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» 2018年01月29日 05時00分 公開

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(51):日本国憲法第22条、知らないんすか? 「職業選択の自由」っすよ――エンジニアに「退職の自由」はあるのか? (3/3)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
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退職する社員の責任

 まず、退職した社員たちへ。

 自分の仕事を他人が円滑に引き継げるようにしておくのは「常識」だ。本人に退職の意志がなくても、病気その他の事情でプロジェクトを離脱せざるを得ない可能性は誰にでもある。

 よく誤解されているが、世のアジャイル提唱者は「アジャイル開発ではドキュメントを作らない」などとは言っていない。単に「無駄なドキュメントは作らない」と言っているだけだ。今回の判例のように、退職後に残されたメンバーに多大な迷惑を掛けたのならば、それは「必要なドキュメント」だったのだ。それを作らなかったのは、エンジニアとして以前の社会人として「常識」に問題のある行為だ。

 後の工程で誰も使わない資料を作ることは不要だし、内容が理解できるのなら整形する必要もないかもしれない。ドキュメントによっては、会議で使ったホワイトボードの内容を画像で保存して整理するだけでも済むかもしれない。

 それすらいとわしいのであれば、自分と同じ知識レベルの人間を複数人作っておき、自分がいなくても開発が継続できるようにすべきだ。アジャイル開発の名を借りて、「本当に必要な知識を自分の頭の中だけに収め、退職した後のことは知らない」などという態度は、アジャイル開発をおとしめる行為といってもよい。

社員を雇用する会社の責任

 そして、社員に退職された会社へ。

 今回、会社が裁判に負けた真の理由は、「開発作業の標準化が行われていなかった」ことにある

 アジャイル開発を行うなら、設計から開発、保守への「引き継ぎ」も考慮して、「どんなドキュメントを作り」「どんなドキュメントを残すのか」「正式なドキュメントとしてきれいに整形すべきは何なのか」を、会社の「標準」あるいは「基準」として整備し、徹底することが必要だ。

 無論、これらは一方的な押し付けではうまくいかない。現場の開発者とよく話し合いながらドキュメントに関する標準、基準を定め、「継続的に」これを「改善」する「仕組み」が必要だ。

 今回の判例の会社はこれらを行わなかったので、開発者自身の判断基準でドキュメントを残さないことを「勝手に」決められてしまった。これでは「会社として」製品のリリースや製品自体の品質に責任を持てない。これが、5400万円を失った真因である。



 アジャイル開発という名の下、本来必要なドキュメントを残さない開発者の数は少なくない。確かに、少数の開発者が責任を持って最後まで開発を行えば、うまくいくケースもある。

 しかし、仕事とは「全ての好条件がそろったときにのみ成功すればよい」というものではない

 さまざまな事故や事件があっても、それに対応しながら納期や品質に責任を持つ。それができない会社やエンジニアは、周囲の信頼を失い、淘汰(とうた)されるのだと、覚えておいていただきたい。

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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