【USB】第3回 USBの充電仕様「USB Battery Charge」とはITの教室(2/2 ページ)

» 2018年06月01日 05時00分 公開
[塩田紳二]
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充電専用ポート(DCP)

 充電専用ポート(DCP)は、充電器など、電力を供給するだけの機器が持つUSBポートである。最小で0.5Aの出力が可能だが、最大で5.0Aを越えることはできない。なお、実際の出力は、ポータブル機器(PD)の充電機構により決まる。

 充電専用ポート(DCP)は、USBのデータ信号線である「D+」と「D-」を短絡しており、これをポータブル機器(PD)が検出する。このような構造になっているため、充電専用ポート(DCP)に接続した場合、USBによる接続(データ通信)は行えない。これをカバーするのが後述の充電USBアダプター(ACA)で、充電専用ポート(DCP)を持つ充電器と組みあわせることで、USBによるデバイス接続と充電を両立させることができる。

充電USBポート(CDP)

 充電USBポート(CDP)は、PCなどのUSBホスト機器がポータブル機器(PD)の充電とUSB接続を同時に行うためのものだ。供給可能電流は1.5〜5Aとなっており、通常のUSBポートよりも大電力の供給が可能だ。

 形状は、通常のUSBポートと同じで、普通のUSBポートとしても利用できる。ただし、USB-BCに準拠したデバイスが接続され、ハードウェアによる検出が相互に行われると、通常のUSBポートよりも大きな電力が取り出せるようになる。

 また、充電USBポート(CDP)として動作するためには、ホスト側、デバイス側のポータブル機器(PD)の両方で、相手がUSB-BC対応機器であることを確認する必要がある。

標準USBポート(SDP)

 標準USBポート(SDP)は、PCなどに装備されている普通のUSBポートである。この標準USBポート(SDP)は、電力供給に関しても普通のUSBポートとまったく同じである。

 USB-BCの仕様に標準USBポート(SDP)が含まれているのは、すでに市場には、標準USBポート(SDP)を装備した機器が多数あるため、ポータブル機器(PD)に接続される可能性が高く、ポータブル機器(PD)はこれを確実に識別する必要があるからだ。逆にいうと充電専用ポート(CDP)、充電USBポート(CDP)は、標準USBポート(SDP)と明確に区別ができるように定義されている。

 ポータブル機器(PD)は、標準USBポート(SDP)に接続していることを検出した場合、USBによる制御を行わなければ最大100mA、USBで接続を行い、制御を行えば最大500mA(USB 3.xのSuperSpeedポートならば最大900mA)の電流を受け取ることができる。

充電USBアダプター(ACA)

 充電USBアダプター(ACA)は、ポータブル機器(PD)と充電専用ポート(DCP)または充電USBポート(CDP)の間に入り、充電とUSBデバイス、ホストとの接続を同時に実現するための機器を指す。

充電USBアダプター(ACA)の形態
アクセサリー充電アダプター(ACA)は、USB-BCの充電ポートとUBS機器の接続を行うアダプターと、ドッキングステーションのような構造を想定する。

 また、この変形としてドッキングステーションのようにポータブル機器(PD)と直接接続する構造を持つACAドックという機器も想定されている。ACAドックの場合、電源をUSB-BCに従わない専用電源を使うことができる。

 ACAは、マイクロUSBコネクターにあるID信号を使って、3つのACAのタイプを伝達する。

ACAの種類 説明
ACA-A ポータブル機器(PD)をホスト(Aデバイス)とする
ACA-B ポータブル機器(PD)はデバイス(Bデバイス)だがホストとは接続しない
ACA-C ポータブル機器(PD)はデバイス(Bデバイス)でホストと接続する
3つのACAタイプ

 また、ACA Dockは、機器としてはACA-A〜Cと区別されるが、振る舞いとしてはACA-Aと同じになる。

 USB-BCでは、充電USBアダプター(ACA)への対応はオプションで必須ではない。アダプター構造のとき、電源は、充電専用ポート(DCP)か充電USBポート(CDP)のどちらかを接続することになっている。そのため、ポータブル機器(PD)は、どちらかであるのかを判別して動作する。

 ドッキング形式がアダプター形式と区別されるのは、充電器を専用として、仕様を定めていないからである。とはいっても、USBコネクターなどの仕様から供給電流、電圧などの制限を受ける。

充電ポートの判別

 ポータブル機器(PD)は、接続された充電ポート(CP)や充電USBアダプター(ACA)を検出するためのハードウェアを内蔵する。USB標準ポート(SDP)の検出は、USB 2.0で規定されたハードウェアであることを前提に検出を行う。これに対してUSB-BCで新たに定義された充電専用ポート(DCP)は、「D+」と「D-」の信号線を短絡してありSDPやCDPと容易に区別ができる。

 充電USBポート(CDP)は、接続相手がUSB-BCで定義されたポータブル機器(PD)であるかどうかを判別するハードウェアを持つ。充電USBポート(CDP)では、双方がUSB-BCに準拠した機器であることを確認したのち、充電用に大きな電流を供給可能にする。

 これに対して充電専用ポート(CDP)は、何が接続されても、仕様範囲内の電力を供給する。また、標準USBポート(SDP)は、USBコネクターの接続で最大100mAの電流を提供し、USBで接続した後ならば、最大500mA(USB 3.xならば900mA)を出力することが可能になる。

 ポータブル機器(PD)のバッテリー容量がゼロになっている場合、コントローラーやメインCPUを動作させることができない。このような場合、充電専用ポート(CDP)ならば、何も制御が行われないため、充電状態に入ることができる。

 また、充電USBポート(CDP)や標準USBポート(SDP)では、仕様から最大100mAの電流を出力でき、これを充電に利用することができる。こうした状態をUSB-BCでは、「Dead Battery」と呼び、このときの挙動を「Dead Battery Provision」と呼ぶ。

 バッテリー充電量が少なく安定的に動作できない状態(Weak Battery)に合わせて、ポータブル機器の動作を定めた「Weak Battery Algorithm」を定義している。ただし、「Weak Battery Algorithm」を実装するかどうかはUSB-BCではオプションとされている。

 初期段階では、SDPに接続していることを仮定して100mAまで供給が可能として充電動作を行う。このままポータブル機器側のCPUなどが動作できず、USB接続に移行できないとき、接続先が充電専用ポート(DCP)であるなら、ポータブルデバイスは、充電器を使う通常充電状態に、そうでなければ、100mAまでの標準USBポート接続を前提とした充電モードに入る。

 その後、ポータブル機器側の充電量が回復し、通常動作ができるようになった段階で、通常の充電ポート(CP)判別(「Good Battery Algorithm」と呼ばれる)を開始する。なお、「Weak Battery Algorithm」で接続先が標準USBポートまたは充電USBポートで、十分な電力が得られない状態が続いて、充電ポート側の電力を無制限に消費しないように100mAの出力を受けられるのは45分までと定められている。

 ポータブル機器(PD)は、接続相手がどの充電ポート(CP)であるかを判別するだけでなく、充電ポート(CP)でないことも認識する。例えば、過去には、PS/2にもUSBにも接続可能なマウスやキーボードがあり、付属品としてUSB標準AプラグをPS/2プラグに変換するアダプターが世の中には大量に出回った。これを使うと、PS/2コネクターからUSB機器に対してVBUSと同じく5Vの電圧を提供できる。

 ただし、PCのPS/2ポートには、USBをエミュレーションする機能はなくUSBポートとしては動作しない(マウスやキーボードの内蔵コントローラーが接続先を判別してUSBとPS/2を切り替えていた)。このような場合にも、ポータブル機器(PD)は、相手が充電ポート(CP)でないことを正しく認識できる。その他、USBコネクターを使う独自方式の充電器(D+信号ラインが2.0V以上になるもの。例えば、Apple仕様の充電器のUSBポート)なども充電ポート(CP)と区別できる。

USBを使うメーカー独自充電仕様

 ここからは、USB仕様とは別に独自に作られUSBコネクターなどを使う充電システムについて解説する。前述のようにこうした仕様には、 幾つかあるが、単に電力を出力するものに関しては、何も仕様がないので解説しない。

EU仕様

 EUでは、消費者保護や効率的な製品開発のため、域内での規格や仕様の統一を行っている。そのうちの1つとして携帯電話の充電器が問題になったことがある。当時、携帯電話の充電器はメーカーごとに違い、それぞれが専用のコネクターを持つ専用の充電器を使っていた。EUでは、これを問題とし、2009年に「Harmonisation of a Charging Capability for Mobile Phones」という文書(Memorandum of Understanding)を発行し、デバイス側のコネクターにマイクロUSBを使うことを推奨した。

 これには、主要なスマートフォンメーカーが同意し、少なくともEU圏で販売されるスマートフォンや携帯電話についてはマイクロUSBによる充電が可能になった。なお、独自コネクターを持つ機器(例えばAppleのもの)などは、アダプターを使うことでマイクロUSBを接続できるようにしてある。

 その仕様は、EU圏だけでなく、広く利用された。この仕様では、充電器が接続されていることを示すために「D+」と「D-」の信号線を短絡することが指定されている。なお、この仕様は、のちにUSB仕様となるUSB Battery Charge Rev.1.2 に取り込まれ、現在では、標準的な充電方法となっている。

Apple独自仕様

 AppleのiOS搭載機器は、USBデバイスではないものの、変換ケーブルによりUSB接続が可能になっている。また、標準のACアダプター(充電器)で付属のUSB変換ケーブルを利用するものは、充電器側のコネクターがUSB標準Aレセプタクルになっている。

 このため、市販の充電器の中には、Apple仕様に対応したものがある。この仕様では、「D+」と「D-」を異なる電圧(2.0Vと2.7V)にしておくことで、本体側が充電器と接続されていることを認識する。

 具体的にはそれぞれの信号に指定された電圧が現れるように2本の抵抗で「V+」と「V-」に接続している。この方式は、USB-BCや以前のEUの充電器仕様に従うものとは互換性がないため、Apple仕様の充電器をAndroidなどに接続すると、正しく充電が行われない可能性がある。

 また、市販の充電器の中には、明確にApple仕様やiOSデバイス用と表記してないものの、実際にはApple仕様でしかないものもある。

Qualcommの独自規格「QuickCharge」

 QuickChargeは、Qualcommの開発した高速充電仕様で、充電器側とデバイス側の双方が対応することで、電源電圧を5V以上に変更し、高速な充電を可能にする。

 ただし、その仕様は、一般公開されておらず、概略のみしか分からないが、逆にいうとQuickChargeに対応した充電器などは、必ずライセンスを受けており、パッケージや説明書などにQuickChargeに対応していることを示すロゴなどが表記されているはずである。

 また、対応した機器のリストは、Qualcommのサイトにある。QuickChargeでは、USBデータライン(「D+」と「D-」)を使い、充電器とスマートフォンが通信を行って充電器が供給電圧を変更できる。仕様書が公開されていないので、互換性については分からないが、少なくともQuickCharge非対応機器に高電圧を供給してしまうようなことはないと思われる。Qualcommによれば、QuickChargeは、USBの各種仕様を考慮して作られており、共存が可能だという。

 なお、QuickChargeには、1.0/2.0/3.0/4.0/4.0+と 幾つかのバージョンがあり、出力電圧の違いでClass AとClass Bがある。

その他の独自仕様

 この他にも、ソニーやMotorolaなどが過去に独自仕様で高速充電を行う仕組みを持っていた。これらはお互いに互換性はなく、こうしたタイプの充電器を他の用途に使うことは、直ちに危険とまでは言わないものの、充電などがうまくできない可能性もあり、できればやめたほうがいいだろう。

 問題は、現在ユーザーの手元にある充電器が独自仕様のものなのか、そうでないものなのかを簡単に判断できない点だ。機器によっては、外見が普通のUSB充電器にしか見えない、あるいは出力がマイクロUSBになっているため、回路を調べない限り、独自仕様かどうかを判断できない。

 また、充電とは直接関係ないが、USBポートを映像出力と兼用させているスマートフォンやタブレットなどがある。USBコネクターに変換アダプターを接続することで、HDMI出力などを可能にするものだ。仕様としてMHL(Mobile High-Definition Link)やSlimPortなどがある。

 これらは、スマートフォン側のコントローラーに映像出力とUSBを切り替えて利用するためのデバイスが組み込まれており、外部アダプターを接続することで映像出力を取り出すことができる。このとき、据え置きで使ったり、長時間のビデオ再生などが想定されたりするため、外部からスマートフォンなどに電力を供給する仕組みを持っている。また、これらのアダプターを最初から組み込んだテレビセットなども存在する。

 こうしたことから考えると、古いスマートフォンなどに付属していた充電器を使う場合には注意が必要だ。おおまかな目安としては、EUによる充電器の仕様が発表された2009年以前のものは独自仕様のものが含まれる可能性がある。独自仕様の充電器を他の機種に利用することはできれば避けたい。

 一般にどの国でも電源機器には、一定の水準を満たし、一般ユーザーの誤用を含めて火事などを発生させないような規格になっている。このため、すぐに発煙や発火といった事態になることは考えられないが、いわゆる粗悪品や設計ミスのある製品が出回っていないという保証はない。実際、ACアダプターのリコールなどはよくニュースなどで見聞きする。

 同様に2009年以前のスマートフォンは、独自仕様になっている可能性があるため、USB-BCに準拠している最近の汎用充電器などを使うと、USBポートに接続されていると判断し、充電時間が遅くなってしまう可能性がある。

 次回は、USB 3.xについて解説する予定だ。

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