CIOは、ブロックチェーンに関する5つの現実的な未来を無視できないGartner Insights Pickup(137)

ブロックチェーン技術は大きな機会をもたらす。CIOは、この技術がビジネスの主要部分にどのような影響を与えるかを理解する必要がある。本記事で述べる5つの現実的な未来を目の前にすれば、CIOにとって行動を起こさないという選択肢は考えにくい。

» 2019年12月13日 05時00分 公開
[Kasey Panetta,Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 車が自動的に自身の保険料率を交渉するようになったら、あるいは決済を確認するのに銀行が不要になったら何が起こるだろうか。また、近所の人同士がお互いのソーラーパネルからの電力を直接購入し合えるようになったら、契約が自らの条項を強制するようになったら――。

 これらのシナリオは、あまりにもとっぴに思えるかもしれない。だが、実はブロックチェーンによって全て実現する可能性がある。重要な問題は、こうした変化が企業にどのような影響を与えるか、企業はどうすればこの技術を活用できるかだ。

 「ブロックチェーンを導入済みの企業はほとんどない。だが、この技術は幅広いビジネスに大きな影響を与え得る」と、Gartnerのアナリストでバイスプレジデントのラジェシュ・カンダスワミ(Rajesh Kandaswamy)氏は語る。

 「ブロックチェーン技術の普及率がまだ低いことから、多くのCIO(最高情報責任者)は、行動を起こす必要はないと考えてしまっている」(カンダスワミ氏)

 「Gartner 2019 CIO Survey」調査によると、ブロックチェーンが自社にとって“ゲームチェンジャー”になる(業界や市場に新たな波を起こして構造変化をもたらす)と予想している企業は、全体の4%にすぎない。既にブロックチェーンにヒントを得た技術を少しでも導入しているか、2020年に導入する企業も11%にとどまる。

 しかし、CIOはブロックチェーンの5つの現実的な未来を踏まえ、今後5年間に「ブロックチェーンが自社にどのような価値をもたらすか」「ブロックチェーンがもたらす課題にどのように対処するか」を考え始める必要がある。

現実的な未来1:ブロックチェーンがもたらす多様な機会は時間をかけて進化する

 ブロックチェーンはモノリシックで完成された技術ではない。ブロックチェーンという言葉は、実は幅広い技術を包含している。例えば、スマートコントラクトやトークン、コンセンサスモデルなどだ。これらが成熟を続け、実用化されると期待されている。CIOも、自らのブロックチェーン戦略を徐々に進化させることを計画しなければならない。

 Gartnerはブロックチェーンの進化を4つの段階に分類し、各段階でブロックチェーン技術が次のように整備されていくとの見方を示している。

1.テクノロジーの実用化

 ブロックチェーンのビルディングブロックが登場する。その中には、暗号化およびコンセンサスアルゴリズム、分散コンピューティングインフラ、トークンなどが含まれる。

2.ヒントを得たソリューション

 ブロックチェーンの一部の要素が組み合わされる。だが、ブロックチェーンの中核要素5つのうち、「非中央集権化」「トークン化」の2つがまだ欠けている。

3.完成したソリューション

 ブロックチェーンの5つの中核要素を全て兼ね備えたソリューションが構築される。この中核要素は、「非中央集権化」「不変性」「暗号化」「トークン化」「分散」だ。

4.強化したソリューション

 ブロックチェーン技術と人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)といった技術を組み合わせ、よりインテリジェントなソリューションが構築される。

現実的な未来2:ブロックチェーンは今後5年間でオペレーティングモデルを変革する可能性があるが、必ずしもビジネスモデルを一変させるわけではない

 ブロックチェーンは、いずれはビジネスの中核部分を変えるだろうが、今後5年のスパンでは、主に企業のオペレーティングモデルに影響を与えるだろう。ブロックチェーンの現在の使い方(効率性の向上や記録の保持などが目的となっている)だけに注目するのは近視眼的だ。CIOは、ブロックチェーン技術を自社の価値を押し上げる根本的なビジネス変革に活用する機会を探さなければならない。

 まず、ブロックチェーンが自社の価値提案を強化できる分野を探し、自社を真に差別化できるプロジェクトを提案する。創造的破壊をもたらすクールな技術を購入するのではなく、「この技術はビジネスにどんな恩恵をもたらすか」を熟慮して、購入する技術を厳選する。

現実的な未来3:ブロックチェーンはマルチアセット・デジタルエコノミーを生み出すことができる

 トークン化と、市場における資産のデジタル表現について、創造的に考えるべきときだ。そうすることで、組織の効率を高めることや、全く新しい市場を生み出すことが可能になる場合がある。トークン化が現在および将来の業務にどのように役立つかを検討し、エコシステムパートナーと、トークン化の可能性と課題についての議論を開始する。

現実的な未来4:ブロックチェーンは新しい社会の実現を支えるが、信頼の問題を全てのレベルで解決するわけではない

 ブロックチェーンの中核要素の一つである非中央集権化は、プロセスから中央機関をなくし、ビジネスをともにしたことがない二者間の一定レベルの信頼を実現する。これは、ブロックチェーン参加者の定義が個人や企業を超えて、スマートコントラクトや分散型台帳、接続されたモノ、DAO(非中央集権型自律組織)も含むことを意味する。

 ブロックチェーンは、こうした全ての参加者間のやりとりを促進し、新しい社会の実現を支えるが、信頼の問題を全て解決することはできない。例えば、物理的なもの、または完全にデジタルではないものは、限られた信頼値しか得られない(もし得るとしても)。信頼の構築に関しての潜在的な穴や弱点を明示するマップを作成すべきだ。また、ブロックチェーン技術を、全ての問題を解決するソリューションとして経営幹部に売り込んではならない。

現実的な未来5:プログラマブルエコノミーが競争条件を左右する

 実のところ、ブロックチェーンとその中核要素は、ビジネスの世界だけでなく、企業が存在する世界も根本的に変える見通しだ。いずれは、ブロックチェーンによって自律的な電子商取引と、プログラマブルエコノミーが実現すると予想される。

 プログラマブルエコノミーは、人々や組織、および現在の企業や個人と同等の法的地位を持つ人工エージェントが行う金銭的および非金銭的な値の交換をサポートするために、大規模なブロックチェーンのようなコンピューティングリソースを非中央集権的な方法で適用することで生まれる。消費者が行動を変え、新しいやり方を取り入れていくとともに、社会にプログラマブルエコノミーが浸透し、やがてデジタル社会へと進化していく。デジタル社会に存続するには、企業も技術だけでなく、倫理とプラクティスも進化させていく必要がある。

出典:CIOs Can’t Ignore These 5 Realities of Blockchain(Smarter with Gartner)

筆者 Kasey Panetta

Brand Content Manager at Gartner


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