【USB】第6回 USB充電を大きく変える新規格、USB PDとは?ITの教室(3/3 ページ)

» 2018年12月14日 05時00分 公開
[塩田紳二]
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USB PDデバイスと内部構成

 USB PDでは、以下の「ホスト」「デバイス」「ハブ」「チャージャー」の4つのデバイスを想定している。

USB PDが想定する機器のタイプ USB PDが想定する機器のタイプ
USB PDでは、「ホスト」「デバイス」「ハブ」「電源」の4つのタイプの機器を想定している。

 これらのデバイスには、「UFP」「DFP」「ソース(電源)」「シンク(電源負荷)」「Vconnソース」のコンポーネントが1つ以上含まれる。

USB PD機器のコンポーネント USB PD機器のコンポーネント
USB PD機器は、「UFP」「DFP」「ソース」「シンク」「Vconnソース」の5つのコンポーネントのうち1つ以上内蔵する。

 UFP(Upstream Facing Port。いわゆるUSBアップストリームポート。デバイス側ポート)は、初期状態ではシンクとして動作する。オプションとしてソースとなることもできるが、こうしたデバイスを「Dual-Role Power Device」(DRPデバイス)という。

 USB PDでは、USBのデータ通信は必須とされていない。このため、USB PDという仕様の中では、データ通信はオプションである。例えばチャージャーのUSBポートはUSB Type-Cコネクターであってもデータ通信を行う必要はない。もちろんできても構わない。SOP(Start Of Packet)パケットにより相手ポート(DFP)と通信を行う(後述)。オプションとしてケーブル内の電子機器(E-Markedケーブル)とのSOP*通信を行える

 DFP(Down Stream Facing Port。いわゆるUSBダウンストリームポート。ホスト側ポート)は、初期状態でソース(電源)として動作する。DRPデバイスならばシンクとして動作することもできる。やはりUSBデータ通信についてはUSB PDではオプションである。SOP通信は必須で、オプションとしてSOP*通信が可能。

 ソースは、何らかの外部電源からの電力供給を受け、他のUSB PDデバイスに電力を供給するものだ。バッテリーなどからの出力電力でも構わない。バスパワーハブのDFPのように他のソースを持つポートから派生させることもできる。

 シンクは、USB機器内蔵の回路などのために電力を消費するものだ。あるいはバッテリーのように充電で電力を消費するものも含まれる。バスパワーハブのUFPのように他のデバイスのために電力を受け取るものも含まれる。

 Vconnは、USB Type-Cの信号線の一つである。USB Type-Cケーブルが内蔵する電子回路(E-Markedケーブルの内蔵回路。eMarker)などに電力を提供する信号線だ。Vconnソースとは、Vconnに対して電力を提供するもの、あるいはその機能である。Vconnに電力が供給されることで、E-Markedケーブルなどの内蔵電子回路が動作可能になる。eMarkerはVBUSなどから電力を受けとることはできず、Vconnからの電力で動作する。

USB PDデバイス間の通信

 USB PDでは、接続されたポート間でCCラインを経由した通信を行う(USB Type-Cのコネクターを下図に、信号を下表に示す)。これをパケット形式などから「SOP(Start Of Packet)通信」あるいは「SOP Signaling(シグナリング)」という。

USB Type-Cの信号とコネクター配置 USB Type-Cの信号とコネクター配置
USB PDで使われるCC信号は2つあり、コネクターの向きによってどちらかが選択され、もう一方はVconnとして使われる。

分類 表記 意味
USB 3.1 TX1+/TX1- USB SuperSpeed/SuperSpeed+データ信号(Gen1×1、Gen2×1)
RX1+/RX1-
TX2+/TX2- コネクター反転時の接続先。コンフィギュレーション後にUSB 3.2 Gen1x2、Gen2x2接続で利用
RX2+/RX2-
USB 2.0 D+/D- プラグ側データ信号(1対のみ)
D1+/D1-、D2+/D2- レセプタクル側データ信号(2対)。プラグの向きに応じて、プラグ側のD+/-が、D1、D2+/-のどちらかに接続
構成/設定 CC1/CC2 レセプタクル側コンフィギュレーション信号。プラグの向きに応じて、プラグ側CCがレセプタクル側CC1またはCC2のどちらかに接続する
CC コンフィギュレーション信号(プラグ側)
電源 VBUS バス電源ライン
Vconn プラグ電源ライン(プラグ内回路用)。プラグの向きに応じてレセプタクル側のCC1/CC2のどちらかに接続する
GND グランド(0V、アース側)
補助信号 SUB1/SUB2 補助信号。サイドバンド。Alternate Modeなどでの利用を想定
USB PDの信号

 なお、同じくCC信号線ラインは、USB Type-CのeMarkedケーブルに内蔵されているeMarkerとの通信にも利用されており、このときには、「SOP'形式(SOPプライム。手前のコネクター内にあるeMarker宛の通信)」「SOP''(SOPダブルプライム。反対側のコネクター側にあるeMarkerとの通信)」が可能になる。ただし、「SOP'」「SOP''」通信に関しては、オプションである。また、「SOP」「SOP'」「SOP''」を合わせてSOP*通信と呼ぶ。

USB Type-CのSOP*通信 USB Type-CのSOP*通信
SOP*通信は、ポート間、あるいはケーブル内のeMarkerのどれかと通信を行うものだ。

 SOP通信は、メッセージの先頭に「SOP(Start Of Packet)」と呼ばれるデータが置かれ、これが宛先(相手ポートなのか、どちらのeMarkerなのか)を指定する。動作中の通信には、構造が簡単なコントロールメッセージが使われるが、ネゴシェーション時などには、複数データを含むデータメッセージが利用される。

SOP*通信のメッセージ形式 SOP*通信のメッセージ形式
SOP*通信では大きく3種類のメッセージ形式がある。

 USB Type-Cケーブルで接続された2つのUSB PDポートを「ポートペア」といい、このうち一方のポートから見た相手側ポートを「ポートパートナー」という。SOP通信とはポートペア間の通信であり、ポートパートナーとの通信であるといえる。CCラインは、USB Type-Cの定義により、抵抗が組み込まれており、その値により、相手の初期状態を得ることができる。SOP通信によるネゴシェーションはその後に行われる。

 実装は別にして、各デバイスはUSB PDにおける挙動を定義した「ポリシー( Policy)」を持つ。デバイスのポリシーは、「ローカルポリシー」と呼ばれ「デバイスポリシーマネジャー」によって実施される。また、デバイスのポート(1つだけとは限らない)にはポリシーエンジンがあり、各ポートはこのポリシーエンジンが管理する。

 なお、USBホストは「システムポリシー」を持つことができ、これを使って、接続された全てのUSB PDデバイスのローカルポリシーを制御できる。ただし、その制御は、USBデータ通信を介して各デバイスに送られ、デバイス内のコントローラーなどがローカルポリシーに反映する。システムポリシー自体は、オプションであり、必須の存在ではない。

USB PDの「ポリシー」 USB PDの「ポリシー」
USB PDでは、機器の機能や挙動を定義したものを「ポリシー」と呼び、機器のポリシーを「デバイスポリシーマネジャー」が管理し、個々のポートをポリシーエンジンが管理する。

 ポリシーエンジンやローカルポリシーマネジャーは、USB PDで接続した場合にお互いのポリシーを確認し、双方に受け入れ可能な状態を交渉する。これにより、動作が決定される。

ポートの初期状態と役割の変更

 ソースにもシンクにもなることができるデバイスを「Dual-Role Power Device」と呼び、この役割を切り替える機能を「Dual-Role Power(DRP)」という。USB PDでは、初期状態でDFPとUFPで、電源に関する役割が決まっている。Dual-Role Powerは、接続した後の通信で、役割を変更できる。この切り替えを「Power Role Swap」という。このPower Role Swapは、相手が対応しているなら、ソースとシンクのどちら側からでもリクエストが行える。

 全てのUSB PD対応ポートには、必ず初期状態がある。というのもUSB Type-Cコネクターは、ハードウェアとしてソースかシンクなのかがあらかじめ決まっているからだ。PC本体側などホストになる機器ならば、デフォルト状態はソースであり、そのUSBポートはDFP(ホスト側ポート)となる。USBデバイスならば、デフォルト状態はシンクであり、ポートはUFPとなる。

 実際には、ホストなのかデバイスなのかよりもソースなのかシンクなのかの方が主導的である。DRP(Dual-Role Power)、DRDは、こうしたハードウェアの初期状態に対して役割を変更することが可能だ。なお、USB Type-Cは、構造的にプラグとレセプタクルがそれぞれ1種しかないため、コネクターの形状でソース/シンク(あるいはホスト/デバイス)が決まるわけではない。同種の役割を持ち役割変更ができないポート同士を接続してしまうことも不可能ではないが、接続直後のハードウェア的な判定により、出力電力同士が接続してしまうようなことはない。役割の変更は、USB PDの通信を介して、双方が合意した上で行われるが、ソース/シンクのどちら側から要求を行ってもよい。

ポート 初期電力状態 初期データ役割 Vconnソース CC1/CC2 備考
DFP ソース ホスト Rp(10〜56kΩ)*1 ホストの初期状態
UFP シンク デバイス 不可 Rd(5.1kΩ) デバイスの初期状態
ポートと初期状態の関係
*1:最大電流供給量を抵抗値で示す

 Rev:3.0では、「Fast Role Swap」と呼ばれる機能がUSBハブ向けに追加されている。これは、USB PD対応USBハブからACアダプターが外された場合にソース/シンクの切り替えを高速に行い、ハブに接続されているデバイスへのVBUS電源喪失を防ぎ、デバイスとしての動作を継続させるためのものだ。

 このとき、USB PDの通信ではなく、ハードウェアでCCラインをグランドと接続することでホスト側に通知が行われる。なお、この機能は、Rev:3.0固有のものなので、USBハブとホストがUSB PD Rev:3.0に準拠している場合に動作する。

 USB PDやUSB Type-Cはいまのところ、まだ中位以上の製品に搭載されており、例えば、PCでも安価なものは、専用の電源コネクターを使うものが少なくない。スマートフォンでも、安価な製品はいまだにマイクロUSBコネクターを採用している。しかし、すでにUSB Type-CとUSB PDを採用した製品を選択することで、持ち歩くACアダプターを1つにまとめることも不可能ではなくなった。コンパクトで持ち歩きに向いたサードパーティーのUSB PD電源なども販売されている。これまで、機器ごとにACアダプターやチャージャーが違っていたが、これらが統一され、ACアダプター1つを持ち歩けば済むようになる日も近い。

 取りあえず今回でUSBに関する説明を終わる。USBは、当初は単純なデバイス接続のインタフェースだったが、現在では、多くのコンピュータプラットフォームで外付けデバイスの接続やモバイル機器の充電に使われている。

 USB Type-Cは、こうしたUSBの「再スタート」に当たり、USB PDを利用することで、USBやUSB以外のデバイスと電源供給に利用することが可能になる。今回の解説は、USBの仕様書を元に行ったが、仕様書の全てを解説したわけではない。仕様書はUSB Impliementers Forum(USB.org)のサイトからダウンロードできるので、必要に応じて参照してほしい。

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