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» 2019年04月23日 05時00分 公開

頭脳放談:第227回 買収したMellanoxはNVIDIAが狙う次の市場への布石?

グラフィックスカードベンダーの最大手NVIDIAが、高速イーサネット技術を持つMellanox Technologiesを買収した。この背景には何があるのか、NVIDIAの狙いを筆者が推測する。

[Massa POP Izumida,著]
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 今までは、市場の変化を先導するような立場であったNVIDIAであるが、このごろは市場の動きに追い抜かれているような局面が散見される。イケイケだった売上高が前の四半期(2019年第4四半期)に急減速したのは、「中国市場の減速」という世界的な景気の動きに影響された面もあるのだろう(NVIDIAのプレスリリース「NVIDIA Announces Financial Results for Fourth Quarter and Fiscal 2019」)。だが、NVIDIAの路線に対する一種の跳ね返りも反映しているように思われる。

仮想通貨市場の衰退がNVIDIAの業績に影響

 これが端的に現れているのが「仮想通貨のマイニング」市場であろう。一時、「仮想通貨のマイニングにGPUを使う」という流れがあり、当時はゲーム用のグラフィックスカードが品薄となり、価格も上昇が著しかった。

 ところが、仮想通貨のマイニング(つまるところ、ハッシュ関数の計算に帰着すると思う)方法として、専用のASICが一気に台頭した。一瞬、GPUからFPGA化という期間もあったと思うが、アルゴリズムをFPGAに落とせれば、ASIC化するのは技術的にはたやすいことだ。

 ビジネス的には微細プロセスでASICを作るのに相当な「お金」が必要なのだが、比喩でなく「時は金なり」の世界、ASIC化は一気に進んだように見える。結果として「仮想通貨のマイニングにGPUを使う」という流れは、ハードウェア化しにくいアルゴリズムを要求するケースを除けば、萎んでしまったように思える。

 それに被さるように並行して起こった仮想通貨の価値そのものの下落により、マイニングそのものの採算性が悪化した。今ではマイニングでもうけを出せるところは少ないといううわさだ。結果、この市場でGPUによってお金が稼げなくなっているのはある意味自然な流れである。

背後からFPGA/ASICに迫られているNVIDIA

 しかし、ここで言いたいのは「仮想通貨のマイニング」という「1つの市場」におけるGPUの衰退の影響ではない。「仮想通貨のマイニング」での現象は、昔から分かっていたことを、ある意味、非常に劇的な形でみんなに実証して見せた、という点が大きい。

 汎用のCPUよりも、並列度の大きいGPUの方がある単位データ量に対する処理という観点では効率がよい。しかし、並列とはいってもソフトウェアで処理するGPUよりも、ソフトウェアのアルゴリズムをハードウェア化するFPGAの方が、さらに効率がよい。そして、同じアルゴリズムをハードウェア化するならば、「ハードウェアのプログラミング」のためにオーバーヘッドの大きい回路構成になっているFPGAよりも、必要なハードウェアのみで構成されているASICの方が、もっと効率がよい。まさに、これである。

 そんなことは分かりきっているというものの、1つの「テーマ」でこれほどの規模で「実験」し、あからさまな事例として、みんなに明らかになったことは、いままでなかったと思う。そしてこれは、GPUでCPUに挑戦していたNVIDIAにとっては、背後から迫る自らへの挑戦者をみんなに明らかにしてしまった、ということでもある。これに手をこまねいていたらまずい。そういう危機感はNVIDIAには十分にあるように見える。

NVIDIAの次の注力市場はデータセンターとHPC、自動車

 マイニングは大きな「外乱要因」ではあったが、着々とゲーム用のグラフィックスカード市場からフォーカスを広げつつあるNVIDIAの注力市場は、データセンターとHPC(スーパーコンピュータ)、そして自動車である。

 前者に対する最新の一手が、NVIDIAによるMellanox Technologies(メラノックステクノロジーズ)の買収だ。Mellanox Technologiesについては、頭脳放談「第219回 謎の会社『Mellanox』が好調の理由」で触れたことがあるが、データセンターやHPCのバックボーンをなす高速大容量のネットワークスイッチやNICなどの専業メーカーだ。

 どこかのもうからない米半導体メーカーを買収して、自社工場の休止宣言をした某社の買収案件などとは異なり、業績もターゲット市場も伸びているMellanoxの案件は買収案件として見ても優良なのではないかと思われる。データセンターやHPC(High-Performance Computing)に対して、今までNVIDIA自体は、メインCPUの性能にアドオンする「アクセラレータ」としてのGPGPUボードを販売してきた(2017年、安いゲーム向けのグラフィックスカードをデータセンターなどで使えなくするライセンス見直しをしたのは、この市場でのもうけを確保するための強権発動で、反発を買ったようだが)。

 GPUアクセラレータは、AI対応を急ぐデータセンターの市場で大うけとなり、実績を残せたわけだ。ただ、いつまでもアドオン的な役割では広がりに欠ける。Mellanoxの買収により、今後はネットワークスイッチやNICなどシステムの基幹部分にもビジネスの幅を広げられる。またその一方、データセンターやHPCのCPUでドミナント(独占的)なIntel Xeonに対して、Armコアでの挑戦が始まっている。

 ArmコアとGPUを組み合わせた組み込み向け製品も持っているNVIDIAである。今のところまだアナウンスはないが、技術的な下地はある。CPUを含めてデータセンター向け全面参戦というシナリオも考えられる。

狙いはイスラエルのスタートアップの取り込み?

 その上で、NVIDIAのMellanox買収に関する同社のブログ記事を読んでいると、意味深なタイトルに感じられる。「Israel’s AI Ecosystem Comes Together to Toast NVIDIA’s Proposed Mellanox Acquisition」だ。

 Mellanoxは世界的には中堅どころの半導体会社だが、小国のイスラエルではその存在感は大きいはずだ。過去、イスラエルではIntelの存在感が大きかった(例えば自動運転で名高いMobileyeなど)が、そこにクサビを打ち込み、NVIDIAになびく勢力圏を作り出す、といった雰囲気が感じられる。

 イスラエルにはAI系の有力スタートアップなどが多い。「これらのスタートアップを取り込んでしまいたい」という意図は見え見えであろう。また、Mellanoxは「高速イーサネット」のメーカーとして、データセンターやHPCの市場をターゲットにしてきたが、何も「高速イーサネット」はそこだけが市場というわけでもない。

 自動車業界では、「車載イーサネット」も注目の的だ。単なる連想だが、車載(自動運転)に力を入れているNVIDIAが、「高速イーサネット」技術を持つMellanoxを買収したのだったら、そこへ行くのを防ぐ理由は特にないようにも思える。

 一方、NVIDIAが自動運転ターゲットの車載システムとして力を入れている「Xavier」という組み込み向けチップを眺めていると、彼らが考えているFPGAやASICへの対策にも連想がつながる。「Jetson AGX Xavier」というプラットフォームは、GPUは512コアのVolta、CPUは64bit Arm 8コアのシステムである。その特徴の1つは、画像の出力が得意なGPUに対して、画像の入力側を処理するためのVision Processor(7-wayのVLIW)や4K動画のエンコーダー、デコーダーなどのハードウェアを搭載していることだ。

 注目はもう1つの特徴にある。NVDLA(NVIDIA Deep Learning Accelerator)という、ディープラーニングのアクセラレータである。GPUでの「ソフト」AI処理とは別に、コンボルーション計算を中心としたニューラルネットワークの計算を行うための専用ハードウェアだ。専用ハードウェア=ASICになり得る回路と見なしてよい。

 これの搭載がすごいのではなく、これの設計の扱いがキーなのだ。NVDLAという技術を、NVIDIAはオープンソースプロジェクトという扱いにしている。つまり、このJetson AGX Xavierに搭載のハードウェアはそれを応用した1つの実装例にすぎない。ハードウェア設計のための各種情報が公開され使用できるだけでなく、これの開発に参加し、貢献することもオープンになっている。

 ダウンロードしてくれば、それなりのFPGA上で実装してみることもできるし、FPGAに焼ける回路は金さえ出せばASICにできる。CNN(Convolutional Neural Network。ディープラーニングの手法の一種)用のFPGAやらASICやらのハードウェアを設計するときの開発基盤をNVIDIAが無償公開してくれているのだ。

 今のところNVIDIAが、NVDLA技術からどうやって利益を上げようとしているのかは明らかではない。しかし、NVDLA技術を利用するAIシステムが増えていれば、NVIDIAが力を入れるAIアプリケーションが、万が一、FPGAベースやASICベースに移行していったとしても、何かの形でNVIDIAは主導権を発揮できる可能性が残る。なかなか遠大な計画にも見えるが、手を打つべきところに手を打っている、そんな気がする。イスラエル辺りからNVDLAに乗ったスタートアップが三々五々出てくれば、まさにしてやったりか。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


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