Dell EMC、日本における機能統合の成果と課題とは今と未来をどうつなぐか

Dell EMCの日本法人であるデルとEMCジャパンは2018年3月20日、両社の機能統合について振り返ると共に、新年度の事業戦略について説明した。ここでは、グローバルと日本における動きを踏まえ、統合の成果と課題についてお届けする。

» 2018年03月23日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 Dell EMCの日本法人であるデルとEMCジャパンは2018年3月20日、両社の機能統合について振り返ると共に、新年度の事業戦略について説明した。ここでは、グローバルと日本における動きを踏まえ、統合の成果と課題についてお届けする。

 DellとEMCグループは、グローバルでは約1年半前の2016年9月に統合を完了し、Dell Technologiesグループが誕生。この統合は、(VMwareの扱いなど、)プロセスこそ複雑ではあったが、目的はシンプルではっきりしていた。

 目的を一言で言えば、「ますますソフトウェアの価値が相対的に高まりつつあるITの世界で、企業がツールとして使えるような統合ITインフラソリューションを提供できる存在になる」ということだ。

 法人向けITインフラでは、サーバ、外付けストレージがそれぞれ大規模な市場を形成してきた。だが、どちらも全体としては成熟しており、今後高成長が見込めるものではない。全体のパイが限られている市場での常套手段は、個々の製品の差別化によりシェアを拡大すること。だが、少なくともDell Technologiesは、ユーザー組織の関心が、「柔軟なITインフラを全体として高いコスト効率で構築・運用できること」に移ると考えている。

 これは、単純論者が考えるように、多様なサーバやストレージの選択肢がただちに価値を失うことを意味するわけではない。特にストレージに関しては、エンタープライズITでハードウェアを積極的に選択したい用途が今後もある程度残っていく。だが、ハードウェアを選ぶ場合でも、「構築・運用」ではなく「利用」できなければ困るというユーザー組織は増加する。

 従って、Dell EMCでは、今後もサーバ、ストレージ製品個々について差別化を進めるものの、(もう一段上のレイヤーの)ソフトウェアによる、「自動化」「機動性」「拡張性」「セキュリティ」「マルチクラウド」などの付加価値についての訴求を強めていくことになる。同時に、コンサルティングやマネージドサービスなど、従来型のプロフェッショナルサービスを超えた活動を強めている。

 「コンバージドインフラ(CI)/ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」製品群は、この点を分かりやすく象徴する存在といえる。CIでは各ストレージハードウェア製品の特徴を生かしながらも、構築・運用の時間やコストを減らして、「仮想化環境としての利用」に近づけるものであり、またHCIはハードウェアをサーバのみとし、ソフトウェアで柔軟な仮想化環境を容易に構築・運用できるものだからだ。どちらも、「自動化によって、ITインフラにおける機動性とコスト効率の向上を目指すための出発点」と考えることも可能だ。

 CI/HCIで明らかなように、上記のソフトウェアによる付加価値に関しては、VMwareの果たす役割が大きい。仮想化基盤「VMware vSphere」の他、ソフトウェアストレージの「VMware vSAN」とネットワーク/セキュリティ仮想化の「VMware NSX」が好調なのはよく知られているが、同社は加えて運用管理/自動化ツール「vRealize Suite」、マルチクラウド統合運用サービスの「VMware Cloud Services」に力を入れつつある。

 筆者は、グローバルでの統合完了時に、「米デル、EMCの買収完了であらためて考える、新会社の存在価値とは」という記事で、「シンプルな答えを求める人にとっては、依然としてデルテクノロジーズのクラウド戦略が分かりやすいとはいえない」と書いた。

 その後、VMwareがAmazon Web Servicesとの「VMware Cloud on AWS」や、他のクラウドサービス事業者との提携を次々に発表。さらに、複数クラウドの利用を統合管理するVMware Cloud Servicesを発表したことで、VMwareとしてのクラウド戦略が分かりやすくなった。VMwareが、Dell EMCのクラウド戦略もリードすることを前提とすれば、Dell EMCのクラウド戦略も同時に分かりやすくなってくる。

日本法人2社の機能統合はどう進展したか

 この目的に照らすと、デルとEMCジャパンが2018年3月20日に語った統合後の取り組み・成果および今後の計画で、注目されるトピックは次の4点だ。

2017年度における日本での成果
2018年度の日本における重点施策

 1つはDell EMCの製品全体をカバーする統合サポートの提供と、サービスメニューの統合。2017年12月に開設の「ジャパンサポートセンター(JSC)」では、Isilonなど、これまでテクニカルサポートが統合されていなかった製品を含めてDell EMCの主要製品を全てカバー、24時間年中無休で、東京のスタッフによる日本語のサポートを提供する。また、コンサルティング、導入支援といったサービスメニューも統合したという。

 2点目は、統合を生かした収益源の多様化。トランスフォーメーションコンサルティングサービスの売り上げは、対前年比54%増、OEMおよびIoT関連の売り上げは37%増だったという。データセンターなどサービスプロバイダー向けの売り上げは2桁成長。パートナー経由の売り上げは対前年比16%増。販売パートナープログラムの統合・拡大を進めているが、今後販売パートナーとの協業はさらに拡大。各パートナーにより多くの製品を扱ってもらう働きかけも進めていくという。

 3点目は、統合製品の売り上げ増。CIとHCIの売上合計は、対前年比4倍に増加したという。また、HCIについては国内シェアナンバーワンを獲得したとしている(なお、Dell EMCはNutanixのソフトウェアをベースとしたHCI製品も販売している)。この点は、前述の通り製品戦略の観点で特に重要だ。CI/HCIは、将来に向けてITインフラを統合的に提供していくための、分かりやすい出発点といえるからだ。

 4点目はIoT(Internet of Things)への注力。デル最高技術責任者(CTO)の黒田晴彦氏は、IoT/機械学習に関連して、分散型コアを含む3層でのエンド・ツー・エンドのインフラソリューションを、Dell Technologiesが提供できることを説明した。これにはデルのIoTゲートウェイに加え、再びVMwareのNSX、AirWatch、VMware Pulse IoT Centerなどが絡んでくる。

3層でのIoTインフラソリューション

 現在、多くのIoTプロジェクトでは、IoTデバイスをクラウドに直接接続するアーキテクチャがまず検討されるが、今後はデバイスとクラウドとの間にIoTゲートウェイが挟まり、デバイス/セキュリティ管理や、ディープラーニングモデルのローカルでの実行を担うケースが増えてくる。この場合に必要な機能を一括して提供するというのが、Dell EMCのもう1つの付加価値の発揮の仕方だ。

 また、Dell EMCの日本法人では、製品販売だけでなく、「日本発プロジェクトの推進」という取り組みを進めている。この中には、日本の要望を本社の製品やソリューションに反映させる、および日本のIT製品を、デルの販売網を通じて世界に提供することを目指す活動もある。

 この活動にも力を入れている黒田氏に聞くと、「日本には面白いネタがたくさんある。私たちは販売をしているだけでなく、『日本の顧客が繁栄していくために、こういうことを一緒にやっていこう』と(本社につなぐ)活動をしている。時間はかかるが、いったん言語や時差の壁を越えれば、中身の話で盛り上がる。今後もこれを続けていきたい」と話した。

 EMCジャパン代表取締役社長の大塚氏も、「日本はDell EMCにとって最重要国の1つ。本社の技術陣も、足しげく日本に通ってくる」と補足している。

サーバ、ストレージの「今」をどうするか

 方向性としては、ソフトウェア指向の統合的ソリューションによる付加価値の増大を目指すとしても、現時点でDell EMCは、サーバとストレージを別の事業セグメントとして管理しており、それぞれの売り上げおよびマージンを最大化しなければならないことは、従来と基本的に変わらない。

 グローバルでは、2017年度におけるサーバの売り上げこそ前年比22%増(日本では17%増)だったが、ストレージに関しては成長が停滞気味のようだ。Dell Technologiesは、決算発表の場で、「2017年度第4四半期には需要が復活した」とし、積極的な研究開発投資の成果を生かして再び成長を継続していきたいと話している。ただし、ストレージ市場は急速に変化しており、一般的にいえば、製品供給側は何にどこまで力を入れるべきか、分かりにくくなっていることは確かだ。

 日本ではどうか。ストレージについては、EMCジャパン社長の大塚氏は、「(従来通り)『大容量』『高性能』『超高速』『経済性』という指向性に応じた製品ポートフォリオで価値を提供していく。オールフラッシュは、これら全てで推進している。また、今後2〜4年のストレージにおけるトレンドしては、『ソフトウェアディファインド(ソフトウェアストレージ)』、CI/HCIへの移行に対応し、成長戦略をしっかり立てて進めていきたい」と話した。

 一方、サーバに関しては、デルの代表取締役社長である平手智行氏が「デルの製品が壊れやすい」というイメージを払拭(ふっしょく)したいと話した。

 「データを見てもらえれば、そうしたことはないと分かってもらえるはず。確かに、かなり前には、PC/ワークステーションにしろ、サーバにしろ、『安かろう悪かろう』の製品が日本に持ち込まれていた時代もあった。当時はサポート体制も整っていなかった。だが近年では様変わりしている。デルの数ある製品の中から日本で販売するものを限定している。また、他社と比べてはるかに充実したサポートを国内で提供できるようになった。システムインテグレーターについても、伊藤忠テクノソリューションズ、NTTデータ、新日鉄住金ソリューションズなどが、自社のサービスで採用している」

 今年度は、デルのサーバに関するイメージを変えるためのキャンペーンを推進していくと、平手氏は話している。

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