東京編:YOUは何しに奥多摩へ?――山の廃校で語学教育とシステム開発と地域活性化を模索する“くらげ”たちITエンジニア U&Iターンの理想と現実(46)(3/4 ページ)

» 2018年07月23日 05時00分 公開
[加山恵美@IT]

日本のマンガやアニメに憧れて

クラウディアさんとデビッドさん。奥多摩にて語学の勉強とプロダクト開発する日々を送っている

 現在、BITでは1期生と2期生が修学している。2人の生徒に来日の経緯やここでの生活についてお話を伺った。

フィリピンから来たデビッドさん。好きな日本アニメは「僕のヒーローアカデミア」

 デビッドさんはフィリピン出身、ダイビングが好きな男性だ。フィリピンの大学でITサイエンスを専攻し、卒業後はWebエンジニアとして3年ほどサイト構築などを経験した。日本のIT技術の高さを評価し、日本アニメ好きも加わり、日本で働くことを目指して週末に語学学校に通っていた。SNSがきっかけでJELLYFISHのBITを発見し、応募したという。

 クラウディアさんはインドネシア出身、バレーボールやバスケなど球技が好きな女性。働きながらインドネシアの大学でコンピュータサイエンスを学んでいた。卒業はまだ先だが、単位取得と卒論を終えているため、BITに来ている。JELLYFISHがパートナーシップを結んでいるインドネシアの大学でBITを知り、応募した。

 生徒たちは、開発ラボでのアルバイト代で生活費をまかなう。貯金して旅行する生徒も多い。デビッドさんは夏に沖縄旅行を計画している。クラウディアさんは新宿御苑で桜を観賞したり、各地の名所を観光したりするなど、日本を満喫している。「広島の尾道、神戸の布引ガーデンがすてきでした」と目を輝かせる。

インドネシアから来たクラウディアさん。好きな日本アニメは「ワンピース」「東京喰種」

 生徒たちは奥多摩もエンジョイしているようだ。奥多摩は東京でありつつも都会ではない。クラウディアさんは初めてこの地に着いたとき、「ここは東京ですか?」と驚いたという。

 それでも彼らは奥多摩を気に入っている。クラウディアさんは「都心より好き」、デビッドさんは「自然があるところが良い」と話す。暖かい地域出身者が多いためか、昨冬初めて雪が降った日は、多くの生徒が大喜びしたそうだ。人生で初めて見る雪だ。それは感激したことだろう。

 卒業後の進路はどうするのだろうか。1期生の中には、日本のIT企業に就職したり、自国に戻って起業したりした人もいるという。デビッドさんとクラウディアさんは目下、日本のIT企業入社を目指して就活中だ。

 クラウディアさんは「日本で働きたい。いろいろな経験が積めそうだから、まずはスタートアップに就職したい」とITのスペシャリストとしてのキャリアアップを目指している。デビッドさんは日本で20年ほど働いた後に、自国で起業したいと話す(デビッドさんは取材後、ITベンチャー企業に就職が決まり、BITを卒業した)。

地域とのコミュニケーション、そしてコミュニティーの創造へ

 BITを通じて地域との交流も生まれつつある。生徒たちは、地元の方々とバレーボールで遊んだり日本料理を教わったりして、地域の人々と触れあっている。

 「奥多摩の課題をITのチカラで解決するサービス、プロダクト」をテーマとした学習プロジェクトでは、フィールドワークを通して地域とコミュニケーションを取り、町の方々を学校へ招いて発表をする。ITリテラシーが高くはない地元の方々にも分かるよう工夫をして、サービスやプロダクトの企画、開発をしている。

 地域とコミュニケーションを取ることで、生徒たちにとっても奥多摩の地域活性化は「自分ごと」となった。

 JELLYFISHの奥多摩での事業構想には、この場を活用したインキュベーションもある。ゆくゆくは奥多摩の地域活性化に役立つ事業につなげたいと考え、コミュニティー運営にも力を入れ、起業家やアントレプレナーを集めたミートアップBBQなど、さまざまなイベントを、日々、企画運営している。

 肥田氏は「この事業構想を成功させるにはあと数年はかかるでしょうね。仕方がありません」と話す。時間がかかるからといって、肥田氏は諦めているわけではない。奥多摩に移住もしているように、決意は固い。

午前中の授業風景。単純に語学を学ぶのではなく、プロジェクト形式で奥多摩の歴史などを研究する

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