SOMPOホールディングスは、機械学習/AI、クラウドをどう活用しようとしているか事業戦略に沿って選択と集中(1/2 ページ)

SOMPOホールディングスは、2016年にSOMPO Digital Labを東京とシリコンバレーに設立、これを実働部隊としてデジタル戦略の具体化を急いでいる。その裏には保険業界が根本的な変革を迎えつつあるとの危機感があるという。SOMPOホールディングスのチーフ・データサイエンティスト、中林紀彦氏がAWS Summit 2017で行った講演から、同社の取り組みを探る。

» 2017年08月29日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 SOMPOホールディングスは、2016年にSOMPO Digital Labを東京とシリコンバレーに設立、これを実働部隊としてデジタル戦略の具体化を急いでいる。その裏には保険業界が根本的な変革を迎えつつあるとの危機感があるという。SOMPOホールディングスのチーフ・データサイエンティスト、中林紀彦氏が2017年6月30日にAWS Summit 2017で行った講演から、同社の取り組みを探る。  

 SOMPOホールディングスといえば損害保険ジャパン日本興亜が知られているが、損害保険ではセゾン自動車火災保険、そんぽ24損害保険を持ち、生命保険事業も損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険を通じて展開。さらに、海外における保険事業を、2017年のEnduranceをはじめとする積極的な買収によって拡大中だ。一方で、ワタミの介護ビジネスを買収するなどして、介護をグループの事業の柱の1つに育て上げようとしている。

SOMPOホールディングス チーフ・データサイエンティスト、中林紀彦氏

 事業の多角化の一方で、デジタル変革に向けた新サービス、新ビジネスモデル開拓の動きも活発化している。2017年度に限っても、(ライドシェアなどの)シェアリングエコノミー認証取得事業者向け保険商品、サイバー保険付きネットワークセキュリティサービスの発売、スマートフォンなどで撮影した自動車保険証券や車検証の記載内容を自動的に読み取ることで、自動車保険の見積もりから契約手続きまでをペーパーレス化するシステムの導入など、「業界初」と称する取り組みを次々に発表している。

保険業界におけるデジタル変革は急速に進んでいる

 SOMPOホールディングスのチーフ・データサイエンティスト、中林紀彦氏は、「新しい保険の姿と保険の先にあるものに向け、ピボットしていくことの重要性を、グループ全体として認識している」と話す。

 中林氏は、「保険(業界)自体がディスラプトされる(根本的に覆される)ことがいくつも起こっている」と言い、ケニアの農産物保険の例を挙げた。

 ケニアでは、貨幣が十分に流通していないこともあり、この保険はユニークな仕組みで売られているという。どういう仕組みかというと、生産者が種を買うと、パッケージにはバーコードが印刷されている。このバーコードを用い、オンラインで保険加入手続きが最後まで実行できる。

 この保険はもう1つユニークな点がある、契約者の農作地を詳細にトラッキングできるようにしており、気象情報と合わせて分析を加え、これをビジネス上の差別化に生かしていることだ。

 契約者である生産者に対しては、気象情報を生かして生産に関するアドバイスを提供している。また、風水害などが発生した場合、契約者の耕作地を詳細に把握できているため、保険料支払いは現地に行って確認する必要があまりなく、スピーディに行える。

ケニアの農産物保険における新たなビジネスモデル

 こうした、従来の提供方法にとらわれない保険商品が世界中で生まれており、SOMPOホールディングスのグループ企業はこれを踏まえてビジネス戦略を構築していかなければならない状況に置かれているという。また、生き残りのためには、保険以外のビジネスを手掛け、別の事業の柱にしていく、あるいは保険事業との相乗効果を図ることも求められているという。

 「(2016年度からの5年にわたる)中期経営計画において、デジタル戦略は主軸の1つ」と中林氏は表現した。シリコンバレーにおける長い経験を持つ執行役員が、チーフデジタルオフィサーの役割を担い、経営陣直下でデジタル戦略の立案と提案を進めているという。

 2016年4月に東京とシリコンバレーで誕生したSOMPO Digital Labは、このチーフデジタルオフィサー直下で実働部隊として活動している。経営に近いところにいるのが、SOMPOホールディングスにおけるデジタル部隊の特徴という。

SOMPO Digital Lab、ポイントは「事業戦略に沿った選択と集中」

 では、SOMPO Digital Labは、具体的には何をやっているのか。

 デジタル時代に向けた事業会社のR&Dを、ホールディングスとして支援するというのが根本的な使命だが、デジタルに慣れ親しんだ若者に向けた商品の開発や、既存の事業領域とは一線を画した発想に基づく新たなビジネスモデルの構築、IoTセンサーを活用して新たな保険利用体験をもたらす商品の開発などを進めているという。

 シリコンバレーでは、新たな技術トレンドやビジネストレンドを常時リサーチしている。こうした情報を活用し、新しい技術をどう生かせるかを探るため、実証実験を次々に実施している。講演時点では、30程度の実証実験プロジェクトを走らせているという。その中には保険との直接な関係がないものも多く、「保険屋とはかなりかけはなれた仕事をやっている」という認識もあるという。

 中林氏は、SOMPO Digital Labにおいて、データ分析や機械学習を推進するため、2016年10月に新設されたデータサイエンティストチームを率いている。

 新組織の活動について、中林氏は「事業戦略からデータ戦略への落とし込み」「データサイエンティスト組織の立ち上げ」「データプラットフォームの構築」「スタートアップの持つユニークなデータへの投資」「AIでは外部を積極活用しながら自社のコンピタンスを構築」と表現した。

 これら全てを貫くポイントは、「事業戦略に沿った選択と集中」だという。つまり、いつビジネスに活用されるかどうか分からない仕組みではなく、ビジネスに直結する仕組みを開発していくことにある。この点で、SOMPO Digital Labが経営陣と距離の近いところにいるという点を、うらやましいと思うデジタル戦略担当者たちは多いだろう。だが、中林氏は、そう簡単ではないと話す。

 「外資系ではトップダウンで、上が決めたことを世界的に展開していくので分かりやすいが、日本企業の場合、ボトムアップ的な性格が強い。事業会社が力を持っているので、戦略のすり合わせが難しい」(中林氏)

 そこで中林氏たちはSOMPOホールディングスとしての事業戦略を踏まえ、さらに各事業会社の事業戦略を吸い上げてデータ戦略を立案、これに基づくAIおよびクラウドの活用を進めている。

 「経営から、『ビッグデータ/AIをやれ』と、下に落とされてくるケースが多いが、(日本では)必ず失敗する。あくまでも(事業会社の)事業戦略に基づいて取り組む必要がある。

 中林氏たちのチームは、事業会社および事業部門と、「どんな事業を目指していくかを徹底的にディスカッションし、事業戦略を考えながらデータ戦略に落とし込んでいる」という。

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