ここで、ユーザー企業の業種に注目してほしい。教材販売会社は4月が繁忙期である。
「本業の忙しい中、システムに関する打ち合わせになど出ていられない」というのが本音だ。だからこそ当初スケジュールでは「3月をベンダーの開発期間に充て、同月末にリリースしてもらおう」という考えだった。
「3月の納期が守れず、自分達の都合も考慮してくれずに4月に打ち合わせを入れたスケジュールを提示し、最終的にはそれすら守れず納期が8月まで遅れたのは、ベンダーの債務不履行だ」とするユーザー企業。
それに対し、「4月の打ち合わせを実施しないというユーザー企業の非協力的な態度こそが大幅な遅延につながった」とするベンダー。
少し補足すると、裁判所の判断は「ベンダーが3月の納期を守れなかったこと」については論点としていない。その理由は定かではないが、双方にそれなりに責任があってのことと判断したと推察される。
問題は、ベンダーがユーザー企業と合意のないまま4月以降も作業を続け、にもかかわらず、6月の納期すら守れなかった点だ。
判決の続きを見てみよう。
おもうに、ベンダーはコンピュータ関係の専門企業として顧客であるユーザー企業から提供された資料および聴取などの結果に基づき、本件システムの導入目的に適合したプログラムを作成すべき信義則上の義務を負担するものといえる。
ところが(中略)4月が教材会社であるユーザー企業にとって最も多忙な時期であるため、プログラム作成のための打ち合わせをそれまでに終了させておくべき必要性があったにもかかわらず、これを行わなかったベンダーには非があるものといえる。
裁判所はベンダーの身勝手なスケジュール設定に苦言を呈している。
ここで注目したいのは、「専門家であるベンダーはユーザー企業の業種、業態などを考慮して、スケジュールなどを策定する義務がある」という点だ。
示された要件に従ってただモノを作ればよいのではなく、「プロジェクトを成功させる」という管理義務を全うするためには、ユーザー側の事情もよく考慮して、プロジェクト計画を立てたり見直したりすべきであり、ユーザーの繁忙期に打ち合わせを設定することは、そうしたプロジェクト管理義務を果たしてはいないという判断をしている。
平たく言えば、ベンダーの身勝手で自己中心的な考えが紛争の一因となっていると述べている。
では、ユーザー企業の責任はどうなのか。
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