連載
» 2019年05月17日 05時00分 公開

リクルート事例に見るエンジニアとしての価値の高め方(1):約9カ月でリリース、目標の2倍の成果――“品質”と“納期”を両立させる新規プロダクト開発でチームを崩壊させない方法

変化が速くなる一方の市場環境において、エンジニアとしてビジネスに貢献するにはどうすればいいのか。本連載では、リクルートでの新規プロダクト開発事例からエンジニアとしての価値の高め方を明かす。初回は、本連載で事例として扱うプロダクトの概要やスケジュール、開発の進め方について。

[今井宏明,リクルートテクノロジーズ]

エンジニアとしてビジネスに貢献するにはどういうアプローチをしていけばよいか

 近年、ビジネス市場の変化は速くなる一方です。FinTech、MaaS(Mobility as a Service)、HRTechなどに代表されるように、ほぼ全てのビジネスにデジタル技術が欠かせなくなっているため、エンジニアである私たちにも、市場変化の速さは“脅威”といえると思います。周到に企画したプロダクトや機能であっても、リリースしたときには市場が変化した後で想定通りの効果が出なかったということも珍しくないでしょう。

 特に新規のプロダクトをリリースしていく上では、下記3点を意識したプロセス策定が重要となっているのは周知の通りです。

  1. 企画からプロダクトリリースまでの期間を短くする
  2. 検証版としてプロダクトを早めにリリースして価値検証を行う
  3. フィードバックを受けてプロダクトをより良いものにしていく

 本連載では、そのような変化の激しい市場の中で新規プロダクトをリリースするために、リクルートテクノロジーズが「どのような開発プロセスや体制を作り上げていったのか」「どのような技術選定や設計をしていったのか」について紹介します。技術側の観点だけではなくビジネス側の観点も踏まえながら具体的な事例に沿って紹介する予定です。

 また、今回のプロダクト開発チームでは、ただプロダクトをリリースし運用することだけを目的とするのではなく、「エンジニアとしての価値を高める」というコンセプトを掲げていました。

 技術的なアプローチはもちろん、体制づくりや開発プロセスの策定など、「エンジニアとしてビジネスに貢献するにはどういうアプローチをしていけばよいか」について考え、実践し、多くの学びが得られたと思っています。

 そこで、本連載では下記2つのテーマに関する気付きの共有をサブ目的にしたいと思います。本連載が皆さんの業務を進化させるきっかけになれば幸いです。

  • 新規プロダクト開発手法とプロジェクト推進スキームについて
  • エンジニアとしての技術チャレンジとビジネスへの貢献について

 連載第1回の今回は、「本連載で事例として扱うプロダクトの概要やスケジュール、開発の進め方」についてです。

本連載で事例として扱うプロダクトの概要

 まず、本連載で事例として扱うプロダクトについて説明します。

 今回事例として取り上げるのは、リクルートキャリアが運営している「リクナビ HRTech 採用管理」です。

 これまでの採用業務といえば、Microsoft Excelで候補者の状況を管理したり、候補者のレジュメファイルを手作業でフォルダに管理したりなど、アナログな作業が多く、手間がかかる印象が強いと思います。

 採用業務のシステム化に着手できていない企業も依然として多く、これは「人事が間接部門と捉えられがちであるためコストを投資してもらいにくい」ことに起因しているものと考えられます。

 リクナビ HRTech 採用管理は、中途採用業務に関するさまざまな情報を無料で管理できるサービスです。上記のような企業の人事部門が持つ課題を解決することを目的としています。

リクナビ HRTech 採用管理

 筆者が所属するリクルートテクノロジーズでは、「テクノロジーの力で多くのカスタマーやクライアント、われわれリクルート自身を便利で豊かにしていく」というミッションの下、リクルートグループ全体のサービス価値向上やビジネスの進化への貢献といったテーマに取り組んでいます。

 リクナビ HRTech 採用管理は、プロダクトのコンセプト設計から価値検証の実施、リリースまでを約9カ月で行い、短期間に大きく成長を遂げたサービスです。今では当初目標の2倍のクライアントに活用していただくほどになりました。

スケジュール

 検証からプロダクトリリースまでのスケジュールは下記の通りです。

時期 フェーズ
2017年12月 検証版開発開始
2018年2月 効果検証実施
2018年4月 正式版開発開始
2018年7月 サービスリリース
2018年7月〜現在 エンハンス開発による機能追加を実施中

 市場のトレンドの移り変わりが速い昨今、「新規プロダクトを少しでも早くリリースしエンドユーザーに価値を提供したい」という目的からこのようなスケジュールが組まれました。

 2018年7月をターゲットとしたのは、日本最大級の人事系イベントである「Human Capital / HR EXPO」が予定されており、そのイベントが、課題を抱えているクライアントに直接リーチできるポイントであると捉えていたからです。

新規プロダクト開発はフェーズを2つに分けた方がいい

 またリクナビ HRTech 採用管理の開発は、大きく「価値検証フェーズ」「本開発フェーズ」に分けて進めました。

 ユーザーにプロトタイプを使ってもらうことで、「想定しているプロダクトコンセプトが正しいか」≒「本当にターゲット層に価値を提供できるか」を早期に検証すべく、本開発の前段階として価値検証フェーズを設けています。

約9カ月でコンセプト設計から価値検証、リリースまでやり切るための優先順位の付け方

【1】プロダクトのコンセプト決め

 まずは、プロダクトのコンセプト決めからです。

 今回事例として取り上げるリクナビ HRTech 採用管理のコンセプトを決めるに当たり、これまで接触できていなかったクライアントに対して直接ヒアリングしたり、採用管理業務を体験してみたりといった市場調査を実施しました。

 市場調査を行った結果、リクナビ HRTech 採用管理では下図のような背景と課題感の下、「シンプルなUI」「無料で使える」という2つのコンセプトを掲げることにしました。

【2】価値検証フェーズ

 価値検証フェーズでは、主に先ほど説明したプロダクトコンセプトを検証します。クローズドβとして使用していただくユーザーを限定し、下記のような点を検証します。

  • 検討した機能が本当にユーザーに望まれているものなのか
  • 現在のUXでユーザーの業務改善が見込めるのか
  • 継続して利用してもらうことが現実的か(ビジネスとして拡大が見込めるのか)

 一方で、高速なプロトタイプ開発と仮説検証を行っていくには、同時に切り捨てなければいけないポイントも存在します。

 価値検証フェーズでは、「機能面での正常性やセキュリティ面での脆弱(ぜいじゃく)性などの品質のチェックはしっかりと対応しつつ、業務フロー的に発生する可能性が低いバグやイレギュラーパターンについては対応しない」「仮に発生しても許容した上で使用してもらう、回避策があればそれで対応する」という方針にします。

 今回の新規プロダクト開発では、下記表の通り、項目ごとに優先度を設けて対応しました。この優先度については、開発側だけではなく企画担当者とも認識を合わせておくことで、新たな検討項目が出てきたときに素早くジャッジできるようになります。

【3】本開発フェーズ

 クローズドな価値検証を行った結果、「採用業務の改善に効果がありそうだ」という見立てができました。想定通り「市場全体に展開しても需要がありそうだ」という仮説の下、プロダクトオーナーや企画担当者、私たちエンジニアを含めて、本プロダクトを次のフェーズへ進める決断を下しました。

 ここから本番リリースまでの開発フェーズのことを「本開発フェーズ」と定義しています。前述の通り、正式版の開発着手からリリースまで3カ月という短期間だったため「実用に耐え得る最低限の機能のみを実装していく」という方針を決めて開発を進めました。

 最低限の機能とはいえ商用プロダクトとしてリリースするため、下記の項目の対応が必要です。

  • 検証版では運用で回避してきた問題の対応
  • 正式版向けの新規機能開発
  • 機能要件、非機能要件の洗い出しと対策の検討

 特に、非機能要件に含まれる“セキュリティ”は重要です。リクナビ HRTech 採用管理では、個人情報が含まれているデータやファイルを扱います。そのため、スピード感を持って開発しつつも、顧客の情報が漏えいすることがないように、堅牢(けんろう)で安全な実装が求められるのです。

 次回も触れる予定ですが、セキュリティリスクへの対応はリクルートテクノロジーズがリクルートのセキュリティレベルを強化するために設立した「RECRUIT RED TEAM」と連携して実施しています。コーディングの初期フェーズから互いに連携し、セキュリティリスクを作り込まないよう働き掛けました。

※参考:Recruit RED Team - 脆弱性管理のベストプラクティスとスレットモニタリング

本開発フェーズでチームを崩壊させないためにできること

 ここまで説明した通り、本開発フェーズでは“品質”と“納期”を最重要事項として定義しました。

 ただ、これを素直に実現しようとすると現場のメンバーに無理を強いてしまい、最終的にチームが崩壊してしまいます。これを回避するために、下記のようにさまざまな方面からアプローチを行いました。

  • 優先度を考慮した要件の整理
  • 必要最低限のプロジェクトモニタリングの実施
  • 日本とオフショアメンバーを含めた体制構築と開発プロセスの整備
  • 技術選定と実装時のルールの制定

 結果的に、開発チームメンバーのコンディションを維持しつつ、常に高いアウトプット力を発揮できるチームを作り上げることができています。

 しかし、そこにたどり着くのは簡単ではなく、開発を進めていく中での試行錯誤が幾つもありました。「具体的に、どのような計画の下で開発を進めていったのか」「どのように解決していったのか」については、次回以降で解説していきます。

筆者紹介

今井宏明

株式会社リクルートテクノロジーズ ITエンジニアリング本部 HR領域エンジニアリング部 RCAグループ

前職は、SIerでWebアプリケーション開発やクラウドインフラ構築を担当。

2015年にリクルートテクノロジーズに入社し大規模サイトのオフショア開発、フロントエンドチームのリーダーを経て現チームに参画。

プロジェクトリーダーとしてチームをリードしつつエンジニアとしてのスキルアップを目指して奮闘中。


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