「毎日岩を押し続ける」――セキュリティの一線で活躍するエンジニアが示す道筋Go AbekawaのGo Global!〜John Kindervag編(後編)(2/2 ページ)

» 2019年06月18日 05時00分 公開
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伝統的な教育に依存しないクールなIT業界

阿部川 これからの世代のセキュリティ人材についてどう思われますか。

キンダーバーグ氏 そうですね、多くの優れた日本人エンジニアがいるから、ITを使ったビジネスの変革ができていると思います。ただ、技術の進化やセキュリティの変化に伴って、大学の教育システムも変化しないといけないと思います。よくゼロトラストについて大学で教えてほしいという依頼がありますが、いつも困ります。大学でテキストを用意し、4年ほどかけて教えている間に世界はもっと早い速度で変わっているからです。

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 ではどうやってトレーニングしたらいいのでしょうか? それにはテクノロジーやネットワークの基礎知識から始まって多くのことを学ばないといけない。ですから当社も含め、たくさんの大企業が、自身の技術に関して、certification(知識の認定)をしているのです。

 私の息子は、現在Palo Alto Networksの認定試験や、AWS(Amazon Web Services)のトレーニングを受けています。大学のトレーニングやコンピュータサイエンスが不要とはいいませんが、ファイアウォールやクラウドといったことを相手にする毎日のビジネスにはあまり役に立ちません。

 この業界のクールなところは、伝統的な教育に依存せず、独自のトレーニングの組織や、システムや仕組みを作れることです。私は必ずしも大学に行くことを推奨しませんが、次のステップや仕事のための機会を提供してくれることも事実です。IT業界は、経験がものをいう仕事だからです。

阿部川 加えて、現在では、Udacity(参考記事)やGoogleでITを自由に学ぶことができる。

キンダーバーグ氏 その通りです。特に若い人たちは非常に優秀で、そのような機会があれば多くを学ぶことができるでしょう。

将来のためにわれわれは何をすべきなのか

キンダーバーグ氏 将来のITは、人間の持つ自由というものと監視機能のバランスをどうやってうまく保つか、プライバシーの問題をどうするかが課題になります。そのためにサイバーセキュリティが重要になると考えています。ゼロトラストや、サイバーセキュリティの技術などは、実際のところ、法律や規制にプラスの影響を与えることができ、それによって社会へのより良い貢献ができると思います。しかしそれを実現させるには、今日私たちがやっている方法とは違った方法でのアプローチが必要だと思います。

阿部川 まさに同じようことを私は毎日思って仕事をしています。どうやって、将来のことを考えている若いエンジニアの方々をサポートすればよいか。その意味で私どもメディアの役割はとても重要だと思いますので。

キンダーバーグ氏 私たちは「ITビジネスはとても楽しい」と勧めなければなりません。特にサイバーセキュリティの分野は給料も良いですよ、と(笑)。私の28歳になる息子は、サイバーセキュリティエンジニアですが、当初は医者になろうと思っていました。大学進学を考えていたときに、ここから医者になって活躍できるまであと10年もかかると考えて、そんなことならIT業界に行こうと言い出しました。もっと多くの人たちにITの仕事やエンジニアの仕事がキャリアとして素晴らしいものだと知ってもらう必要があります。

画像 「サイバーセキュリティはお勧めだよ」と語るキンダーバーグ氏

阿部川 若いエンジニアや読者に対して、何かメッセージをいただけないでしょうか。

キンダーバーグ氏 もしそのアイデアを本当に良いと思うのなら、決してその実現を諦めてはいけない。そのアイデアをたとえ自分一人でも、諦めることなく、その「岩」を押し続けなさいと。世の中にはたくさんの保守的な人がいて、そんなものは価値がない、意味がない、などと言ってくるかもしれませんが、長い目でみれば、その人たちこそ、間違った考え方をしているのかも知れません。

阿部川 私たちは、もっと一生懸命仕事をして、あなたのこのメッセージを大きな声で世界に伝え、世界を救わないといけませんね(笑)。

キンダーバーグ氏 おっしゃる通りです。そして私たちは必ずできます。絶対に諦めないことです。先日もある会議で、ある人が、「これは難しいなあ」といったときに、私はこう言いました。「もちろん、簡単ではない。でも私たちが思うほど難しくはないかもしれない」と。岩を動かしましょう!

阿部川 Let's move the stone.

キンダーバーグ氏 それですよ、インタビューの締めにピッタリですね(笑)

Go's thinking aloud――インタビューを終えて――

 ワイオミング州、ネブラスカ州、そして現在お住いのテキサス州ダラス。これらの地名がこれほど似合う人もそういない。顔いっぱいのヒゲ、大きく厚い体、そしてお決まりのロングブーツ、そして気さくな笑顔。テンガロンハットを被れば、そのまま西部劇に出られる。そんな風貌の人が、最先端のサイバーセキュリティの伝説的エンジニアだ。

 もどかしげに早口で語る内容は、セキュリティについて改めて目を開かせてくれることばかりだ。いわく、「人に対する信頼とシステムに対する信頼は全く別もの」「確認しない限り信頼するな」「たとえ一人でも諦めるな」「毎日岩を押し続けろ」……誇りを持ったエンジニアに久方ぶりで会えた。それだけでもIT業界にいることは喜びだ。そして私たちベテランがやることは、若い人たちが新しい世界を築くことを、全力で後押しし続けること。決して止まるわけにはいかない。

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