連載
» 2019年01月23日 05時00分 公開

頭脳放談:第224回 CES 2019の発表からIntelの明日が見えた?

年始早々に開催されたエレクトロニクスの見本市「CES 2019」でIntelが発表した内容を見てみよう。AI(人工知能)や5G、自動運転といった注目の製品もあるものの、ホームランが飛ぶような話題に欠けているような……。

[Massa POP Izumida,著]
「頭脳放談」のインデックス

連載目次

 CESといえば、米国ネバタ州ラスベガスの巨大な展示会場で開催される、年頭を飾る米国最大級のエレクトロニクス見本市である。以前は、「Consumer Electronics Show」という名称であったが、現在は「CES」が正式名称となっている。長らく「Consumer」という言葉が付いていたからか、「家電見本市」という紹介のされ方が多いようである。

 実際には、一般消費者(Consumer)向けに限らず、B2Bのビジネスモデルの製品まで幅広い分野の製品が扱われている。一般消費者ターゲットの製品は一般に入場できるオープンなブースで展示されているが、B2B製品の多くは、会場の一角に設けられたプライベートスペースや、一般展示会場近くのホテル(ここも一応CESの会場ということになっている)のスイートルームなどを借り切って、クローズドな場所で展示されていることが多い。

 これらのB2Bの展示は、相対でアポイントメントをとって行われている。通常そのようなスイートルームには、単なる説明員ではなく、ビジネス上の決定を権があるそれなりのポジションの人が詰めているので、単なる新製品、新技術の紹介にとどまらず、即座に具体的な商談という感じになる。ビジネス的に話が早いのだ。

 ラスベガスの会場へ来れば、一般展示を見るだけでなく、1カ所で(といっても相当広い範囲を動き回らないとならないが)、複数の会社との商談を立て続けに行い、場合によっては競合同士の提示条件を比較することもできる。日本の展示会でもそういうビジネスの場を作りたいと努力しているようだが、結構な数の「VIP」が泊まり込みでやってくるCESほどにはいまだ達していないように見える。

CES 2019のIntelが発表した内容は総花的?

 さて、そんなCESに向けて、業界各社とも必ず何らかの発表を打ってくる。ただ漠然と会場を回っても展示が膨大過ぎて何がポイントなのかつかみにくい。各社とも事前に「ここを見てください」というポイントを説明しておくわけである。今回は、その目的でIntelがCES直前に発表したプレスリリース資料を読みながら、「2019年、Intelのどこを見たらよいのか」を考えてみたい(Intelのプレスリリース「インテル、 CES 2019で次のコンピューティング時代に向けた新しい技術を紹介」)。

 まず「誰」が発表しているのかチェックしてみよう。名前は省略させてもらうが「クライアント・コンピューティング事業本部長」と「データセンター事業本部長」そして「Mobileye社長」の3人の連名である。この時点でいわゆる「総花的」な匂いがする。一般消費者向けであれば「クライアントコンピューティング」の出番だが、バリバリのB2Bモデルである「データセンター」側の責任者も名を連ね、さらに買収した自動車応用向けの子会社である「Mobileye」まで入っている。焦点拡散気味ではなかろうか。

 何か、ガツンと一発、ホームランをカッ飛ばす的な力点があれば、こうはならない。各分野それぞれにアピールすることがあるので、それぞれ網羅的に列挙したという感じだろうか。AIに5G、自動運転、どこの会社も何年も前からやっている「成長領域」である。インクリメンタルな改良はあるのだろうが、それだけでよいの? と思ってしまう。蛇足だが、執筆時点で参照している日本語の資料、「てにをは」的な部分でおかしなところがある。どこの会社も広報といえば文章のチェックは厳しいはずだが、正月明けでもありチェック漏れか。こういうところに組織の問題を嗅ぎ取る年寄りは多い。危ない危ない。

 そして提携の強調だ。コネクテッドホームは「Comcast」(東京オリンピックを含めた没入体験を提供するそうだ)と、「Alibaba」とは東京オリンピックターゲットのアスリートトラッキング(AIを使った3Dアスリートトラッキングで金メダルを獲得するそうだ)で、Mobileyeは「Ordnance Survey」(英国の地図系の会社とコネクテッドでデジタルな英国を実現するそうだ)という組み合わせ。別に提携自体は悪くないが、何か、ローカルっぽい雰囲気を感じ取ってしまっているのだがどうか。筆者が、日本人だから、提携先の偉大さが刺さってこないだけなのか?

Intelのクライアントコンピューティングに打つ手は?

 本業の「クライアント」プロセッサに関しては、直近で発売される新製品から2019年末くらいまでのレンジの新世代についてずらずら列挙している。しかし、各世代のIntelのプロセッサは「性能は確実に向上する」ものなのだ。そして、それは「折り込み済み」なのである。

 万が一、新世代の提供が遅れたり、予想ほどには性能が上がらなかったりすれば、「折り込み済み」の期待値がはがれてしまう。期待通りの向上をしてようやく平均点という、ちょっとかわいそうな状態なのだと思う。しかし、プロセッサのトップベンダーとしては仕方ない。

 多くの人がもっと知りたいのは、ずるずると地盤沈下しているIntelの「クライアントコンピューティング」に何か手があるのか、ということだ。地盤沈下の主因は2つある。一つは、バリューが「クライアント」側の装置から「データセンター」側に吸い取られていること。もう一つは、Intelの「クライアント」から、Arm系の「クライアント」に吸い取られていることだと思う。

 最初の方は、現時点では「Intel社内事業間」での付け替えと解釈してもよいかもしれないので、ある意味問題ではない。しかし、後の方は大問題のはずだ。資料を読んでいてもそこに何か答えているとは思えない。「折り込み済み」の期待がはがれない程度の向上はします、というくらいしか読み取れなかった。

AI(人工知能)や5Gも推進するとは言うが……

 一方「データセンター」側の売りの第1は、「Nervana」だ。ディープラーニング向けの開発をやっていたNervanaをIntelが買収したのは3年ほど前だ。しかし、プレスリリースによればデータセンター向けに提供されるNervanaの「推論」向けプロセッサは2019年内に量産予定ということである。「まだ1年近くもかかるのか」と思ってしまう。投資家であれば「遅い」と怒りそうだ。

 AI業界の動きはとても速い。それに「推論」向けだって? ご存じと思うが、ディープラーニングには「学習」と「推論」という2つのフェーズがあり、「学習」の方が何倍も負荷が重い。最終的に利用される結果を出すのは「推論」だが、重い「学習」をサクサクできるようにしたい、という部分にこそNervanaの価値があるのではなかったか。一応、Nervanaの「学習」用プロセッサとして「開発コード」が記してあり、2019年内に量産予定と書かれている。大丈夫なんだろうな。

IntelのNervana推論向けニューラルネットワークプロセッサ「NNP-I」 IntelのNervana推論向けニューラルネットワークプロセッサ「NNP-I」
Intelのプレスリリリース「インテル、 CES 2019で次のコンピューティング時代に向けた新しい技術を紹介」より

 将来製品のプレビュー、ということで「サーバ機」向けプロセッサを説明している。この辺はデータセンタービジネスが伸びればそのまま売れる世界なのであまり問題ないだろう。それとは別に、5G無線アクセス基地局向けのSoC(System-on-a-chip)として開発コード名「Snow Ridge」も推進と書かれている。「ネットワークインフラに対する長年の投資を拡大させる」と言っている。これはちょっと面白いが、5Gは他社も猛烈に力が入っている。Intelにしても、どこまで食い込めるのか。

 まぁ、公表されている資料だけからつついてみたが、CESの裏側では実際何が話し合われているか分からない。後々、スイートルームの一室で隠密に話された内容が、2020年のCESを揺るがすということもままあり得る。代わり映えしない平均点の1年なのか、それとも何かが起こるのか、やじ馬側としては何か起こった方が面白いのだが……。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


「頭脳放談」のインデックス

頭脳放談

Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。