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» 2019年05月08日 05時00分 公開

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(65):パッケージソフトだか何だか知りませんが、現行システムと同じの作ってくださいよ (3/4)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]

「現状」という言葉の曖昧さ

 判決文の続きを見てみよう。

東京高等裁判所 平成27年6月11日判決から(つづき)

ユーザーは、本件システム開発を行うこととなった動機となる事情や、本件システム確認書や本件提案書に「現システムの業務内容を継承」「現状の機能を網羅する」という記載があることを指摘して、現行システムと同等の機能を具備するものを開発する合意をしたとも主張するが、まず「現行システムと同等」とは、具体的にどのような水準、内容のものをいうのかが、そもそも明らかとならないし、

(中略)

パッケージソフトの仕様によりながら、これに運用や業務方法の見直しも併用して、新しいシステムを活用して今後の業務を行っていくことも考えられるから、これらから、現行システムと同等の機能を具備するものを開発する合意が認められることにはならないというべきである。

 裁判所は、今回のように要件が抜け落ちていた場合のために、ユーザーが記載した「現システムの業務内容を継承」「現状の機能を網羅する」という表現は具体性を欠いており、具体的な要件にはなり得ない、と判断した。

 そして、パッケージソフトを利用するということは、ソフトウェアが持っている機能をそのまま利用することが前提であり、カスタマイズは最小限に抑えるように開発するのが合理的であるとも言っている。

 少し突っ込んで見てみよう。

 もしも「現システムの業務内容を継承」「現状の機能を網羅する」が要件記述となり得るのであれば、極端な話、ユーザーは、パッケージソフトウェアの機能を際限なくカスタマイズさせることも可能であり、そうした契約の妥当性自体が疑われる。

 仮にバックネットを作りたいのなら、「もっと具体的にカスタマイズの範囲を限定すること」「概要レベルでも機能を明らかにすること」が必要との考えだ。

 そもそも「パッケージソフトウェアを使うからには、その機能を最大限に使用する」のが基本であり、「カスタマイズは最小限に抑える」のが、ユーザー企業とベンダーが持つべき共通認識であり、「ベンダーはそれに沿って開発を実施した」というのが裁判所の考えだ。曖昧な言葉でベンダーの責任を無限に広げるようなことはしてはならないとも解釈できる。

 そして、こう結論付けた。

東京高等裁判所 平成27年6月11日判決から(つづき)

(要件についての)当事者の合意は、要件定義書などの成果物に記載のあるものについてはこれによって認めることとし、こうした成果物に記載のないものについては、特段の事情のない限り、パッケージソフトの仕様によっているものと考えるのが合理的であるといえる。

 裁判では、ベンダーに有利な判決が出た。しかし、この結果をベンダーが手放しで喜んで良いのかといえば、そんなことはない。

 結局のところ、システムは完成しなかったのだ。

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