エンジニアが生き生きと働ける「まっとうなアジャイル開発」を――永和システムマネジメントチームの変化に喜ぶ経営者も増えてきている(1/2 ページ)

ITの力を使った「コト」作りが差別化の源泉となっている今、ビジネスはまさしく「ソフトウェアの戦い」に変容しつつある。そうした中にあって、アジャイル開発は企業の成長を支え、変革をもたらすドライバーになり得るのか。15年以上にわたってアジャイル開発の手法を使って多くの企業を支援してきた永和システムマネジメントに話を聞いた。

» 2018年03月30日 05時00分 公開
[齋藤公二@IT]

 デジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドが進展し、業種・業態、B2C・B2Bを問わず「IT」が重要な顧客接点となっている。ビジネスはソフトウェアの戦いに変容し、新たな価値を創造する企画力、開発力が差別化の一大ポイントとなっているのだ。

 このような中、ソフトウェア開発の具体的な方法論として、アジャイル開発に取り組む企業が増えてきた。アジャイル開発は、ソフトウェアがビジネスのコアとなるインターネット企業では当たり前のように行われてきた開発手法だ。それが昨今のDXの流れを受け、製造業などこれまでソフトウェア開発を“なりわい”としない企業へも広がり始めている。

永和システムマネジメント アジャイル事業部 事業部長 木下史彦氏

 アジャイル開発は、そうした企業の成長を支え、変革をもたらすドライバーになり得るのか。15年以上にわたってアジャイル開発の手法を使って多くの企業を支援してきた永和システムマネジメントの木下史彦氏は「アジャイル開発を始めた当初は正直これほど浸透するとは思っていませんでした」としつつ、「開発の在り方や組織の方向性を見極めるアプローチの1つとして、アジャイル開発は有効です。“まっとうなアジャイル開発”を目指し、われわれも取り組みを強化しているところです」と話す。

 木下氏は、永和システムマネジメントのアジャイル事業部で事業部長を務め、自社担当事業部の組織運営を行うとともに、アジャイルコーチとしてアジャイルな組織運営を目指す経営者やマネジャー層への提案やアジャイルプラクティスを実践している現場の支援を行っている。木下氏に、アジャイル開発の近年の動向やポイントなどを聞いた。

製造業で開発費に占めるソフトウェアの割合が半分以上の企業も

編集部 最近のデジタルトランスフォーメーションのトレンドをどうご覧になっていますか。

木下氏 アジャイル開発は、ソフトウェアがビジネスの中心だったWeb企業のようなところから取り組みが始まって、5〜6年かけて製造業にまで広がってきました。こうした流れは、ソフトウェアのビジネスに対する重要性が高まっている結果なのかなと思っています。実際、われわれが支援している企業でも、開発費に占めるソフトウェアの割合は全体の半分以上を占めるようになっています。

編集部 それは驚きの数字です。ソフトウェア技術が大きく発展したことも背景にありそうです。

木下氏 はい。これまでハードウェアが中心だった製品もソフトウェアを使うことで新しい可能性がいろいろと出てきました。ユーザーのニーズが高まっていて、例えばクルマなら自動運転の普及によって、単に移動できればよいということではなく、移動中に得られる体験が求められるようになると思います。こうした付加価値の部分をAIやクラウド、制御技術といったソフトウェアで解決していこうという動きが今のトレンドにつながっていると思います。

編集部 製造業ではアジャイル開発にどんな期待があるのですか。

木下氏 イノベーション部門では、はじめからゴールが決まっていなかったり、これまでにない製品を作ることが目的ですので、作りながら考える必要があります。新しいサービスを世に出したい。新しい機能をユーザーの反応を見ながら作る。そういった場合には、アジャイル開発が有効という考え方が浸透してきました。

 さらにここ数年では、イノベーション部門のようなところだけではなく、主力製品を開発している事業部門でもアジャイル開発への取り組みが始まっています。このような場合は製造コストの削減に期待されているケースが多いです。特に、開発費に占めるソフトウェアの割合が無視できるレベルでなくなった昨今では、その傾向が強くなっています。

 しかし、製造業の中でも本当に人命に関わるような開発への採用はまだまだこれからという印象です。とはいえ、ソフトウェアの重要性は高まっていきますから、今後、アジャイル開発の採用は広がっていくと思います。

 弊社もアジャイル事業部では、システム開発とコンサルティング・人材育成の両面から支援を行っています。つまり、われわれがメインで開発するパターンと、われわれが顧客に入って内製化のお手伝いをするという2つのパターンがあります。特に内製化は、製造業のお客さまをはじめ、ニーズが増えていると実感しています。

一番の鍵を握るのはプロダクトオーナー

編集部 とはいえ、アジャイル開発への期待は高まっているものの、なかなか進まないという声が多いのが現実のようです。実際に企業を支援されていて、何が阻害要因になっていると考えていますか。

木下氏 幾つかあるのですが、一番の鍵を握っているのはプロダクトオーナーです。顧客と開発チームの間に立ってさまざなやりとりを担うのがプロダクトオーナーですが、プロダクトオーナーがうまく機能しないと、まさにボトルネックのように顧客と開発との間の流れをせき止めてしまいます。うまく機能させるためのポイントは、適切な権限を与えること、適切なマインドセットとスキルセットを持つことです。

 例えばプロダクトオーナーにしかるべき権限が与えられていないと、「プロダクトオーナーに聞いても分からない、分かっていても判断できない」という状況に陥ります。プロダクトオーナーが上司や外部のステークホルダーに承認を求めないと進められない環境では、スピードが落ち、アジャイル開発が回せなくなってしまいます。

 また「開発チームに任せているから作ってよ」といったマインドセットでは、開発チームが顧客のニーズを的確に把握できません。開発と情報共有し、顧客の代表としてその場で意思決定できることが重要です。そのための権限、マインドセット、スキルが求められるのです。

編集部 プロダクトオーナーを確保することすら難しい場合もあると思います。

木下氏 おっしゃる通りです。現場が権限を持つということは、経営に関わる意思決定を現場が行うということでもあります。経営者の強い後押しなしには取り組みが進められないのです。取り組みの中で新しい課題も出てくるので、さらなる権限委譲が必要になる場合もあります。そこから「会社の組織や仕組みを変えていく」という大きな話に発展することも少なくありません。

アジャイル開発に必要なスキル、マインドセット

編集部 一方、開発チームについてはいかがでしょうか。

木下氏 アジャイル開発を行うスキルを持った開発者が集められないという課題があります。ベンダーに依頼して「○○というスキルを持った人を出してください」と言っても、うまくスキルがマッチしないのです。そこで、求められた開発言語でのプログラミング経験がない人まで集めてきて開発チームを作っているところもあります。そうすると、今度はそうした人を「どうやって育成していくか」が課題になってきます。ユーザー企業の中には、アジャイル開発に取り組んでいることを積極的にアピールすることで、ベンダーなどに頼らず、欲しい人材をピンポイントでスカウトして集めるところも出てきていますね。

編集部 具体的には、どんなスキルが必要になるのでしょうか。

木下氏 われわれが最も重視しているのは「テスト駆動開発」です。アジャイル開発支援のご相談をいただいたときは、まずはテスト駆動開発の研修から実施することが多いです。そこがスタート地点であり、テスト駆動開発の経験者を最初に集めることができれば、比較的早くアジャイル開発を進める体制を立ち上げることができます。朝会やふりかえりといったプラクティティスと比較して、テスト駆動開発のような技術スキルの習得には時間がかかるのです。立ち上げ時にメンバーの半分以上がテスト駆動開発の経験があれば、ペアプログラミングを通して、チーム内でスキルを伝えていくこともできます。

 スキルと並んで大切なのは、やはりマインドセットだと思います。「顧客とどういう接点を持ち、どう作るのか、どう話し合うのか」といったアジャイル開発を推進する全ての要素は、顧客のプロダクト・サービスのことを自分事として考える“エンジニアの態度”の上に成り立っています。

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