連載
» 2019年02月07日 05時00分 公開

教えて! キラキラお兄さん:ハードな職場を辞めてもいいですか? (3/3)

[竹内充彦,@IT]
前のページへ 1|2|3       

IT業界でも理想の仕事には出会えず

 「クラウドサービスであるSalesforceの導入プロジェクトが中心で、APEXという専用の開発言語もありましたが、コードを書く機会はあまりありませんでした」

 プログラマーになりたいのにプログラミングできない状況にもんもんとして田中さんに、当時、ネット印刷を扱うベンチャー「ラクスル」の社員だった利根川裕太氏が声を掛けたという。ラクスルは田中さんが勤務する会社の取引先だった。

 利根川氏は、本業である森ビルでの勤務時代にラクスルの立ち上げに携わり、その成長に貢献した後、独立してみんなのコードを立ち上げた人物である。

 「利根川には二度にわたって声を掛けてもらいました。1度目は、『ラクスルに入社しないか』という誘い。2度目は、利根川がみんなのコードを立ち上げる前に、子どもたちへのプログラミング教育の普及を目的とした「Hour of Code」という米国発のワークショップを国内で盛り上げようとしていた時。ちょうどその頃、教育系の事業会社に転職していたこともあり、『教育×IT』で面白いことにチャレンジしようとしている、と聞き、がぜん興味が湧きました」

 そして、利根川氏がラクスルを退職し、本格的にプログラミング教育の普及を目指し、「みんなのコード」を立ち上げることに。その際に誘われ、ジョインすることを決意した。

 当初は1年半ほど、会社員とみんなのコードとのダブルワークで働いたという。それは、あたかも利根川氏が森ビルに勤務しながらラクスル立上げに携わったのをなぞっているかのようだった。

教師経験を生かし「プログル」の開発に専念

 2020年から小学校のプログラミング教育の必修化がスタートするに当たり、文部科学省はプログラミング教育有識会議を設置している。みんなのコードの代表、利根川氏は、その会議の委員にも選ばれており、政策提言の段階からプログラミング教育の普及啓発に取り組んでいる。

 学校現場でプログラミング教育を普及浸透させていくためには、まず、教師に「広める」活動が必要不可欠だ。そこでみんなのコードは、より多くの教師にプログラミング教育を広めるため、授業で使えるプログラミング教材「プログル」を開発、公開した。

 そのプログルの開発プロジェクトを立ち上げ、プロダクトオーナーとして主動したのが、田中さんである。

 「もともと、いつかプログラミング教材を作りたいという思いがあり、しかもオーナーシップを持ってプロダクトを作りたいと考えていたので、プログルの開発は、まさに希望通りでした」

 開発に当たっては、田中さんの学校現場での経験も大いに役立った。例えばPCのスペックがそれほど高くなくても十分に動くようにしたのは、学校現場のPC環境を熟知しているからこそといえる。無料で使えるようにした点についても「まずは使ってもらうことが大切」という田中さんの思いが込められている。

 また、教師は授業をどのように進めていくかを記載した「学習指導案」と呼ばれる計画書のようなものを必ず作成する。それを知っている田中さんは、教材だけでなく、「学習指導案」を一緒に準備、配布している。

 小学5年生の算数なら、「文部科学省の学習指導要領に沿って、平均、公倍数、図形などの理解を深めるために、プログラミングを利用してどのように授業を進めていけばよいのか」といった指導案を用意しているのだ。これにより、プログラミングに詳しくない教師も、安心して利用できる。

 こうした工夫が広く受け入れられ、プログルは、47都道府県、21万人以上に利用されている。今後は、指導案やコースを充実させ、さらなる普及を目指しているという。

 教育への思い、そしてエンジニアを経験したことで、NPOのCTOというユニークなポジションに就任した田中さんに、これからエンジニアとしてのキャリア形成を目指す読者たちへのアドバイスを頂いた。

 「20代は失敗しても、いくらでも取り戻せます。リスクを取ってチャレンジしてもよいのではないでしょうか。私も、教えることに情熱を持っていましたが、若いうちに失敗を含めていろいろな経験をしたことが、結果として今の教育NPOでのCTOという仕事につながっています。

 経験にプラスして、情報感度を上げるという意味では、技術屋として食べていくのなら英語はやっておいた方がいいですね。どうしても日本語の二次情報を待っていると、後れを取ってしまいます。また、自分の経験から強く感じているのは、『このプログラミング言語は仕事が多そうだから』という理由で次々と新しい技術に乗り換えていくことはあまりお勧めしません。むしろ技術以外の部分について視野を広げていくことが、その後のエンジニアとしての価値を高めていくことにつながるのではと思います」

 教師を夢見て社会に出て、今は大勢の教師たちの力になる仕事で開花した田中さん。それだけに、「20代のチャレンジが無駄にならない」という言葉には説得力があった。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

編集部からのお知らせ

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。