クラウド戦略を計画する6つのステップGartner Insights Pickup(136)

企業はクラウドファースト戦略を成熟させる必要がある。ただし、クラウドファーストは、全面的にクラウドを使うことと同義ではない。自社に適したクラウド計画の策定と実行のための、6つのステップを紹介する。

» 2019年12月06日 05時00分 公開
[Christy Pettey, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 クラウドは、企業が変革を遂げ自らを差別化し、競争優位を獲得するための基盤となっている。今では多くの企業が、ビジネス全体でのクラウドサービスの活用の進化を目指すようになり、クラウドファースト戦略を推進している。Gartnerの最近の調査によると、北米企業の40%が新規または追加予算の5割以上をクラウドに投入する計画だ。

 Gartnerは、クラウドファースト戦略を成熟させていくことを企業に勧めている。クラウドファースト戦略は、アプリケーションを展開するプラットフォームの第1の選択肢としてクラウドを位置付け、その利用を優先的に進めるものだ。「クラウドファースト戦略をまだ策定していない企業は、競合他社に後れを取るだろう」と、Gartnerのアナリストでバイスプレジデントのイライアス・クネイザー(Elias Khnaser)氏は語る。

 「アプリケーションをパブリッククラウドにデプロイまたは移行できるかどうかを、IT部門が検討していたのは過去の話だ。今やIT部門は一般的に、クラウドサービスの進化のペースやイノベーションを、ビジネスの基盤を構成するものとして受け入れている」(クネイザー氏)

 クラウド戦略を策定、実行し、成熟させていくに当たって、IT部門は以下の6つのステップを念頭に置かなければならない。

1.クラウドファーストのマルチクラウド戦略を策定する

 クラウドファースト戦略は、IT部門だけのものではない。この戦略への全社的な理解と支持を得る必要がある。そのために、IT部門はクラウドファースト戦略の実行に必要な、技術的な施策以外の取り組みも行わなければならない。ビジネスリーダーにクラウドのメリットを説いて、これらのリーダーがクラウドの活用によってビジネス効果を実現し、競争優位や収益力向上につなげられるよう支援する必要がある。

 「クラウドファースト」は、「常にクラウドを使用する」という意味ではない。一部の企業は、クラウドファーストによって全てのアプリケーションのデータセンターからの移行を長期的に目指すかもしれない。別の企業にとっては、クラウドファーストはアプリケーションの一部をパブリッククラウドに移行する取り組みかもしれない。「どんなアプローチを取るかにかかわらず、投資に優先順位を付け、自社のクラウドサービス活用を進化させることが重要だ」(クネイザー氏)

2.ワークロード配置を継続的に分析する

 これまで、現行環境の評価は、主に代替ソリューションとの機能比較に重点を置いて行われてきた。例えば、通常、ワークロードをオンプレミスデータセンターに配置するのは、当然のことだったからだ。だが、クラウド時代にはスタック要素の配置と所有に関する選択肢が新たに広がっているため、ワークロードの既存のライフサイクル管理モデルを進化させなければならない。

 ワークロード配置の継続的な分析では、以下を行う。

  • ワークロードを定期的に再評価する
  • ワークロードの現在の実行場所が自社のニーズを十分に満たしているかどうかを評価する
  • 代替モデルへの移行により、自社のオペレーションのリスクを大幅に高めることなく、より高い価値を生み出せるかどうかを評価する

3.クラウド活用の進化を計画する

 クラウドプロジェクトは複雑であり、企業にとって、影響を受ける全ての機能分野にわたって必要なスキルを持った人材を育成するには時間がかかる。だが、企業はクラウドの活用を進化させ、クラウド戦略を成熟させるプロセスを継続的に改善する必要がある。

 「大きな成功を収める企業は、クラウドの活用を進化させる複数年の取り組みを注意深く計画する。この計画作成は、クラウド戦略の幾つかの成熟段階を想定し、クラウド活用によってそれらの段階ごとに業務をどのように改革していくかに焦点を当てて行われる」(クネイザー氏)

4.マルチクラウドガバナンスおよび管理プロセスを確立する

 クラウドコンピューティングのガバナンスは、対象に含まれるクラウドプロバイダーが1社だけでも難しく、企業がマルチクラウド化を進めるとさらに難しくなる。クラウドプロバイダーはオンデマンドでセルフサービスリソースを提供し、実質的に無限のキャパシティーを持つ。そのために企業にとって、何が消費されているかを可視化し、管理するのは厄介だ。

 企業は、プロバイダーごとのクラウドサービス消費だけでなく、契約しているクラウドプロバイダー全体でのクラウドサービス消費に関するガバナンスを確保しなければならない。消費を可視化しなければ、クラウド環境のガバナンスや管理は不可能だ。

5.マルチクラウド管理ツール戦略を策定する

 企業は、クラウド管理ツール戦略を策定することで、自社に最適なクラウド管理ソリューションを選択、導入できる。一貫したクラウド管理ツール戦略を構築するには、明確に定義された体系的なアプローチによって要件を固め、それらの要件に合ったツールを特定する必要がある。その目的は、全ての管理ニーズを満たすとともに、必要なツールの数を最小限に抑えることにある。

 「最も優れた戦略は、クロスプラットフォームの一貫性とプラットフォーム固有の機能性の必要度に基づいてソリューションを組み合わせることだ」と、クネイザー氏は説明する。

 「どんな場合でも、企業はクラウドプラットフォームのネイティブツールセットを優先的に利用し、それらを必要に応じてサードパーティーのクラウド管理プラットフォーム、クラウド管理ツール、DIYソリューション、アウトソーシングで補強すべきだ」(クネイザー氏)

6.マルチクラウドSaaS統合の要件を評価する

 企業は、マルチクラウドのSaaS統合に向けてアプリケーションの要件評価を継続的に行うことで、SaaSソリューションの拡張と統合の最適な選択肢を得られる。ソリューションごとにコストがかかる可能性があるPaaS技術を使うのではなく、一部のアプリケーションや統合機能を既存のSaaSサービスに移行することで、これらのサービスの費用対効果を高められる可能性がある。

 だが、企業はアプリケーションの要件評価を継続的に行い、要件とSaaSサービスの機能を比較することで、SaaSで得る機能とPaaS技術の最適な組み合わせを維持する必要がある。

出典:6 Steps for Planning a Cloud Strategy(Smarter with Gartner)

筆者 Christy Pettey

Director, Public Relations


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