レシート画像買い取りアプリで話題になった高校生CEOが今、やっていること今度はスタートアップ支援企業と提携(2/2 ページ)

» 2018年08月20日 05時00分 公開
[三木泉@IT]
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 キャンペーンを実施するクライアントは、画像買い取りのコストと報酬を、ワンファイナンシャルに支払う。見返りに得られるメリットは、画像情報の取得、およびユーザーが画像を送信した際アプリに表示される広告。簡単なアンケートを付加することもできる。そう聞くと、『アンケートの回答と引き換えにポイントを付与するWebサイトやサービスと、変わらないのではないか』と考える読者がいるかもしれない。違いは、ポイントではなく(銀行口座に振り込まれる)現金であること、そしてスマートフォンで撮影した画像をメインのツールとして使うことにある。

 DMM AUTOと実施したキャンペーンでは、ガソリンスタンドのレシートを買い取っている。このケースでは、DMM AUTOがレシートの内容に興味を持っているというより、広告を通じて、リリースしたばかりの自動車査定・買い取りサービスをアピールしたいというのが動機のようだ。ガソリンスタンドのレシートを送ってくるユーザーは、自動車オーナー(あるいはその家族)である可能性が高い。つまりガソリンスタンドのレシートは、広告をターゲティングする役割を果たしている。

 「競合他社の顧客を捕捉することもできます。例えば飲料メーカーA社が競合相手であるB社の飲料の画像を買い取り、これに対して自社の飲料を広告宣伝することができます。呼びかけ方は、『好きなコーヒー飲料の画像を撮って』でもいいわけです」

 前出の恒田氏は、ONEが広告出稿先というだけではなく、オンラインクーポン媒体としても機能すると指摘する。

 「日本ではオンライン広告市場1.7兆円の10倍、17兆円が販促費として使われているとされています。これは元々、販売実績に応じて、小売店舗に支払われてきたお金ですが、オンライン小売りがあまりにも強いため、メーカーはユーザーに直接アピールしなければならないと感じ始めています。そこで、スマートニュースやルトロンのようにこの市場を狙い、オンラインクーポン事業に乗り出すメディアが増えています。ONEでも、購入した商品の写真画像に基づいてキャッシュバックを行う仕組みが作れます。元々販促費は、買った(買われた)という事実に対して支払われるお金ですが、ONEの場合は写真がある程度の証拠になります」(恒田氏)

 より確実な証拠として使えるようにするため、ONEではメーカーが靴などの商品の箱に貼るQRコードも提供し始めているという。「既に複数のクライアントがついていて、3、4カ月後にはスタートできると考えています」と山内氏は話す。ユーザーが、購入した靴の箱にあるQRコードをONEアプリで読み取って送ると、キャッシュバックが受けられる仕組みだ。

 「写真を撮るだけでできることは、他にもたくさんあると思っています。ユーザーには、お金以外の価値も提供していきたいと考えています。モノの査定はその1つです。フォースタートアップスとの提携も、名刺の写真を撮るだけで、転職のきっかけになり得るという点で、お金以外の価値につながります」

 では、今の山内氏にとって、あの大きな話題となったレシート買い取りはどんな意味があったのだろうか。

 「価値のないものに価値を付けるという意味で、大きな一歩になったと考えています。例えばシャンプーの画像も、普通に考えれば価値はありません。しかし、こうしたものに価値を付けて、(スポンサーを獲得して)買い取ることができるようになりました。また、多くの人たちに、『自分が価値のないものだと思っているものにも値段がついたりするんだ』ということを、伝えられたと思います」

 とはいえ、どうしても聞きたくなるのは、「ユーザーが、小遣い稼ぎ目的のユーザーに偏ってしまうのではないか」ということだ。

 「そういった質問はクライアントからよく受けますが、僕たちのやっているのはお金を稼ぐツールではありません。これはどちらかというとゲームなんです。『こんなものを撮ったらこういうお金になった』という面白さを感じてもらうサービスです。もちろん、アプリのリリース当初から、『小遣い稼ぎアプリになってしまうのではないか』という懸念はありました。それをどうゲーム感覚に変えていくかに取り組んできました。実際、例えば会員が学生に偏るといったことはなく、幅広い層の方々に使っていただいていることは、データで実証されていて、ありがたいと思っています」

 フォースタートアップスの藤井氏も、ユーザーの偏りは感じないと話す。

 「ガソリンスタンドのレシート画像買い取りと、今回の名刺画像買い取りでは対象が異なるのかもしれませんが、ONEには交通量があり、多様なキャンペーンを実施しているところが魅力だと思います。今回のキャンペーンにしても、開始初日から、すぐに目標達成となりました」

ONEで長期的に目指すのは情報銀行。与信の在り方も変えていきたい

 「ONEで目指しているのは個人データのハブ、情報銀行です。ある大学教授が『あらゆるレコメンドがリアルタイムで届く時代が来る』と言っていました。情報によって、あらゆる面で人々の生活をサポートできるようになると思っています」

 山内氏は、さまざまな企業との提携によるキャンペーンなどを通じて、多様な角度からメンバー個々人の情報を集めていくことで、次第に各人の姿が情報として浮かび上がってくることを目指しているという。

 だが、個人情報に踏み込んだプロファイリングを進めると、ユーザーの間で情報提供に対する抵抗感がだんだん大きくなっていくのではないか。

 「それはそうだと思います。ただし、情報内容によると思います。名刺は不特定多数に配りますし、就職活動中の学生は履歴書をいろいろなところに送ります。そういう意味では個人情報といっても、提供してもらいやすいところがあります。また、最近保険証券の画像を買い取りましたが、30分で1250名が登録してくれました。募集を開始したのは昼間でしたが、主に主婦の方からこれだけの提供がありました。個人情報といっても、どこかに存在している情報をうちに登録してもらうだけです。保険証券などをスマホのカメラで撮影して保存している人は多いと思います。個人情報についての考え方は、以前とは違ったものになってきていると感じています」

 では、山内氏自身が今、時間と労力を費やしていることは何なのか。

 「マーケティング関連事業は有能なCOOに任せ、次のステップを考えています。特にデータが集まった後のことを考え、与信とこれに関連する金融サービスに取り組んでいます」

 つまり、現在のローンやクレジットで使われている与信システムとは異なるものを、構築したいということだ。

 「年収を与信に生かすのは当然かもしれませんが、他は学歴や勤め先といった、限られた情報で判断しているのが現状です。しかし、例えば『宅配便を必ず指定時間通りに受け取る人かどうか』『待ち合わせに遅れない人かどうか』で、借りたお金をきちんと返す、返さないは違ってくると思います。せっかく多様なデータが取得できる時代なのだから、もっと多角的に人を評価する方法を見いだしたいと思っています」

 こうした新たな与信情報を、直接・間接の「貸金、あるいはそれに類似すること」(山内氏)につなげることを考えているという。

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