作業工数は1075万円分ですが、446万円しか払いません。瑕疵対応は無償でしょう?「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(46)(3/3 ページ)

» 2017年10月02日 05時00分 公開
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保守ベンダーの明日のために

 裁判には勝ったが、このベンダーには反省点も多い。

 準委任契約のつもりであったのなら、なぜ「支払いに成果物の完成と検収が義務付け」られる契約を結んだのか。しかも、瑕疵の補修は本来「開発契約」の瑕疵担保責任であり、「保守契約」内で作業すべきことではない(別要員が無償で行うのが理想的だ)。

 「作業時間」と「仕事の完成」という2つのゴールを持ち、契約外で行うべき瑕疵の補修もない交ぜになって、ユーザーに押し切られるまま作業を続けた、というのが実態ではなかろうか。

 お客さまには言いにくいこともあると思うが、保守ベンダーが明日も生き残るためには、やらなければならないことがある。

 保守が準委任契約であることをユーザーに合意してもらい、その工数を超える作業は別途請負契約で行うこと、瑕疵への対応は(当初開発のものであれ、追加開発のものであれ)保守とは別のものとして対応し、なし崩しにならないようにすること、ユーザーがそれを勝手に曲げるようなことを言いだしたら、勇気をもってその是正か明示的な契約変更を申し出ること。

 売り上げをおもんばかるベンダーの気持ちも分からないではないが、主張すべきことは主張し、切るべきユーザーは切っていかないと、日本のベンダーはいつまでも浮かばれない。

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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