Pivotal Labsに聞く、日本企業とエンジニアが共にハッピーになる方法DX時代のDevOps/アジャイルヒーローたち(2)(2/2 ページ)

» 2018年03月01日 05時00分 公開
[斎藤公二/構成:編集部/@IT]
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顧客企業の間で高まる「内製化」の波

 2015年、Pivotal Labsが東京にオフィスを構えた当初は、顧客企業1社と社員5人だったという。それから約2年が経ち、顧客数は20社へ、Pivotal Labsのエンジニア数は16人にまで拡大した(2017年12月現在)。バークス氏は「こうした実績は、現在の日本企業を取り巻くトレンドを如実に反映しています」と話す。

 「ソフトウェアによってイノベーションを起こす事例が飛躍的に増え、企業の意識が確実に変わってきたと思います。CIO(最高情報責任者)、CTO(最高技術責任者)など、いわゆるCxO層の方と話す機会が多いのですが、デジタルトランスフォーメーションに対する意識が非常に高く、成熟していると感じます。よく『日本は欧米に大きく後れを取っている』と言われますが、これは取り組みのペースが遅いだけで、見据えているゴールはまったく同じです。日本企業のイノベーションに向けた取り組みは、まさにこれからピークを迎えようとしていると感じます」

ALT 「社外に開発を丸投げせず、自分たちでコントロールできるようになるところまでお手伝いするのがわれわれの仕事」

 顧客企業は業種・規模ともにさまざまだが、いわゆる伝統的な大企業も少なくない。破壊的なイノベーションに対する強い危機感があり、「新しいやり方を取り入れることで、課題を乗り越えようとしているようです」とバークス氏は話す。

 実際、顧客企業の大半がそれまで外注していた開発業務をインハウスに戻そうとしているという。とはいえ、すぐに内製に切り替えられるわけではないため、まずはPivotal Labsを活用して、自社のプロダクトマネジャーや開発者のトレーニングを行っているというわけだ。

 「米国企業と比較すると、日本企業は“ITとビジネスの間にある壁”が高く厚いと感じます。ビジネス課題に応えるためにどう壁を壊していくか、それがアジャイル開発の1つのテーマでもあります。その点、実際にインハウスのリソースによって開発する――すなわち事業部門と開発部門の担当者が、Pivotal Labsのトレーナーのコーチングを受けながら、共に自社のプロダクトを作ってみることで、協調して価値を作るためのノウハウを身に付けることができるのです。社外に開発を丸投げせず、自分たちでコントロールできるようになるところまでお手伝いするのがわれわれの仕事です」

「ソフトウェアによる体験価値」を作るために不可欠な「4つの要素」

 注目すべきは、Pivotal Labsの利用者が必ずしもユーザー企業だけではないことだろう。ユーザー企業の担当者とパートナーSIの開発者が一緒にPivotal Labsを利用するケースもあれば、SIerが自社の新サービスを開発したり、顧客企業とのアジャイル開発体制を築いたりするために、ノウハウを学ぶケースもあるという。

 「全ての顧客企業に共通しているのは、これからはソフトウェアが大事になるという認識です。例えば銀行や小売業なら、50年前なら店舗を増やせば売上を拡大できました。いわゆる“面を埋める”ことが重要な営業戦略だった。しかし現在は、単純に店舗を増やしたところで顧客も売上も拡大することはできません。そもそもスマートフォンで振込を行い、スマートフォンで買い物をする時代なのです。そこで重要になるのが“ソフトウェアによるトータルな体験価値”で差別化を図ることです。そして“差別化の手段”を開発するわけですから丸投げなどはできません。自社の知見を生かして主体的に開発に取り組むことが、自ずと不可欠となるのです」

 そうした「体験価値」をアジャイル開発で作り上げる上で、決して欠かせないのが「カルチャー、プロセス、テクノロジー、スキルという4つの要素です」とバークス氏は強調する。

 「最も重要なのはカルチャーです。まずは『ソフトウェアこそが自社の差別化要素だ』という意識を強く持ち、それを企業文化として徹底していくこと、そして常に顧客のニーズを学習し、素早く対応できる体制を築くことが大切です。顧客からのフィードバックはひっきりなしに来ますし、他社も同じようにフィードバックを得ています。差別化を図る上では、変化に対応するスピードがとても重要なのです」

 従って、カルチャーを醸成するだけではなく、それをスピーディーに実践するためのプロセス、テクノロジー、スキルに落とし込むことが欠かせない。DevOpsにおいてもこれらが個別に論じられてきたことが、「DevOpsは文化だ」「自動化だ」といった“誤解”が生じる一因になっていたが、ペアプログラミングや、PCFなど同社のテクノロジーを通じて、「4つの要素全てを伝授できるのがPivotal Labsの強み」なのだという。

 「プロジェクトに一緒に取り組むことで、どういう手法で、どういうテクノロジーを使って、どういうバリューを出していけるのか、アジャイル開発を正しく身に付けることができます。会社に戻ってからそのノウハウを浸透させていけばいい。それが新しいカルチャーを全社的に育む第一歩となるのです」

日本企業とエンジニアをハッピーにすることを目指して

 サンフランシスコでは、Pivotal Labsを活用してアジャイル開発をスモールスタートしたことから、企業全体の開発スタイルの変革、それに伴うインフラ刷新、ひいては企業文化の変革にまで進んだケースも多いという。開設3年目に入った日本でも、「米国企業のように全社的な変革に進んでいくケースが出てくる日は、そう遠くないでしょう」と予測する。

 ただバークス氏は、「重要なのは企業観点での変革だけではなく、プロダクトを使うエンドユーザーとの距離の近さが、エンジニアをハッピーにするということです」と付け加える。

 「長年、Pivotal Labsを運営してきて感じるのは、開発者が最もハッピーになる瞬間とは、自分の作ったプロダクトがエンドユーザーをハッピーにしたときだ、ということです。人の役に立ち、人を幸せにすることで、自分の苦労や工夫に充実感を覚えることができます。できるだけユーザーの近くで生の声を聞き、ニーズに合ったプロダクトを開発するアジャイル開発とは、開発者が最もハッピーになれる開発手法なのです」

ALT 「開発者が最もハッピーになる瞬間とは、自分の作ったプロダクトがエンドユーザーをハッピーにしたとき。日本のユーザー企業にも非常に優秀な方がたくさんいる。アジャイル開発というアプローチで、彼らの持てる力を解放してあげてほしい」

 そう述べた上で、バークス氏はインタビュー冒頭での「アジャイル開発を担える次世代のエンジニアは、必ず社内にいるはずです」という考えを、あらためて強調する。

 「日本に来て実感したのは、ユーザー企業には非常に優秀な方がたくさんいるということです。能力が高く、熱意もあり、すばらしいアイデアをたくさん持っています。必要な人材がいないことに悩んでいる経営層やマネジャーの方に申し上げたいのは、『その存在に気付いていないだけなのでは?』ということです。では、なぜ気付けなかったのか? それはウオーターフォール型のアプローチでは、そうした人材が十分に能力を発揮できていなかったためだと思います。だからこそ、アジャイル開発というアプローチで、各人の持てる力を存分に解放してあげてほしいのです。アジャイル開発は、最初から完璧を目指さず、小さくスタートして大きく育てていくことが大切です。われわれPivotal Labsと一緒に、ぜひソフトウェア開発の在り方を根底から変えていきましょう」

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