ストレージ市場はどこへ行くのか、企業のストレージ戦略に与える影響とはテクノ・システム・リサーチの幕田氏に聞く

ストレージ市場は今後、どのように展開していくのか。これを踏まえ、企業の情報システム部門は、どのようなストレージ戦略を立てるべきなのだろうか。アイティメディア @IT編集部 エグゼクティブエディターの三木泉が、ストレージやIT運用について長年調査を続けてきたテクノ・システム・リサーチのシニアアナリスト、幕田範之氏に聞いた。

» 2017年12月28日 10時00分 公開
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 ストレージ分野では、「オールフラッシュストレージ」「ソフトウェアデファインドストレージ(SDS)」「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」など、多様な選択肢が登場している。一方、パブリッククラウドも影響力を広げつつある。

 これは、一昔前と比較すると、非常に大きな変化だ。これまではエンタープライズストレージといえば、事実上、ハードディスクを中心としたブロックストレージかファイルストレージだけだった。これが数年で様変わりした。突然、多様な選択肢を与えられた企業は、戸惑うしかない。

 ストレージ市場は今後、どのように展開していくのか。これを踏まえ、企業の情報システム部門は、どのようなストレージ戦略を立てるべきなのだろうか。アイティメディア @IT編集部 エグゼクティブエディターの三木泉が、ストレージやIT運用について長年調査を続けてきたテクノ・システム・リサーチのシニアアナリスト、幕田範之氏に聞いた。

――ストレージ分野は、オールフラッシュやSDS、HCI、オブジェクトストレージなどの登場で、話題に事欠かないように見えます。今後のトレンドについて、どう考えていますか?

幕田氏 ストレージの世界はにぎわっているように見えますが、図に示したように、日本の法人向けストレージ市場は2017年をピークに、下降トレンドを描くと見ています。2016年の市場規模は1878億円ですが、2024年には1367億円程度を予測しています。8年間で500億円程度がなくなるわけです。このこと自体、意外だと思う人がいるかもしれません。

テクノ・システム・リサーチによる国内ストレージ市場予測(出荷金額)

 端的に言えば、クラウドの利用拡大と価格の低下です。これによってシステムインテグレーターは、ストレージ製品事業の縮小を余儀なくされる可能性が高まります。このことは、企業の情報システム部門にとって影響があります。システムインテグレーターがサポート体制や技術者リソースへの投資を減らさざるを得なくなってくると、企業の情報システム部門としては、従来のようにこうした業者に頼り切ることができなくなるからです。

――オールフラッシュストレージについても伸び続けるわけではないということですか?

幕田氏 外付けオールフラッシュストレージの市場は今後数年、伸びていきます。グローバルでは2017年で、既に既存のハードディスクを中心としたストレージ装置の出荷金額を上回りました。今後も既存ストレージからの乗り換えが進み、市場は拡大します。国内では2018年、あるいは2019年の初めにも、フラッシュストレージがハードディスク主体のストレージを上回ります。しかし、2021年くらいには頭打ちとなると見ています。

 これには、フラッシュという媒体の価格動向が関わってきます。現在のところ、価格の低下が止まっている状態です。しかし、2018年後半以降、新世代フラッシュの生産体制が整うことで、一気に供給が増え、価格は大きく下がる可能性が高いと考えています。すると、普及は一気に進む一方、出荷金額という点では、その後伸び悩むことになりそうです。

テクノ・システム・リサーチ シニアアナリスト、幕田範之氏

 一方で、2024年まで拡大が続くのは、HCIとハイパースケールコンピューティングインフラ用のストレージです。後者にはオブジェクトストレージが含まれています。ユーザー調査で、「これから使いたいストレージ」を聞いた結果でも、このことは如実に示されています。既存のファイルストレージやブロックストレージはマイナス傾向にあり、HCIとハイパースケールを使っていきたいというユーザーは増えています。

――パブリッククラウドのストレージサービス利用は、どのように広がっていくのでしょうか?

幕田氏 IT業界では、今後長い間にわたり、ミッションクリティカルなアプリケーションがパブリッククラウドに移行するのは例外に留まるだろうと考えている人々が多数います。しかし、ユーザー調査からは、意外なデータが得られています。

 例えば、「基幹中の基幹」ともいえる財務会計システムについては、「現在メガクラウドで稼働している」と答えた企業は1%に過ぎません。しかし、5年後の意向では、15%に達します。同様に5年後は、販売/受発注管理システムについては18%、CRMについては25%が「メガクラウド上で稼働するだろう」と答えています。

――それは、ユーザー企業の考え方が変わってきているからなのでしょうか?

幕田氏 そうですね。ユーザー企業のストレージについての考え方には、大きな変化が見られます。

 弊社では毎年、ユーザー調査の一環として、「欲しいと思うストレージは何か」という質問をしてきました。2016年までは「バックアップ時間が短いストレージ」「バックアップからのリストアが容易なストレージ」など、バックアップ関連の回答が上位を独占していました。

 ところが、2017年の調査結果では、順位が大きく変わりました。図に示されているように、1位が「ディスク障害の少ないストレージ」、2位が「メンテナンスで止めなくてもいいストレージ」、3位が「運用管理をほとんどしなくていいストレージ」です。バックアップ関連は、4位以下に順位を落としています。

「欲しいと思うストレージは何か」の回答(2017年)

 要するに、ユーザー企業はもう「ストレージを管理したくない」と言っているのです。その理由は、人材不足です。別の質問では、回答企業の97%が、「人が不足している」と答えています。

 ストレージおよびITシステム全般に関する知識を備え、運用管理を行える人材が不足しているため、こうした人材を雇うことなく、運用管理を丸投げできる先として、パブリッククラウドに飛びつく傾向が非常に高まってきています。

 ある情報システム部長は、「ストレージを選びたくない、選ぶ時間がもったいない」と話しています。

 しかし、「ストレージを選ぶ時間が惜しいから」、あるいは「ストレージを選ぶ知識も、選んだストレージを運用するノウハウもないから」というだけで、短絡的にクラウドストレージへ移行すると、大きな危険を伴うという点は、認識していただく必要があります。

 プライマリストレージとしてクラウドを採用するにしても、性能要件を満たせるのかを確認して適切に運用し、データ保護のための手法を確立する必要があります。

 さらに、特に重要な点として、セキュリティの問題があります。パブリッククラウドは、確実に正しい設定を行わないと、自社の重要データを全世界に公開することになってしまうことにもなりかねません。

 また、数年前に、いわゆる「スノーデン事件」がありましたが、日本の情報システム担当者の間では、その重要性が十分理解されているとはいえません。

――結局、一般企業は、コスト削減をしながらも、性能などを求められるところにはメリハリをつけて投資する。ただし、運用コストは無駄なので、もう最小限度に抑えたい。このため、運用が容易なストレージを使いたいというニーズは高まってくると思います。オンプレミスで容易にストレージを運用できる可能性を秘めた製品群としては、SDSも今後、注目されそうですね。もちろん、ソフトウェアベースの製品だからといっても、機能や運用のしやすさは、製品ごとに全く異なるとは思いますし、ハードウェアベースの製品のほうが運用しやすい場合もありますが。

幕田氏 ええ。弊社では、2014年までのSDSの年平均成長率を約21%と算出しています。ストレージ市場でこれほどはっきりと成長が見通せるジャンルは、他にありません。

テクノ・システム・リサーチによるSDSの市場予測(2017年)

 ただし、「SDS」、つまりソフトウェアデファインドストレージには、多様な製品が含まれますので、ユーザーとしては混乱しがちであることも事実です。

 まず、汎用サーバを用いたブロックストレージ、およびファイルストレージがあります。さらにサーバとストレージを統合したHCIがあります。さらに、最近少しずつ注目されるようになってきたオブジェクトストレージがあります。

 「クラウド的」という観点では、オブジェクトストレージが最も近いですね。とは言え、オブジェクトストレージも全ての用途に適しているわけではないため、注意が必要です。

 例えばデータ管理について、最近重要なトピックになってきているのは、ランサムウェアやマルウェアの被害です。

 弊社のユーザー調査では、回答企業の29%が、「ランサムウェアあるいはマルウェアの被害を受けた」と答えています。

 「ランサムウェアの被害にあった際に、支払いをした」と回答した企業はありませんでしたが、半数の企業が、結果としてデータを失っていました。もちろん、バックアップやスナップショットを取得していれば、その時点までのデータは確保されます。それでも直近のデータを失うことに変わりはありません。従って、従来型のストレージを使用している場合は、バックアップやスナップショットの頻度を高めることで、失うデータをなるべく少なくする努力をしている企業が見られます。

 オブジェクトストレージの場合、基本的には複数のレプリカを作成することでデータの可用性を確保するという意味でのデータ保護機能はありますが、スナップショット機能はもともと持っていません。こうしたことが用途の広がりを阻害する一因になってきました。

 ただし、最近ではスナップショットに似た使い方のできるバージョニング機能を備える、Scalityのような製品が出てきているので、期待したいと思います。

――今後、IoTなどでは、オブジェクトストレージの出番が増えてくるのではないでしょうか?

幕田氏 確かにそうですね。例えば自動車メーカー各社は、大きな危機感を持って自動運転に取り組んでいます。こうした取り組みでは、今後ゼッタバイトレベルのデータを扱う必要があるとされています。現時点で自動車メーカーは、多くの場合自動運転関連のデータをパブリッククラウドで管理しています。しかし、ペタバイトを超えると、パブリッククラウドは容量単価が高くなってしまいがちです。

 こうしたケースでは、単一のボリュームでゼッタバイトレベルのデータを管理できるようなオブジェクトストレージを使う可能性が高まると考えています。

 冒頭でお話ししたストレージ市場予測には、こうした動きが含まれていません。こうした動きが本格化してくれば、ストレージ市場全体を押し上げることになるかもしれません。

――IoTに関しては、製造機械の稼働ログに機械学習を適用し、予防保守や製品検査などに役立てようという動きがあります。一方で、工場内のデータをクラウドに出したくないという考えは根強くあります。このため、IoTでクラウドだけでなく、オンプレミスのストレージ利用が広がってくることは十分考えられますね。また、監視カメラなどの動画データに機械学習を適用する例も増えてきます。いずれにしても、企業の情報システム部門にとっては、ストレージの選択肢は増えるものの、選択や運用が難しいという点で、難しい時代になってきそうですね。何かアドバイスはありますか?

幕田氏 1種類のストレージで全ての用途をカバーできないので、今後企業はますます、組織としてのデータ管理という観点から、技術/製品の適切な選択と設定を行うことが求められるようになっていきます。

 一方で、今後は徐々にシステムインテグレーターやベンダーの体力が低下し、顧客を十分にサポートできなくなってくる傾向が強まりそうです。すると、これまでこうした業者に丸投げしてきたユーザー企業は、非常に困ることになりそうです。

幕田氏と@IT編集部 エグゼクティブエディター、三木泉

 「ストレージを選びたくない」という気持ちは分かりますが、それではセキュリティ、ガバナンス、パフォーマンス、コストについての管理を放棄するに等しくなってしまいます。

 お話ししましたように、企業はIT人材の育成に課題を感じています。ですが、ストレージの容量単価はますます下がってきますから、コスト削減効果の一部でも、人材育成に投資するなどして、ユーザー企業側がノウハウを蓄積していくべきではないでしょうか。

 例えばオブジェクトストレージは、IoTなど、必ずしも必要とする容量が当初は見通せないような、低コストやスケールのしやすさが求められる用途に適しています。このように、ストレージを適材適所で活用するノウハウを身につけると、ビジネスに大きなインパクトを与え、長期的に見てさらに大きなコスト効率の向上にもつながってくると考えます。

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市場調査で分かった、オブジェクトストレージの「可能性」と「利用課題」

ストレージ市場全体が伸び悩む中、オブジェクトストレージの導入が急速に進んでいる。しかし、今後が期待される一方で、セキュリティを含めたデータ管理の面で課題も残されている。その課題とはどのようなものだろうか?


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提供:スキャリティ・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年2月8日

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