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» 2019年12月02日 05時00分 公開

ハッシュ化したからOKでしょ?:プライバシーフリーク、就活サイト「内定辞退予測」で揺れる“個人スコア社会”到来の法的問題に斬り込む!――プライバシーフリーク・カフェ(PFC)中編 #イベントレポート #完全版 (2/5)

[鈴木正朝, 高木浩光, 板倉陽一郎, 山本一郎,@IT]

公正取引委員会の観点では

山本 同意があっても違法という厚労省の踏み込み方は意外だった一方で、先ほどの「どうとでも取れる条文の書き方は恣意的なんじゃないかという普遍する議論」あり、「こんにちここに至るまで、厚労省は労働行政について個人情報にまつわる部分を何もしてこなかったじゃないか議論」もあります。

 「いろいろ規定もあって、ちゃんとやらなければいけない」と言っておきながら、この期に及んでようやく名乗り出てきて、問題が起きてから言い始めたところは、われわれからすると「え、今それを言いますか」という違和感もあります。

板倉 それは気の毒といえば、気の毒だと思います。職業安定法における個人情報に関する規定としては5条の4や51条がありますが、HRテクノロジーの利用を前提とすると、適切に行動規範が示されているとはいえないと思います。

 先ほど申し上げたように、個人情報保護法には雇用管理分野のガイドラインがなくなったので、雇用関係の個人情報について有識者が集まって議論する機会も実質なくなってしまったわけです。雇用管理分野のガイドライン廃止から数年たって、AIを含めたテクノロジーが発展したので導入したら、行動規範側は進歩してないですから。やっぱりできないじゃないかとなるわけです。

 事業者の手戻りが発生しないように、規制当局も事前にシグナルを出すのは必要だと思います。倉重先生らとの共著を書いた時点で、厚労省はHRテクノロジーについての政策は何もなかった。まだ経産省しかやっていない状態でした。今だって厚労省にはHRテクノロジーを専門的に取り扱う部署がないのは分かっていますし、手が足りないのも分かります。厚労省の官僚が死にそうですというスライドを出しているのも知っています。

山本 そういうこともあり、同意があっても違法だという点において厚労省は、「主な就職サイトはリクナビなど2、3種類に限られて、辞退率の利用に同意しなければ就職活動が実質的にできなかった」という判断になりましたと。「厚労省としては、かなり頑張って踏み込んだんだな」という理解でよいかと感じます。

 そして、これは就職情報サービスの寡占の問題となり、競争政策の面から公正取引委員会がいろいろと言い始めました。公取の山田昭典さんという事務総長は、「リクナビを運営するリクルートキャリアがこうしたプラットフォームに当たるか」と問い合わせを掛けられたときに、「差し控える」という話をしたとの報道もありました。

 公取は業者間、民間企業の公正競争をつかさどる機関であるにもかかわらず、「今回のお話の対象というのは消費者問題の一種ではないか」ということで、要は「利用者=学生の情報が不利に扱われていることに対して、公取がクビを突っ込むとはどういうことなのか」と一部議論が出始めるかと思います。

鈴木 これは独禁法の話になりますので、依田先生の解説に期待したいところですよね。

山本 リクナビの問題として、公取の指針案では優越的地位の乱用に当たるのではないかとメディアではかなり強く報じさせていたとも聞き及んでいます。ただ、山田さんの口から出た内容を見ると、それに関しての評価は「現段階では差し控える」ということで、恐らく来週くらいに具体的な話が公取から出てくるのではと思います。

板倉 もともとヨーロッパは不公正取引指令「事業者による消費者に対する不公正な取引行為に関する欧州議会・理事会指令 2005/29/EU」で、対消費者のものとして定められていますし、米国のFTC(連邦取引委員会)は、(データ保護に加えて)消費者問題も独禁法も一緒にやっていますから、対消費者で経済法を使うのは素直な流れです。

 特にGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に対していろいろやってきたわけですが、個人情報の取り扱いについて独禁法を用いるという一番のリーディングケースだったのは、ドイツ連邦カルテル庁がFacebookに対して搾取的乱用を理由として多様なソースからユーザーデータを統合することを禁止した2019年2月の事件です。日本の行政法でいえば「執行停止」がなされ、裁判で1回負けている状況です。

 他方でプラットフォーマー規制は、政府でもいろいろなところで議論しています。リクナビに合わせたわけではありませんが、先日「個人情報など」を提供する消費者との取引についての優越的地位の乱用に関する指針案、その名も「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」が公表され、パブリックコメントにかかっている最中(2019年8月29日〜9月30日)です。

 「新卒の就活支援サイトとして選択肢が幾つかしかなかった」という厚労省の表現は、割と公取的な、独禁法的な考え方を入れた上でいっているなと感じます。では、個人情報保護法の執行は個人情報保護委員会が担当する中、どこまで公取が手を突っ込んでやるのかは難しいことです。個人情報保護法での規律と独禁法での規律をどうやって切り分けるか、全体を見てやる必要があります。せっかく個人情報についての執行監督は個人情報保護委員会に集中させたのに、各当局が違うことをいうと、効率が悪い話になると思います。

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