経済産業省に聞く「DXレポート」の真意「DX推進指標」を7月31日から提供開始(1/3 ページ)

2018年に発表されて以降、多くの企業の高い関心を集めている経済産業省「DXレポート」。レガシーを刷新しなければ企業は多大なインパクトを受けることになるとした「2025年の崖」問題に危機感を抱く経営層も多いが、メッセージに対する“誤解”も少なくないようだ。では「DXレポート」に込められた真意とは何か? 企業と国、それぞれが今考えるべきこととは何か? 経済産業省 商務情報政策局 情報産業課に話を聞いた。

» 2019年07月31日 11時00分 公開
[文:斎藤公二/インタビュー・構成:内野宏信/@IT]

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「DXレポート」発表から約1年。“推進状況を測る指標”を発表する狙いとは

 現在のレガシーシステムの課題を解消できなければ、企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)が実現できないだけでなく、2025年以降、年間最大12兆円(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性がある。これを「2025年の崖」と呼ぶ──。

 そうした内容から、社会一般で大きな話題となった経済産業省のDXレポート(正式名称は「DXレポート 〜ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開〜」)。経済産業省の研究会の一つである「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が2018年9月に中間取りまとめとして発表したものであり、発表以降、多くのメディアが取り上げ、ITベンダーやユーザー企業が検討課題として、議論の俎上(そじょう)に載せるようになった。

ALT DX推進指標の構成(インタビュー部分は3ページ

 ただ、レポート公表からおよそ1年を経たが、依然として国内ではDXに対して有効な一歩をなかなか踏み出せずにいる企業も多い。そうした中、経済産業省としてDX推進を支援すべく、DXへの対応状況を自社で簡易的に診断する指標「DX推進指標」を新たに作成し、2019年7月31日から提供を開始した。では、DXレポートやDX推進指標の“真の狙い”はどこにあるのか、経済産業省としてはDXをどのように捉え、どのような“支援の形”を考えているのか――。

 今回、このDXレポートの取りまとめを担当した経済産業省 商務情報政策局 情報産業課に直接、話を聞く機会を得た。同課 ソフトウェア産業戦略企画官 博士(工学) 和泉憲明氏に、アイティメディア IT編集統括部 統括編集長の内野宏信がインタビューした。

急成長する米国や中国と比較して、日本のIT成長率は実質マイナス!?

―― メディアとしては、DXで成果を上げる企業とそうでない企業の差が広がっているように思えます。DXレポートでは後者が検討すべき事柄が紹介されているわけですが、まず「経産省としての現状認識」から教えていただけますか。

ALT 和泉憲明氏
経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 ソフトウェア産業戦略企画官 博士(工学)

和泉氏 大きく2つの論点があると思います。1つは、ITベンダーもユーザー企業ももっと企業の競争力に着目する必要があるのではないかという点です。ITサービス産業の成長率は国の経済成長率とほぼ同じです。これを「成長しているからいい」ではなく、年率で6%の米国や10数%の中国と比較して「成長していない」と捉えることが必要なのではないでしょうか。実際、成長の内訳をひも解いてみると、伸びているのは既存システムの運用保守産業が主なところです。「成長」という観点で言えば、むしろ実質マイナスとも言えます。

 もう1つは、DXの取り組みが進んではいるものの、いわゆる“PoC貧乏、PoC地獄”で止まってしまい、次のステップに進めていないケースが多いという点です。DXに対する関心が高まり“外身”までは作ったものの、肝心の“ビジネスモデルという中身”を詰めるところまでは至っていない。アンコをどう詰めていくか、DXの取り組みを第二幕へと進める必要があります。

── “外身”というのは、AIやIoTなど新規領域の技術や、デジタル推進室のようなDXに専門的に取り組む組織のことですね。“手段”は整えたが、それによってどうもうけるか、どう体験価値を上げるかといった“アンコ”を詰められていない。「DXに対する現実感」「具体的なビジネス目的」という2つの課題に対する危機感が、DXレポートの背景にあったわけですね。それが「2025年の崖」だと。

和泉氏 「崖」という言葉を使った趣旨は、平たんな道を歩いているのにあるときストンと落ちるような状況だったからです。特に、“今”経営に携わっていて2020年ごろに任期を終える方にとって、ただでさえ先が見えにくい中で、この崖はさらに見えにくいものになります。

―― 過去の実績や経験、慣習が視野を曇らせるわけですね。例えばSIerならビジネスモデルを変えなければと言われていながら、今現在は改修・保守で利益が成り立ってしまっている。ユーザー企業も既存業務で利益は上がっている。

和泉氏 今はいいかもしれません。が、いざ2025年になって白黒ついてしまったとき、その責任は誰が取るのでしょうか。問題を先送りしていては非常に厳しい状況になる。その問題提起をレポートにまとめました。

 ただ、DXレポートに明確な答えを書いているわけではありません。Facebookのマーク・ザッカーバーグの言葉に「Done is better than perfect(完璧を目指すよりまず終わらせろ)」があります。レポートは中間とりまとめであり、完璧でないことは分かっていますが、課題だけでも認識いただきたい。そうした思いを込めたレポートなのです。

── 米国や中国が成長している理由は何でしょうか。

和泉氏 成長要因について明確な数字をつかんでいるわけではありません。ただ、日本との比較で言えば、日本の場合は技術的負債が大きいと考えます。日本企業の多くは現行システムの保守運用にITコストの約8割を費やしています。「現行システムに投資している」ということは、「ビジネスプロセスを変えなくてもよいところ」に投資しているということです。しかも保守運用のほとんどをITベンダーに依頼しています。そのため成長に結びつかないという仮説が成り立つと思っています。成長企業は「モノ売りからコト売りへ進む」と言われるように「ビジネスプロセスを作ること、変えること」に投資し、成長のドライバーにしているのです。

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