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» 2019年07月01日 05時00分 公開

デーイジー、デーイジー:「2001年宇宙の旅」の「HAL 9000」を、2019年のテクノロジーで解説しよう (4/7)

[米持幸寿(Honda Research Institute Japan),@IT]

センサーネットワークと故障検知

 HAL 9000はパラボラアンテナAE-35の故障を「予想」し、交換を「勧め」る。

 話の進行的には、故障予測は実はフェイクなのだが、それは置いておいて「アンテナの故障を予測する」ということについて解説しよう。

 2019年の技術でパラボラアンテナの故障を予測するとしたら、利用する技術はおおまかには「IoT」と「機械学習によるパターン学習」である。「2001年」制作時にはこれらの技術はSFチックだったであろうが、現代は既に実用化が進んでいる。

故障するのはハード

 パラボラアンテナの故障には、さまざまな症状と原因があるだろう。

 まず、電気回路の故障。パラボラアンテナにはアンテナ自身の機能としてノイズの少ない電波を飛ばす、受信する、という機能がある。電波処理の回路の故障といえば振動で故障しやすいコンデンサーやトランジスタが考えられる。

 次に、サーボモーターの故障。パラボラアンテナには回転の角度を調整するためのサーボモーターが入っている。サーボモーターで壊れやすいのは、角度を測ろうとする「ポテンショメーター」や、モーターのトルクを制御する回路「トルコン」だ。

 トルコンの故障の原因には、ホコリなどによるショート、機械部の動作不良による過負荷によって起こる発熱などがあるかもしれない。

 さらにアンテナを実際に動作させるための稼働部=機構がある。これらには軸、軸受け、ベアリング、ギアなどがあるだろう。長時間使用すると、可動部があるものは壊れやすく、ベアリングの動きが悪くなり、ボールが割れ、ギアが欠けることがある。

センシングで大量のデータを収集

 こういったトラブルを「あと何時間で何%の確率で故障します」と宣言するにはどうしたらいいだろうか?

 現代のAIで行っている故障予測には、「センシング」と「機械学習」が使われている。

 多くのものがセンシングの参考になる。消費電力の変化、消費電力に乗るノイズ、ポテンショメーターの値、受信される電波の強度、電波に乗るノイズ……などなど。

 可動部の監視には「音」がよく使われる。

 人間の「職人」は、音を聞いて「この機械は調子悪い」などとのたまうが、AIだって同じである。モーター音、ギア音、ベアリングのきしみ音などをマイクで拾い、記録しておくのである。

機械学習で予測する

 前述のように「何でもないとき」と「故障したときの少し前のデータ」が大量に存在する。

 「この音の後に故障した」という印を付けることを「タグ付け」や「アノテーション」といい、「普段の音」と「印のある音」を集めたものを「教師データ」という。

 教師データを機械学習に読み込ませて覚えさせると、「この電流のパターンとこの音のパターンの組み合わせの後、この辺が壊れる可能性は何%」と予測できるようになる。この「何%」のことを「信頼度」(confidence)という。このような故障予測は実際に行われている。

機械学習で「何となく」が分かる

 このようにたくさんのデータ(多次元という)を与えてそのパターンを覚えさせる手法の場合、「なぜそう予測できるのか」をプログラマーが客観的に説明できないことが多い。

 多次元データを扱う機械学習AIには、「直観的にそう思う」という性質があるのだ。

 少し前の予測技術では、人間の職人に「どういう場合に故障と考えられますか」とヒアリングを行い、その特徴をプログラミングしていた。そうすると、ある程度表面的に確定的に分かる場合にのみ反応する予測器ができて、職人の「何となく壊れると思う」といった曖昧なものには対応できなかった。

 これが分かるようになってしまうのだから、機械学習は職人泣かせの技術なのである。

Point!

AE-35アンテナの故障検知のような技術は、現代でも機械学習で実用化されている

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