋谷ヒカリエの34階でした。六本木の花屋は1階にあったので、『見上げるような場所に来たな』と思いました。業界のすごい人がたくさんいて、伊藤さんも表情が険しかった」

 緊張が解けぬまま、冒頭で触れた「足の震えが止まらなかった」5分間のプレゼンが終わった。「これで終わったな」と思った小尾さんは、部屋の外に出る。しかし、そこで「もう1回、話を聞きたい」と声を掛けられ、採択が告げられた。

 伊藤さんは後になって、「プレゼンした人の中で一番おびえていて、後がなさそうだから選んだ」と説明してくれたそうだ。

“カタログ”ではなく“センス”を売る

 ∞Laboでは3カ月間、メンターから毎週のようにダメ出しを食らい続けた。

 「未熟だったビジネスプランの輪郭がはっきりしました。辛かったけど、いい経験ができました」

 小尾さんが考えたのは、花のギフトを贈るサービスだ。同様のサービスは既に各種あるが、根本の思想が違う。既存のサービスは「カタログ販売」であり、いつでもどこでも同じものを送れるのが売りだ。流通が今ほど発達していなかった時代には、東京で依頼した花束を北海道の花屋が作って北海道の受取人に届けるサービスは効率の良いものだった。

 しかし、実際に花屋で働いていた小尾さんにはこの構造の問題点が見えていた。カタログと全く同じものを作るために、花屋はいつ売れるか分からない花器や、複数の花を常にストックしなければならないのだ。使い切れない花器が倉庫にたまり、オーダーされなかった花はダメになる。旬の花よりもカタログ通りの花を使うことを優先させなければならないので、良いコンディションではない商品を作らざるを得ないこともある。カタログ販売でなければ、花屋の裁量で良いものが作れるにもかかわらず、だ。

 そこで小尾さんたちは、「カタログ」ではなく「センス」を売ろうと考えた。

 このサービスでお客さまが指定するのは「フラワーデザイナー」だ。値段や用途、雰囲気などを伝え、花の種類やデザインはお任せする。フラワーデザイナーは、良い花を安価に仕入れられるタイミングで、その花を生かしたデザインを提案できるので、コストとデザインに優れた価値を提供できるはずだと考えたのだ。

 「フラワーデザイナーは選び抜きました。テレビ番組『料理の鉄人』で料理人にスポットライトが当たったように、花のデザインが優れた人にスポットライトが当たる世界を作りたいと思いました」

 2015年1月27日、∞ Laboのデモデイに合わせて、新サービス「Sakaseru.jp」がローンチした。

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