君はライバルに協力するのかい?――ベンダーを探せ!コンサルは見た! 情シスの逆襲(3)(1/3 ページ)

営業部門の発案でオンラインショップを作ることになった、老舗スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」。仕事を依頼できるベンダーに心当たりのない担当者は、情シスの同期に協力を仰ぎに行くが……。

» 2019年10月17日 05時00分 公開
コンサルは見た!

連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。



登場人物

ラ・マルシェ

都内に十数店舗を展開する、創業50年の高級スーパーマーケットチェーン

kozuka

小塚大地

取締役 兼 営業部部長。オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」の発案者


hanyuu

羽生孝志

情報システム部部長。「AI在庫管理システム」の発案者


murakami

村上克典

総務担当常務取締役


A&Dコンサルティング

大手コンサルティングファーム

misaki

江里口美咲

ITコンサルタント。凄腕系。小塚の相談に乗っている。


sirase

白瀬智裕

「A&Dコンサルティング」に化粧品メーカーから出向中の新米コンサルタント。

美咲の後輩として、システム開発やIT業界について猛勉強中

前回までのあらすじ

時代に取り残されつつある老舗高級スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」の経営を引き継いだ新社長は、観光客誘致、キャッシュレス決済導入など、施策を次々に繰り出した。さらに、営業の小塚がオンラインショップの開発を提案し、新社長肝いりプロジェクトとしてスタートした。

大変なのは、これからよ

 「いやあ。江里口さんの言う通り、会員制にしたのがポイントでした! 本当にありがとうございます!」

 A&Dコンサルティングのオフィスで江里口美咲は、スマホから聞こえる小塚の大声に少し顔をしかめた。感謝してくれるのはありがたいが、最近のスマホはスピーカーの性能が格段に上がっているのだ。

 「お役に立てて何よりです」

 実際、そんなに感謝されるほどのことではない。「ラ・マルシェ」のような高級感を売りにする小売店なら、富裕層に特別な待遇を与えて囲い込むことなどどこでもやっている。美咲は数週間前に訪ねてきた小塚に、そんな事例を幾つか紹介しただけだ。

 しかし、電話の向こうの興奮は収まらない。

 「ホントにさすがです。江里口さんのアドバイスがなければ、ブランドイメージを大切にする役員連中の賛同は得られなかったでしょうし、社長も首を縦には振らなかった」

 「お客さまに多少の優越感を味わっていただき、しかも会費のモトを取るために積極的にお買い物をしていただく。その結果イメージアップも図れる。有料会員制のサービスは、昔からたくさんの小売業で行われていた手法です。私が考えたというわけではありませんから」

 そう言いながらも、美咲は口角を少し上げた。何であれ、人から感謝されることに悪い気はしない。

 「でも、小塚さん。大変なのはこれからですよ。サイトの立ち上げがうまくいかなければ、何もかも台無しですから」

 「もちろん、分かってます」

 簡単に答える小塚に、美咲は少しだけ不安を覚えた。

 「オンラインショップの開発ベンダーは、もうお決まりですか?」

 電話の声が一瞬途切れた。小塚がこれまでの笑顔をしまい込む気配が感じられる。

 「いや、それが……。私はずっと営業畑にいたので、ITベンダーとの付き合いはないものですから」

 「変なところと組むと痛い目に会いますよ」

 「江里口さん、どこかいい会社知りませんか?」

 その問いに、今度は美咲の方が少し黙った。ITコンサルタントの美咲には開発ベンダーの知り合いが多いが、今は業界全般が供給不足で、信頼できるベンダーはみな、他社の仕事に忙しいのだ。

 「ラ・マルシェさんの出入り業者は?」

 「当たってみたんですが、他の仕事で手いっぱいとどこからも断られまして……」

 「一応心掛けてはみますが、良いベンダーは引っ張りダコですから……」

 「何とか頼みます。このままだと、せっかくの企画も文字通り絵に描いた餅になってしまいます」

 「あまりアテにはしないでくださいね」と言って、美咲は電話を切った。

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