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» 2019年01月23日 05時00分 公開

広島×産業×IT(前編):宮島のストレスフリー観光、AIでどうやって実現する?――ひろしまサンドボックスが作る地方創生とITのちょっといい話 (1/2)

中堅中小企業が1社でITを活用するのは人的にも予算的にも難しい――そのような中堅中小企業に対して地方自治体はどのような取り組みを行っているのだろうか。広島県が企業にITを浸透させるために行った取り組みを紹介する。

[中尾太貴,@IT]

 「平地で作物を収穫するロボットは既に海外にあります。しかし斜面で栽培するレモンをどのように収穫するかが問題です」


広島県 商工労働局 イノベーション推進チーム担当課長(地域産業デジタル化推進担当)金田典子氏

 お好み焼きや「うにクレソン」などの名物料理、厳島神社や原爆ドームなどの観光名所を多く持つ広島県。レモンに関しては、生産量日本一を誇り、国内生産の63%が作られている。さまざまな観光名所や名産品がある広島だが、製造業に強い県でもある。

 「広島県は、マツダをはじめとする自動車メーカーや呉市の造船業など、ものづくり集積県です。中国四国九州地方で製造品出荷額12年連続1位を獲得しています」と話すのは、広島県 商工労働局 イノベーション推進チーム担当課長(地域産業デジタル化推進担当)金田典子氏だ。

 しかし、広島県や多くのものづくり企業は「第4次産業改革」という世界的な流れを前に、危機感を感じているという。

 「IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)が世間で話題になったころから、県内の製造業は『何かしら、取り組まないといけない』という危機意識が高まっています。しかし、IT分野の知見がなく、人材も少ないので、導入方法やコスト、ROI(投資対効果)などが分かりません。そのため、個社でITに取り組むことに対して、製造業各社が及び腰になっていました」

 そこで広島県は、行政の役割としてコストをかけて、製造業をはじめとする県内企業にITを浸透させるには、さまざまな企業や人が「共同」で取り組むプロジェクトが必要だと考えた。そこで生まれたのが、「ひろしまサンドボックス」「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」「ひろしまデジタルイノベーションセンター」だ。

ひろしまサンドボックス

 ひろしまサンドボックスは、2018年5月17日に発表された「共同×テスト」を実現するプロジェクトだ。具体的には、農業や観光業、製造業などのさまざまな産業の課題解決や新サービス創出のために、コンソーシアムを組成して、プロジェクトを立ち上げ、取り組みを進めるというものである。「作ってはならし、みんなが集まって、創作を繰り返す、『砂場(サンドボックス)』のように何度も試行錯誤できる場」がコンセプトとなっており、広島県は3年間で10億円規模の支援を行うとしている。

ひろしまサンドボックスのコンセプト(出典:広島県)

 「広島県は、製造業に強みを持っています。そこに対し集中的に資本を投下して、盛り上げていくのも一つの手ではありました」

 しかし、ひろしまサンドボックスで取り組む産業分野は自由となっている。そこにはITを県内のさまざまな産業に浸透させるのと合わせて、別の狙いがあったという。

 「ひろしまサンドボックスの本当の目的は、企業と人材の集積で、海外を含めた県外の企業や人材を巻き込んでいくことでした。ひろしまサンドボックスは、2018年6月に第1次公募が開始され、38件の提案がありました。参加コンソーシアムの構成員は197人。そのうち43人が県外だったのは良い結果でした」

 2018年8月には、38件の提案の中から5件のプロジェクトが選定された。今回は、その5つを紹介する。

傾斜地のレモン栽培をIoTとロボットでデジタル化

 まず紹介するのが「島しょ部傾斜地農業に向けたAI/IoT実証事業〜ICT(愛)とレモンで島おこし〜」だ。こちらは、とびしま柑橘倶楽部が代表を務め、竹中工務店、エネルギア・コミュニケーションズ、呉広域商工会、M-Cross、ウフルでコンソーシアムを構成している。

 レモンは輸入品が多く、国内の生産量が少ない。しかし、国産の需要は高く、供給が追い付いていないため、販売単価が高いのだ。生産を効率化し、収穫量を増やすことができれば、売上を伸ばせる作物なのである。

 しかしレモン栽培には、「レモン農家の高齢化」「勘と経験に頼る農作業」「傾斜地で行う農業のため重労働」という課題がある。この問題をIoTやAI、ロボティクスで解決し、農林水産省が推し進める「精密農業」を実現することが、今回のプロジェクトの目的だ。

 まず同プロジェクトでは、レモンの樹にIoTデバイスを取り付け、環境データや樹に関するデータを収集。このデータをAIで分析し、これまでのレモン農家の勘と経験をデジタル化するという。それにより、レモン農家の属人的な作業を解放したり、若い人がレモン栽培に参入しやすくしたりすることを目指すという。

 また同プロジェクトでは、傾斜地で大変だった作業に関して、ロボティクスの活用を想定している。その代表的な例が収穫だ。平地で作物を自動収穫する機械は既に海外で活用されている。

 「斜面で作物を自動収穫する機械は、まだ存在しません。そこで斜面で栽培するレモンをどのように自動収穫するかがこのプロジェクトの挑戦になります」

 他にドローンを活用して、直接人手を介さずレモンを運ぶことも考えているという。

 「本プロジェクトは、IoTやAI、ロボティクスの実証実験を基に、新たな農業を生み出して地域活性化を考えています。そして、5年後にレモン収量30%増加。将来は収量倍増を目指しています」

「島しょ部傾斜地農業に向けたAI/IoT実証事業〜ICT(愛)とレモンで島おこし〜」が実現しようとしていること(出典:広島県)
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