「トラック10台を一人で遠隔運転」――5Gは“無人”の未来を現実にするのか?10年、20年、100年後にどうなっているのだろうか(2/2 ページ)

» 2018年11月01日 05時00分 公開
[中尾太貴@IT]
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「デジタルスカイ」で輸送の形が変わる

 ワイヤレスXラボが想像する2つ目の未来は、「空」だ。

 「空には、地上にある、電車や車両を交通整理する信号機のようなインテリジェントな交通システムがありません。そのため、デジタルで一から定義できると考えています」

 従来、空には人や貨物を運送する飛行機が飛ぶ「商業航空」と、個人の自家用機や航空スポーツなどで使われる「一般航空」という2つのレイヤーがあった。そこに、「低空域航空」という新しいレイヤーが登場したという。これは、これまで使われていなかった120〜300メートルの空域を指し、ここでは、主にドローンをはじめとする民間用無人航空機を飛ばずことが想定されている。

空の3つのレイヤー(出典:Huawei)

 「ドローンは新しく、大きな価値がある産業です。飛行機は、安全面と法規の観点から最新技術の導入が保守的です。飛行機の指示システムはいまだに生の声でやっており、通信システムに関しては30年前のシステムを使っています。また、現在の航空産業で『標準』とされている規制やルールは30年前に規定されたものです。一方で、ドローンは新しいので、先進的な技術を取り込みやすい産業だと期待しています」

 しかし、飛行機と比較して自由度が高いと思えるドローンにも“限界”がある。

 「ドローンは『無人航空機』と呼ばれているものの、実際は乗っていないだけで、1台1台にパイロットが必要です。そのため、人間の肉眼で見える範囲しか飛ばせません。また、パイロットの人的コストは高いので、ドローン1台で生み出す価値は限られてしまいます」

 そこで、重要になるのがドローン飛行を制御する「ドローン管理システム」だ。このシステムを使うことで、1ドローン1パイロットの制約をなくし、1台の管理システムで1000台のドローンを制御することが可能だという。

 「管理システムが整備されることで、輸送の形が変わる可能性があります。例えば、これまで牛肉を紅原空港から成都物流センターまで運ぶ場合、トラックで山道を9時間走る必要がありました。本当の意味での“無人航空機”が運ぶ役割を代替することで、最短距離の輸送が可能になり、1時間で運べるようになります。これにより、新鮮なまま牛肉を運べる上に、人手を介さないので輸送コストを抑えられるようになるでしょう」

“無人航空機”の活用により、輸送が効率化される(出典:Huawei)

一人が複数台の車両を運転――「無人運転」

 3つ目の未来は、「無人運転」だ。多くの企業が車両の無人運転を実現するために自動運転機能の開発を進めている。そもそもワイヤレスXラボでは、「無人運転」を大きく分けて2つに定義している。

 「一つは、人工知能が運転手の役割を担うパターン。もう一つは、運転手が遠隔地にいるパターンです。そして、ワイヤレスXラボでは、後者のパターンを研究開発しています」

 理想は前者の無人運転だが、法規制や産業の発達を考えると、一夜にして実現するのは難しい。そこでワイヤレスXラボは、「ドライバーセンター」を作り、5Gといった強靭(きょうじん)なネットワークを使って、車両をクラウド経由でドライバーセンターとつなぎ、一定の基準を満たした人が、遠隔から運転する仕組みを考えている。

ワイヤレスXラボが行っている遠隔運転実験の様子

 「例えばバスは、ほとんどの場合コースやバス停が決まっているので、自動運転化しやすい車両です。しかし、駐車や乗客の乗り降りまで自動化することは、安全の観点からすぐには難しい。また、事故が起きた場合の対処も困難です。それらのタイミングで、バスとドライバーセンターをつなぎ、対処することで、運転は断片的で済みます。1人のドライバーが、この断片的な運転を複数台の車両で並行して担当することにより、1人が複数台の車両を運転することが可能です。これにより『車両対ドライバー』の割合が変わってくるでしょう」

 車両1台を運転するドライバーの割合は、2018年時点で多い業界ほど、成長の余地が大きいという。例えば鉱山のトラックは、稼働時間が長いため、1台の車両を3人で時間ごとに分担して運転することがある。しかし、積み荷作業や待機の時間が長いため、実運転時間は短い。

 そのため、あるトラックを動かし、そのトラックの待機中に、別のトラックを動かすことで、効率良く動かせるようになる。結果、車両1台を運転するドライバー数が減り、車両対ドライバーの割合を変えることが可能になる。

車両対ドライバーの割合(出典:Huawei)

 バスなどの公共交通や鉱山トラック以外の長距離輸送も、ルートが定まっているので自動運転の時間を長くしやすく、複数車両の並行運転を実現しやすい。

 「ドライバーセンターによって無人運転の形を変えながら、最終的には、車両に子ども一人で乗っても、安全な状態を作り出すことが目標です」

一夜にして変わることはない

 王氏が話した3つの未来の形は、全てネットワークが肝になる。5Gというのは、それらを実現するために非常に重要だ。しかし、大きな変革が起きるには時間がかかる可能性があるという。

 「3G時代が到来してから、iPhoneという世の中を大きく変革する製品が登場するまで、時間がかかりました。多くの人たちは、5Gが一夜で世の中を変革してくれると、想像しています。しかし、そううまくはいきません。3Gの時と同様、5Gが世の中を変えるには、もしかしたら3年ないし5年、あるいはもっと年月がかかるかもしれません」

 変革には時間がかかる可能性がある。その中で、想像する未来を実現するにはどうすればいいのだろうか。

 「夢の実現までの道のりは険しくて長い。しかし、何もしなければ、何も起きません。そこで、重要になるのが『どのように着手するか』です。そこでワイヤレスXラボでは、新しい産業界のエコシステムを作り、産業界が協業し合う基礎になることを目指しています。技術をオープンにしながらも、あらゆる協業の可能性を考えて、小さいことから少しずつ取り組んでいます。一歩一歩は小さな歩幅かもしれませんが、速く走ることを大事にしたいと思います」

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