連載
» 2018年02月19日 05時00分 公開

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(52):ユーザーがワガママだから失敗したんです (3/3)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
前のページへ 1|2|3       

プロ意識が足りないベンダーの弱み

 しかし、私はこのベンダーに申し上げたいことがある。

 判決文を見る限り、このユーザー企業のIT知識は乏しい。基本設計を途中でやめさせ、詳細設計を行っている他の会社にいきなり押し付けることがいかに危険であるかも知らないし、受け入れテストも自身では満足に行えない。検出した不具合が軽微ですぐに改修可能なものであることも理解できないし、そもそもソフトウェア開発では多少の不具合が残ることは不可避であること自体、知らなかったのかもしれない。

 確かにユーザー企業の不備は多い。だがベンダーもこうした仕事の仕方をしている限り、「今後も、他のユーザー相手のプロジェクトでも、同じような失敗をする危険がある」だろう。

 ベンダーは、相手がこれだけの素人だと気付いたなら、基本設計の残りを依頼された時点で、その危険をユーザーに理解してもらい、提案が受け入れられないなら作業はできないと断るべきだった。受け入れテストや不具合の対応方針も、ベンダーがよく教え、場合によっては主導すべきだったと筆者は考える。

 相手のスキルの低さに気付かなかったとしたら、それも問題だ。

 提案段階から、ユーザーがどの程度のITプロジェクト経験を有しているか、開発の基本的なプロセスを理解しているかを探り、それに応じて提案をするのはベンダーの努めではないのか。

 もちろん、これは商売である。受注は欲しいし、顧客のウケを考えて、あまり強気なことはいえないと思う気持ちも理解できる。しかし、言わなかった結果プロジェクトが混乱したのでは、何にもならないではないか。

 冒頭に書いたように、自分たちの非を正し提案してくれるベンダーを、ユーザーは「付加価値のあるパートナー」と考える。後になって振り回される苦労と、付加価値を生む苦労のどちらを取るか。同じ苦労なら、付加価値を認めてもらって追加費用を頂ける可能性のある苦労の方が、よほどベンダーにとって有利ではないだろうか。

 ユーザーの非を正して導くようなことまでしなければならないのか、と思われる読者もいるかもしれない。しかし、それこそがプロとしてユーザーに提供するベンダーの付加価値であり、それがないベンダーは、「ワン オブ ゼム」――つまりいくらでも換えのきく、ただの「作業者」だ。

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

書籍紹介

本連載が書籍になりました!

成功するシステム開発は裁判に学べ!契約・要件定義・検収・下請け・著作権・情報漏えいで失敗しないためのハンドブック

成功するシステム開発は裁判に学べ!〜契約・要件定義・検収・下請け・著作権・情報漏えいで失敗しないためのハンドブック

細川義洋著 技術評論社 2138円(税込み)

本連載、待望の書籍化。IT訴訟の専門家が難しい判例を分かりやすく読み解き、契約、要件定義、検収から、下請け、著作権、情報漏えいまで、トラブルのポイントやプロジェクト成功への実践ノウハウを丁寧に解説する。


システムを「外注」するときに読む本

細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)

システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。


プロジェクトの失敗はだれのせい? 紛争解決特別法務室“トッポ―"中林麻衣の事件簿

細川義洋著 技術評論社 1814円(税込み)

紛争の処理を担う特別法務部、通称「トッポ―」の部員である中林麻衣が数多くの問題に当たる中で目の当たりにするプロジェクト失敗の本質、そして成功の極意とは?


「IT専門調停委員」が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則

細川義洋著 日本実業出版社 2160円(税込み)

提案見積もり、要件定義、契約、プロジェクト体制、プロジェクト計画と管理、各種開発方式から保守に至るまで、PMが悩み、かつトラブルになりやすい77のトピックを厳選し、現実的なアドバイスを贈る。


なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

細川義洋著 日本実業出版社 2160円(税込み)

約7割が失敗するといわれるコンピュータシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダーvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。