大規模プロジェクトやプログラムを救う10のステップGartner Insights Pickup(71)

大きなプロジェクトやプログラムの救済が必要になることがよくある。プロジェクトマネジャーやスポンサーは、10ステップのプロセスを踏むことで、これを救うことができる。

» 2018年08月10日 05時00分 公開
[Rob van der Meulen, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 大きなプロジェクトやプログラムの救済が必要になる理由は多々ある。例えば、ステークホルダーの関与不足、リソースの制約、過度の遅れ、緊急予備費を上回るコスト増大などだ。理由が何であれ、救済が賢明かどうか、さらには可能かどうかを判断し、その結果に応じて事を進めるためのプロセスを決めておけば便利だ。

 「大きなプロジェクトやプログラムの進捗(しんちょく)がKPI(重要業績評価指標)に照らして芳しくなく、改善の試みが既に何度も失敗していると絶望感に襲われがちだ。だが、取り組みが成功し、明確なビジネス価値が得られるのであれば、Gartnerの10ステップのプロセスに従って、効果的な立て直しを図るとよい」と、Gartnerのリサーチバイスプレジデントを務めるマット・ライト氏は語る。

ステップ1.“作業中止”の命令を出す

 大きなプロジェクトやプログラムに時間とお金を投じるのをやめるのは、「言うは易く行うは難し」だ。救済計画の策定には何週間もかかることがあり、プロジェクトやプログラムのために熟練したリソースに割り当てられた時間は、何らかの手を打たなければ無駄になってしまう。ハードウェアやソフトウェアの購入をやめるのは簡単だが、チームの活動を中止させるのは大変だ。「代わりに、価値のある生産的な仕事を割り当てることができるか」「チームの再編までにどれだけ時間がかかるか」といったことを考えなければならない。

ステップ2.全ての人と話す

 全ての主要なステークホルダー、またはその代表者(通常、10人未満)へのインタビューを行う。名前を伏せることを保証し、問題や課題に対する、率直かつ誠実な評価を促すようにする。これらのインタビューでは、政治的および文化的な立場も把握するとともに、救済による許容可能な現実的な落としどころについて、全てのステークホルダーの見解を集めることが重要だ。

ステップ3.限度を設定する

 これは「『限界』を定義する」ということだ。救済のための費用や投資の上限を決めなければならない。全てのプロジェクトやプログラムを救えるわけではないため、どこで見切りをつけるかをステークホルダーと取り決めておく必要がある。

ステップ4.根本原因を見つける

 通常、ステークホルダーとのインタビューでは幾つかの問題が特定されるが、それらは一般的な言葉で語られる。例えば、「複雑度が高い」「目標が不明確」といった具合だ。だが、こうした問題認識では、問題に効果的に対処するのに必要な具体的な状況把握が欠けている。問題を掘り下げる質問を繰り返し、詳しい原因を究明するとよい。こうした質問の1つのテクニックが、リーン生産方式などで使われる「5つのなぜ」と呼ばれるものだ。

 例えば、車が動かない場合、「なぜ」の問いかけとそれに対する回答を次のように繰り返す。

  • 1つ目の「なぜ」:バッテリーが上がっている
  • 2つ目の「なぜ」:オルタネーターが機能していない
  • 3つ目の「なぜ」:オルタネーターベルトが切れている
  • 4つ目の「なぜ」:オルタネーターベルトが有効寿命よりはるかに長く使用され、交換されなかった
  • 5つ目の「なぜ」:車が推奨サービススケジュールに従ってメンテナンスされていなかった(根本原因)

ステップ5.リスクを評価する

 これまで成果物の納品がなされていない場合、根本原因への対処が行われていない恐れがある。このため、そのまま救済を試みるのは賢明ではないということになる。さらに、救済のプロセスで新しい大きなリスクに直面する可能性もある。救済に伴うリスクを特定し、それらを軽減する計画を立てなければならない。主要なリスク領域には、複雑さ、技術、オペレーション、外部、組織、スケジュール、財務などがある。

ステップ6.“戦争”に備える

 主要なステークホルダーや意思決定者と集まり、行動計画を策定するための準備を行う。準備には以下が含まれる。

  • 議題と時間配分を明記した会議進行表を前もって作成する
  • 出席予定者全員に意見とフィードバックを求めておく
  • 共同作業用ワークスペースを作り、ワークショップ前の情報共有や準備と議論の促進につなげる
  • 議論や分析を支える事実や統計を含む資料、情報を全て用意する

ステップ7.主要なステークホルダーのエンゲージメントをあらためて確保する

 準備が全て整ったら、主要なスポンサー、ステークホルダー、意思決定者を一堂に集める(出席者が向かい合うレイアウトの部屋が理想的)。用意されたさまざまなシナリオを検討し、次のステップについて合意する。

 このワークショップは、実態の究明や新たな問題提起を行う場ではない。そうした脱線を避けて議題に沿って議論を進めるのは主催者(多くの場合、プロジェクトマネジャー)の責任だ。答えを出すべき重要な問題は以下の通りだ。

  • 救済コストを考慮しても、ビジネスケース(投資対効果)は有効か
  • 有効でない場合、救済の正当な根拠となる新しいビジネスケースを作成できるか

 この段階では、プロジェクトやプログラムの打ち切りも、常に選択肢として検討しなければならない。

ステップ8.前に進むことを決める

 プロジェクトやプログラムの打ち切りを決めた場合でも、ワークショップ後には大規模なフォローが必要になる。ワークショップで、修正計画によって主要なステークホルダーなどのエンゲージメントがあらためて確保された場合は、他の参加者に働きかけて次のステップについて最終決定を行うとよい。

 ワークショップで醸成された機運を捉え、できるだけ早く、理想的には1日以内に、最終決定に持ち込むことが極めて重要だ。こうして決定された方針を基に確固たる計画を立てるのに必要な追加情報があれば、迅速に収集する。

ステップ9.責任を確認する

 計画を確実なものにする。プロジェクトやプログラムがしばらく保留されていた場合、一部のリソースは割り当てが解除されており、再度割り当てるか代わりのリソースを割り当てる必要がある。また、優先順位や計画が変更されている場合は、個々人とチームが新しい枠組みの中での自らの責任を明確に確認することが重要だ。

ステップ10.期待を再設定する

 救済が進められ、主要なステークホルダーの責任が確認(または再確認)されたら、プロジェクトのプロファイル、形態、規模がどのように変更されたかを、コアチーム以外にも周知する。

 期待される結果や戦略的な整合性を強調し、変更の影響も明確に説明する必要がある。フィードバックを歓迎する姿勢を示すのもよいが、「新しい方針が決定され、それに基づいてプロジェクトが進んでいる」ことを明確に伝えなければならない。

出典:How to Rescue a Major Project or Program in 10 Steps(Smarter with Gartner)

筆者 Rob van der Meulen

Manager, Public Relations


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