損害は8500万円以上ですが、「責任限定条項」があるので500万円しか払いません!「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(64)(1/3 ページ)

見積もりでは500万円だったけれど、要件の追加がかさみ8500万円規模になったシステム開発プロジェクトが頓挫。本当の損害額は、おいくら???

» 2019年04月02日 05時00分 公開
「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

 皆さんは、システム開発委託の契約書というものを見たことがあるだろうか。ITエンジニアにはあまり興味を持てないドキュメントかもしれないが、たまには、ゆっくりと見てみることをお勧めする。そこに書かれているユーザーとベンダーの役割分担や不具合の定義、検収などについて、実は作業実態とは異なり、知らないで損をしたというようなこともある。

 「ユーザーからの追加要件は、契約の目的に照らして実は受ける必要がなかった」「こちらに押し付けられた作業が、実はユーザーが行うべきものだった」など、現場のエンジニアが後で知るようなことは、少なくない。

 IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、契約の「責任限定条項」について、事例を挙げて解説する。

 もっとも、今回の事例は「契約書をよく読んでいなかったからベンダーが損をした」というものではなく、「そもそも契約書に書かれている文言自体が妥当であるのか、妥当でないとすれば、その扱いはどうなるのか」という内容だ。少し変わった事件ではあるが、事例としては興味深く、普段めったに熟読することのない契約書というものに少しでも興味を持っていただきたいと考え、取り上げることにした。

「責任限定条項」とは?

 事件の解説をする前に、「責任限定条項」について簡単に触れておきたい。

 ベンダーがユーザーと請負契約に基づいてシステム開発を行う際、ベンダーの理由で契約解除となったときには、普通はそこに発生した損害はベンダーが負う。しかし、2億円で請け負った開発が途中で頓挫した場合、そこに発生する損害は請負代金の2億円だけでない。

 そこまでに投入されたユーザー企業社員の人件費や本来なら不要になるはずだった古いシステムの延長リース料、保守料などが積み重なり、10億円にまでなる場合もある。

 この10億円を一気に払えば、ベンダーの経営が窮地に陥るかもしれない。そんな危険性があるのでは、高額な開発を請け負えるベンダーが限られる、あるいは全くいなくなる、という可能性が生まれるのだ。

 そこで、多くのシステム開発契約では「責任限定条項」を設定する。一種の「免責条項」であり、「どれだけ損害が大きくなっても、その賠償額の上限を定めて、それ以上は支払わずに済む」というものだ。具体的には、契約書に以下のように記される。

損害賠償

ベンダーの責に帰すべき事由により、ベンダーが債務を履行できなかった場合には、ユーザーはベンダーに対し、委託金額を上限として損害賠償を請求することができる。

 「委託金額を上限として」という部分が「責任限定条項」だ。この一文があることにより、上述の例でいえば、「ベンダーは、損害がどれほど大きくなっても、2億円まで賠償すればいい」ということになる。

責任限定条項があるから、これ以上は払わないわよ。(画像はイメージです)
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