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» 2019年05月24日 05時00分 公開

Gartner Insights Pickup(109):金融機関のデジタルトランスフォーメーションにおける5つの性質

金融サービス企業の多くは、デジタルビジネスから価値を生み出す取り組みを進めている。これにはさまざまなルートやアプローチがあるが、世界の金融サービス企業のほぼ半数では、依然としてごく初期の段階か、あるいは未成熟な段階にある。

[Laurence Goasduff, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 Gartnerによると、金融サービス企業のCIO(最高情報責任者)の3分の1は、デジタル推進を2019年のビジネスの最優先課題と位置付けている。この割合は、前年比で8%以上上昇している。

 「ただし、金融サービス企業のCIOにとって、通常、『デジタルビジネス』が意味するところはさまざまだ」と、Gartnerでプラクティスバイスプレジデントを務めるヨーガン・ワイス氏は語る。「金融サービス業界におけるデジタル戦略では、『デジタル最適化』と『デジタルビジネストランスフォーメーション』が対極にある」

 デジタル最適化を推進する金融サービス企業やITリーダーは、現在のビジネスモデルや商品、プロセス、顧客エクスペリエンスを徐々に改良し、最適化していく。これは、これらそれぞれの全体的な価値提案は変わらないことを意味する。

 これに対し、デジタルビジネストランスフォーメーションでは、競争力の強い新しいデジタルビジネスモデルの戦略的な基盤となる、新しいビジネス機能やIT機能が導入される。

 Gartnerのアナリストは、金融サービス業界におけるデジタル変革の状況を評価するために、金融サービス企業が「どのように価値を生み出しているか」(ビジネスモデルとIT戦略へのアプローチ)と、「どのように業務を行っているか」(重要な新技術の導入とデジタルトランスフォーメーションを進める組織的なアプローチ)を調査した。

 「調査結果を基に、金融サービス企業を5つのクラスタに分類できた。この分類により、金融サービス業界に見られるさまざまなデジタル戦略を精緻に分析することが可能になっている」と、ワイス氏は説明する。

 「世界の金融サービス企業のほぼ半数では、デジタルトランスフォーメーションの取り組みは依然としてごく初期の段階か、あるいは未成熟な段階にある。このことは注目に値する。彼らは、『従来型ビジネス』と『デジタル化の初期段階』に分類される」(ワイス氏)

従来型ビジネス

 金融サービス企業の26%がこれに属する。一般的に、これらの企業は既存市場における従来型のビジネスと成長に依存しており、プロセスの最適化や新技術によるトランスフォーメーション、ビジネスモデルの展開に乗り出そうとしない。例えば、Ohio Nationalは年金保険の販売を中止し、他の生命保険商品に注力すると発表した。Kansas City Lifeは、ローカル市場や既存商品分野でのパイの拡大を目指し、競合他社を買収した。このクラスタの他の保険会社も、新しい投資機会を開拓していない可能性や、大きな変革を目指す文化が乏しい可能性がある。

デジタル化の初期段階

 「デジタル化の初期段階」に属する保険会社や銀行は、デジタル最適化の成功の決め手は人材だと考えている。そのため、組織としてデジタル技術を活用できるようにスタッフを採用または育成することが、こうした企業のデジタル戦略の最重点課題と位置付けられている。

 Gartnerが毎年表彰している「Gartner Eye on Innovation Awards」の2018年の地域受賞者の1社であるBMO Bank of Montrealは、顧客が同行の口座から各種支払いを簡単に行える斬新なサービスを開発した。このサービスは、顧客が請求書を同行に電子メールで送信すると、OCR(光学式文字認識)と機械学習機能の利用により、請求元、請求元の銀行口座番号、請求金額、支払期日が認識され、期日までに顧客の口座から所定の金額が請求元口座に振り込まれる仕組みだ。幅広い企業や請求書の書式に対応しているという。

(出典:Gartner)

デジタルファストフォロワー

 「デジタルファストフォロワー」に属する金融サービス企業は、計算されたリスクを取り、新技術の導入やビジネスプロセスの最適化を行う。だが、通常、イノベーションをリードしたり現在の価値提案を取り下げたりはしない。一部のファストフォロワーは、アジリティーや市場投入のスピードを追求し、市場の変化や競合他社の動きに対応する時間を短縮しようとしている。

 2018年のEye on Innovation Awards受賞者の1社であるTaishin International Bankは、アプリで提供される金融サービスの包括的なデジタルエクスペリエンス「Richart」を開発した。Richartでは、スマートフォンやタブレットから簡単に、競争力の高い革新的な、統合された各種金融サービスを体験できる。

デジタルイノベーター

 「デジタルイノベーター」は、技術の活用力が高く、変革のための新しいアプローチや戦略の取り入れ方が成熟している。ブロックチェーンや人工知能(AI)といった新しい技術のアーリーアダプターでもある。こうした金融サービス企業は、チャットbotなどのツールを使って顧客サービスのやりとりを改善することで、顧客エクスペリエンスを向上させる技術を求める場合が多い。

 2017年のEye on Innovation Awards受賞者であるBancolombiaは、大規模なRPA(Robotic Process Automation)プロジェクトの初年度に、40のビジネスプロセスを自動化できた。これにより、同行の営業コストは140万ドル減少し、利益は750万ドル押し上げられた。

デジタルトランスフォーマー

 金融サービス企業のうち、デジタルトランスフォーメーションの取り組みが成熟しており、「デジタルトランスフォーマー」のクラスタに属する企業は12%にとどまる。こうした企業がデジタルトランスフォーメーションを進める最大の目的は、業界にディスラプション(創造的破壊)を起こし、新しい成長分野を切り開いたり、新しい市場に参入したり、新しい収益源(データのマネタイズのような)を創出したりすることにある。このクラスタの金融サービス企業は、AIやブロックチェーン、拡張アナリティクスといった技術の利用率が2倍以上高い。

 Allstate、AXA、Generaliなどの大手グローバル保険会社はオープンAPIを実装し、バリューチェーンの拡大や、サードパーティーまたは関連パートナーとのコラボレーションを進めている。「こうした企業にとってデジタルは、変革や新たな収益機会の拡大に道を開くものだ」(ワイス氏)

出典:The 5 Digital Transformation Identities of Financial Services Organizations(Smarter with Gartner)

筆者 Laurence Goasduff

Director, Public Relations


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