「ITの未来はAPIで形作られる」と、このベンチャーキャピタリストが断言する理由マーティン・カサド氏に聞いた(2/2 ページ)

» 2018年01月11日 05時00分 公開
[三木泉@IT]
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なぜ、APIゲートウェイのKongに出資したのか

――Kongに投資した理由を、あらためて教えてください(筆者注:Kongは2017年3月、シリーズBとしてAndreessen Horowitzから1800万ドルの出資を受けた。カサド氏はこれを担当し、Kongの社外取締役にもなっている)。

 エンタープライズIT分野でも、コンシューマーITと同様な出資の仕方をするようになっていくと、私は考えています。

 コンシューマーITでは、初期の段階でどの企業が成功するかは分かりません。このため、人気が出た段階で投資を判断します。エンタープライズITでは、これまで早い時期に出資するのが一般的でしたが、これが通用しなくなってきました。開発者がツールの購入に影響を与えるようになってきたからです。

 開発者の間で人気を勝ち得ない限り、エンタープライズITで成功することは非常に難しくなっています。例えばAndreessen Horowitzが投資しているSlack、GitHub、Mesosphereは、いずれもオープンソースで大きな人気を獲得した企業です。このように、私はエンタープライズITで、人気の高い企業にしか投資しません。

 一方、人気が高くても、DockerやNginxのようにマネタイズができない企業は存在しています。私が投資を決める際には、マネタイズが可能な製品であると確信できる必要があります。一般的には、開発者に人気が高いだけでなく、運用担当者に対して付加価値を提供できなければなりません。運用担当者の方が予算は大きいし、有償サポートを喜んで使ってくれるからです。

 Kongは、私の知る限り、オープンソースプロジェクトで最も急速に成長しています。また、APIゲートウェイは、開発者が使うだけでなく、運用担当者によるセキュリティ確保やパフォーマンス管理などが不可欠な分野です。この2つの理由に加え、私の信じる「世界はAPIに向かう」というトレンドに合致していることが決め手となりました。Apigeeや3scaleが買収された今、Kongは唯一の独立したAPIゲートウェイ企業でもあります。

 また、KongはコマーシャルなAPI(筆者注:社外に対して提供するAPI)だけを対象としているのではありません。社内アプリケーションのマイクロサービス化やサービスメッシュ化という大きな変革の波に乗ることができます。つまり、APIゲートウェイの市場は、これまでよりもはるかに大きなものになります。

――マネタイズの観点からは、プラットフォームとしての機能を果たせることが望ましいと思います。Kongは必ずしも「プラットフォーム」と呼べないのではないでしょうか?

 Kongはまだ若い製品です。しかし、アーキテクチャとしては、プラットフォームになることを前提としています。

 当初はカナリアリリースなどに使える従来型のAPIゲートウェイでした。キー管理、レート制限などについては基本的な機能にとどまっていました。しかし、分散アーキテクチャを採用しており、現在ではサードパーティーが活用できるAPIも充実していて、NginxやEstioなどから多数のプラグインが提供されるようになっています。確かに、あなたが指摘した通り、Kongはまだプラットフォームとは言えませんが、プラットフォームに進化する兆候は既に見えています。

 プラットフォームになったとしたら、どんなアプリケーションが構築できるかを考えるのは面白いことです。すぐに思い付くのは強力なパフォーマンス管理やセキュリティ管理です。特にセキュリティ機能は、セキュリティに特化したベンダーが開発する必要があります。

カサド氏が今、最も興奮を覚えることは2つ

――最後に、カサドさんが現在、(仕事上)最も興奮を覚えることは何でしょうか?

 1つは(API分業により)プログラミングがブロック玩具の組み立てのようになろうとしていること、もう1つはインターネットにまだ接続できていない人々をどうつなげるかにあります。

 ブロック玩具のようなプログラミングについては、長い間多くの人々が語り続けてきましたが、今までお話しした通り、ブロック玩具のピースに相当する機能に特化した企業が次々に登場することで、ようやく現実化しようとしています。これで、(Andreessen Horowitzのスローガンである)『Software is eating the world』が加速します。ソフトウェア開発が非ITエキスパートにとって非常に簡単なものになり、例えば役に立つ機能を備えたドローン製品を短期間で提供できるようになります。

 もう1つとしては、「インターネットにまだつながっていない30億人を、どうつなげるか」という命題に、ますます関心を抱いています。

 実際に数年前、ネイティブアメリカンの人たちの居住地に、携帯電話通信サービスを提供する非営利団体を設立しました。山岳部に住んでいる人たちが多く、通常の携帯キャリアの電波は届きません。電気も水もありませんが、携帯電話端末は持っています。町へ車で出掛けてはFacebookをやり、家に戻ってくるといった生活です。

 問題は、子供が家で宿題をする際にインターネットを使えないこと。そこでこのプロジェクトを始めました。数年やって分かったのは、問題解決のカギが、携帯基地局からインターネットへの、バックホール接続にあるということです。

 この分野ではソフトバンクの出資したOne Web、GoogleのProject Loonなど、有力な技術が幾つか登場しています。そこで私はこの分野に、多くの時間を費やしています。考えてもみてください。この問題が解決すれば、30憶人が新たにインターネットに参加し、世界は大きく変わることになります。

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