NFLとAWSがAIで挑む、アメリカンフットボール選手の脳損傷問題AWS re:Invent 2019リポート(1)(1/2 ページ)

米国で社会問題となってきた、脳損傷をはじめとするアメリカンフットボール選手の健康について、米NFLとAWSは機械学習/AIを活用したシミュレーション/モデリングによる調査研究を共同で行い、これまでとは異なる観点から対策を進めていくことを発表した。具体的には何をやろうとしているのか。

» 2019年12月10日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

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 米国で社会問題となってきた、脳損傷をはじめとするアメリカンフットボール選手の健康について、米NFL(National Football League)とAmazon Web Services(AWS)は機械学習/AIを活用したシミュレーション/モデリングによる調査研究を共同で行い、ルール改正や安全性の高いヘルメットの開発など、これまでとは異なる観点から対策を進めていくことを発表した。

 NFLコミッショナーのロジャー・グッデル(Roger Goodell)氏は2019年12月5日(米国時間)、AWSの年次イベント「AWS re:Invent 2019」で行われた記者会見にAWS CEOのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏と共に登場し、NFLのトップとしてこのプロジェクトに注力していくことを強調した。

NFLコミッショナーのロジャー・グッデル氏(右)とAWS CEOのアンディ・ジャシー氏(左)

 「NFLの最優先事項は、このスポーツを現在、そして将来の選手にとって安全なものにしていくことだ。このために、試合のやり方を変え、トレーニングの方法を変え、選手が試合に備える仕方を変えていく」(グッデル氏)

 より詳しくは後述するが、NFLとAWSはビデオをはじめとした多様な情報を統合して分析、より精密なシミュレーション/モデリングを繰り返し、根拠に基づく対策を進めるという。具体的には、安全性の高いヘルメットの開発や、トレーニング/指導方法およびルールのさらなる改善につなげていくという。

 今回の発表には、深い文脈がある。

 ウィル・スミス主演の映画「Concussion」などでも描写されているように、プロアメリカンフットボール選手の脳損傷は、過去20年にわたり、米国で政府や議会を巻き込む大きな問題に発展してきた。

 2000年前後から、NFL選手が試合や練習で受ける、脳震盪(のうしんとう)などの脳に対する反復的な損傷が、記憶障害、抑うつを含む認知症状につながることを示唆する調査が見られだした。現在ではボクシングにおけるパンチドランカーなどと同様、「慢性外傷性脳症」と定義されるようになっている。慢性外傷性脳症の発症者には共通に、特殊なたんぱく質の沈着が見られるが、死後の脳解剖でしか確定的な診断ができず、現時点でも詳しいことは分かっていないとされる。

 引退後のNFL選手の間で、認知症や、うつ症状による自殺例が多数発生しているとの報告が相次いだ後も、NFLはアメリカンフットボールにおける頭部への衝撃と、慢性外傷性脳症との因果関係をしばらくの間は認めることがなかった。2010年代前半には、多数の訴訟や議会からの批判にさらされるようになり、選手の健康を確保するために多角的な取り組みを進めることを約束した。特に2010代中頃以降、NFLはルール改正やガイドライン策定、トレーニング方法の改善など、選手の健康・安全に組織を挙げて取り組む姿勢を示してきた。

 結果として、例えば2017年の時点で、最高レベルの安全性を備えたヘルメットを装着する選手は41%に満たなかったが、2019年には99%に達したという。また、2018年には、脳震盪の件数が前年比で29%減少したという。これを受けてNFLでは、脳震盪やけがの減少や安全性の高い防具の普及といった観点で、一定の成功を収めてきたとする。

 とはいえ、選手同士が頭から衝突することそのものを禁止することのできないアメリカンフットボールという競技を、社会からの支持を得ながら存続させるためには、因果関係を深く理解して、きめ細かな対応をしていかなければならない、というのがグッデル氏の上述のコメントの意味だ。

具体的には何をやろうとしているのか

 NFLとAWSの関係は新しいものではない。NFLはリアルタイムスタッツ機能、「Next Gen Stats」で、AWSの機械学習/AI関連を含むクラウドサービスと、機械学習関連支援サービスを活用している。

Next Gen Statsでは、選手とボールの動きに関するデータを過去の情報と合わせ、リアルタイムで表示することも可能(同サービス発表時のAWSブログポストより)

 Next Gen Statsは、選手の肩パッドおよびボールに埋め込まれたRFIDタグを基に、選手とボールの位置や動きに関する詳細なデータを取得し、過去データと組み合わせて分析する情報サービス。

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