Googleの検索機能、PS4内の広告や購入導線に見る、習慣化されたUXをビジネスにつなげるプロモーションもう迷わない! ビジネスを成長させるUXデザイン手法の使い方(4)

B2C、B2B問わず、ITサービスがビジネスに不可欠な存在となった近年、UXデザインに対する企業や社会の認識は一層深まっている。にもかかわらず、「使いにくいサービス」が減らない原因とは何か?――今回は、ユーザー行動の習慣化を先行させて、それをビジネスにつなげるための道しるべを紹介する。

» 2018年05月31日 05時00分 公開
[土屋晃胤秀玄舎]
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 今回はユーザー行動の習慣化を先行させて、それをビジネスにつなげるための道しるべを紹介する。これまでの連載ですでに説明しているUXデザインをビジネスに貢献させる3条件は変わらない。

図1 復習:連載第4回の今回は、先に左上の領域が先行している状態から、中央の共通解へ導く流れを説明する

 今回は、すでに「ユーザーの満足度」が高く「一貫したデサイン」でプロダクトが提供され、ユーザーが習慣化しているがもうからない場合に使える考え方を紹介する。例えば、「開発チーム主導で配信した無料アプリがBuzz(バズ)ったが収益化のアイデアを組み込んでなかった」といったケースをイメージしてほしい。

Googleの検索機能

 ユーザーにとって満足度が高く、利用が習慣化されている機能の代表例として、Googleの検索機能を挙げる。この機能に関して説明は不要だと思うが、「Googleが掲げる10の事実」にあるように、Googleはユーザーにとっての価値や満足度を優先してプロダクトを開発している。こうしてユーザー行動の習慣化に成功したプロダクトを収益化するときの1つの王道は、プロダクト内に方向性に合った広告を入れることだ。

図2 Googleの検索機能:プロダクト(検索結果)の中に関連付けされた広告が表示されている

 図2に示したように、Googleの検索結果には上部に検索キーワードに関連付けられた広告が表示される。広告主が検索キーワードへの関連付けを行っているため、的外れな広告が表示されることはない仕組みになっている。

PS4内の広告や購入導線

 もう1つ事例として、連載第3回(前回)で紹介したPlayStation 4(以下、PS4)の事例に追加した購入動線や広告を紹介する。

 「Live from PlayStation」(PS4ゲームに関するライブ配信や録画動画/静止画を見るアプリ)内では、そのゲームを所有していない場合、「購入」への導線が付けられている。これは「ゲームAの配信を見る」という行動から、「ゲームAへの興味、関心」を持っているまたは今後持つ可能性が高いという因果関係の分析に基づいている。「配信を見て興味を持ったゲームをストア内で探さなくてもすぐに購入ページに行ける」という導線の改善が、ユーザーの満足度や広告価値を上げている。

図3 Live from PlayStationの視聴画面:気に入って飛び入り参加したくなれば、何時でも配信中のゲームを購入できるようにデザインされている

 同様に「What's New」(PS4ゲームに関するニュースフィード)の「フレンドのプレイログ」にも、そのゲームを所有していない場合「購入」への導線が付けられている。

図4 What's New内のプレイログ画面:ここからは、ストアで詳細を確認して購入もできるようになっている

 ちなみにこれらの購入導線は、ゲームを所有している場合には「はじめる」ボタンや「ダウンロード」ボタンが配置されるようになっており、ユーザーには「スムーズなゲームへの動線が置かれる場所」と無意識に認知、記憶されるように工夫されている。

図5:What's New内の広告表示:ユーザーの興味や関心事とマッチしている割合は汎用SNSに比べかなり高い

 また、そもそもWhat's NewはPS4のゲームやゲーマーフレンドに関するニュースフィードのため、PS4のゲーム広告を出す場所として他のSNSのニュースフィードよりも価値が高い。FacebookやTwitterなど汎用的なSNSがターゲティング広告に苦労している中、このような、ある特定分野に特化したSNSは「ターゲティング広告の容易さ」「ユーザー満足性の上げやすさ」から登録者数だけでは測れない価値を持つ。これらニッチSNSは、興味や関心事が多様化する中、数や登録者数を増やしていくと筆者は考えている。

連載第4回のまとめ

 連載第4回における、ビジネス・ユーザー・デザインの共通解への道順としては、事例ごとに少し異なるが、プロダクトと融合したプロモーションによりビジネス面を強化している(図6参照)

図6 ユーザー行動を習慣化させているプロダクトの収益面を強化するプロモーションの組み込み方
  1. 先にユーザー行動の習慣化を達成する
  2. そのプロダクトと同じ方向性を持つ広告や購入導線を入れる

 「UXデザインの一貫性」と崩さない形でプロダクトとプロモーションを融合させることが重要だ。

ビジネスゴール パート(連載第2〜4回)のまとめ

 また連載第2回(前々回)で説明した例は、同様の形式で表すと図7のようになる。

図7 共通解への流れ【1】:購入という収益性に直結するプロセスの一貫性と満足性を高める

 既存の事務的な購入や開封プロセスを見直したいとすると、中央下から中心を目指すことになる。このときに必要な観点は、連載第2回で説明したコンセプトの統一やユーザーの期待感を盛り上げるストーリーだ。

 連載第3回(前回)で説明したユーザー行動目標(UX-KPI)を掲げる際のポイントは、ビジネス目標とユーザー目標の共通解(隠れた因果関係)を見つけることだ。ここでは企画部門の役割が重要になる。それに向けたUXデザイン対象を広く考えたり、他分野での成功例を応用したりすることで、UXデザインは進めていく。

図8 共通解への流れ【2】:ユーザーとビジネスの共通ゴール(UX-KPI)を掲げて、その達成のためのUXデザインを検討していく

 第2〜4回の道順を合成すると図9のようになる。スティーブ・ジョブズのような天才であればステップなしに一度に3つの共通解を求めてもいいが、筆者は凡人なので図9のように概念を整理して「足りない要素」「加速させられる付加要素」を整理するようにしている。

図9 UXデザインを生かすビジネスゴールへの共通解への流れ3パターン

 これらの図はそのまま検討プロセスとするには抽象的ではあるが、下記が重要であると考えている。いずれもUXデザイナーには必要な能力だ。

  • 右下のエリアでは企画(マーケティング)力
  • 左下のエリアではUIやビジュアルに対するデザイン力
  • 上のエリアでは要求の想像力、創造力、(実現力)

 ここまで連載第2〜4回を通して、UXデザインがビジネスに貢献しているゴール状態とそのゴール状態に至るまでの概念的なステップを説明した。この内容を記憶し思い出すには、2つのUXに関する筆者の解釈が役に立つはずだ。

  • 【解釈1】UXとは、TPOをつなぎユーザー行動を習慣化させるキーワードである
  • 【解釈2】UXとは、ビジネス・デザイン・ユーザーの共通解への道しるべである

 次回からはいよいよ、各種UXデザイン手法の役割と使い方の説明に入っていく。

「PlayStation」および「PS4」は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です

著者プロフィール

土屋 晃胤(つちや あきつぐ)

秀玄舎 ITコンサルタント

大手メーカーでの社内エンジニア、プロジェクトマネジャー、ゲーム機のホーム画面やお知らせなどメイン機能のプロダクトマネジャーを経て、プロジェクトマネジメントコンサルタントとして現職に転職。ビジネスの課題をIT・マネジメント・デザインの融合により解決し「あらゆるシステムをユーザーが思うままに使える世界」を実現するため、活動の幅を広げている。


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