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» 2019年12月10日 05時00分 公開

Go AbekawaのGo Global!〜Arnar Jensson編(後):「起業のアイデアも家内も、全て代々木公園で手に入れた」――日本の企業のグローバル化を目指すCTOが教える「自分の殻の破り方」とは (1/2)

AI(人工知能)を活用した英語学習サービスを提供する「Cooori」でCTOを務めるArnar Jensson(アルナ・イエンソン)氏。同氏がエンジニアに伝えたい「一歩外に踏み出すことの重要さ」とは。

[取材・文:阿部川久広(Go Abekawa), 構成:中村篤志,@IT]

 世界で活躍するエンジニアの先輩たちにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。前回に引き続き「Cooori」でCTO(最高技術責任者)を務めるArnar Jensson(アルナ・イエンソン)氏にご登場いただく。同氏がエンジニアに伝えたい「一歩外に踏み出すことの重要さ」とは何か。

代々木公園で6カ月間「一人ブレスト」

阿部川“Go”久広(以降、阿部川) 大学を卒業されて、2009年にこのCoooriを設立するまでに、結構時間があるのですが、何をなさっていたのですか。

イエンソン氏 「自分は起業するのだろう」とは思っていましたが、実は具体的なアイデアはありませんでした。正しくはあまりにたくさんのアイデアがあり過ぎたのです。それで私は6カ月の間、代々木公園で考え事をして過ごしていました。自分でもタガが外れていた気がします……(笑)。

阿部川 そのころは独身だったのですよね。

イエンソン氏 もちろんです。でも、面白いことに家内と出会ったのはその時なのです。彼女に「お仕事は何ですか」と聞かれて「毎日代々木公園に通っています」と答えました(笑)。家内はとても驚いて「ホームレスの方でいらっしゃいますか」と(大笑)。でも家内は私が何か面白いことをやっているんだろうなと思ってくれました。

阿部川 すてきな奥様ですね(笑)。代々木公園ではどんなことを考えていたのですか。

イエンソン氏 仕事や起業のことを考えるというよりは、自分のアイデアに形(フォーム)を与えようとしていたと思います。「どうやったら素晴らしい製品が作れるのか」と一人でブレーンストーミングしていたようなものです。自然に囲まれた環境で散歩しながら、広大な公園の小道をゆっくりと歩きながら考える。こんもりとした木立が広がり、犬が走り回る。実は早朝はそんなにたくさんの人は公園にはいませんから、たった一人でいると、アイデアが、まさに飛ぶように、次から次へと浮かんで来ます。すぐにそのアイデアをノートにどんどん書き込みます。

 夕方には友達と会って、思い付いたアイデアを説明し、フィードバックをもらう。そしてまた次の日に公園に行って、そのフィードバックを基に、一人ブレーンストーミングをする。毎日そんなふうにして6カ月を過ごしていたのです。特に期限を決めていたわけではありませんが私には6カ月という期間が必要でした。

画像 代々木公園で「一人ブレスト」をするイエンソン氏

阿部川 どうしても必要な期間だったのでしょうね。

イエンソン氏 そうですね。そしてある日あるときに、稲妻に貫かれたようなひらめきがあったのです。まるで、それまでブレーンストーミングしてきたアイデアの全てが1つにつながったような感覚でした。それで古くからの友人のエイヨルフソン(Coooriの共同設立者でCEOのエイソール・エイヨルフソン氏)に、私の考えたアイデアをプレゼンテーションしました。当時彼はたまたま出張で東京に来ていたので、ホテルに押し掛けてアイデアを説明したのです。聞いた途端に彼は「ワォ! 素晴らしい」と感心してくれて、パートナーになると言ってくれました。

「21世紀にもなって、言語学習に数年必要なんて間違っている」

阿部川 Coooriは設立から約10年ですね。現在の製品やサービスのことを簡単にお教えいただけますか。

イエンソン氏 現在は、企業で働く方々やTOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)の点数を上げたいという日本の方々だけに向けて、英語の効果的学習を提供しています。その意味で市場は限定されてはいますが、十分大きな市場だと思っています。

阿部川 他の英語学習ソフトウェアと一番違う点は何でしょうか。

イエンソン氏 AI(人工知能)などのテクノロジーが学習者をサポートするいわゆる技術力と、効果的な学習を目指して作られている、という点です。私は幾つもの言葉を学習しましたが、日本語は「超難しい」言語です(笑)。特に語彙(ごい)が他の言語と全く違う。しかしそれは同様に、日本人にとっても英語の学習が難しいことを意味します。

 英語を話せる人がドイツ語を学ぼうとすると、2つの言語には多くの共通点があることに気が付くはずです。ドイツ語だけでなく、例えばイタリア語も同じです。大きく言えばヨーロッパの言語は、スラブ語が母体ですから、何かしらの共通点があるといえます。ところが日本語にはこの共通点が皆無なのです。

阿部川 確かに英語と日本語の語彙に共通点はほとんどありません。

画像 阿部川“Go”久広(右)

イエンソン氏 日本人が外国語を学ぶ、あるいは外国人が日本語を学んで「ある程度のレベル」までに到達するには、どうしても数年はかかると思います。私の場合、2003年に来日して日本語の学習を始めたわけですが、何日たっても上達している実感がありませんでした。いろいろやってみたのですよ、本をしっかり読むとか、人と頻繁に話すとか、黒板を使ってとにかく書くとか、グループで集まって討議するとか。でも何も変わらなかった。

 何かが間違っていると思いました。私たちは21世紀に生きているにもかかわらず、言葉の学習は昔から変わっていないのです。きっと別のやり方があるはずだと思っていました。きっと今まで10年かかっていた言語学習が1年でできる方法があるはずだと。

阿部川 なるほど、おっしゃる通りです。

イエンソン氏 人が聞けば、変な外国人が、しかも日本で起業して、英語学習の新しい方法を模索しているなど、おかしな話しなのかもしれません。もしかしたら地球上でこんなことを考えている人間はほとんどいないかもしれません。でも私はきっと何かもっと良い方法があり、実現できるはずだと信じています。

 AIを研究したり、博士号まで勉強して自然言語生成の研究をしたり、何カ国語も言葉の勉強をし続けていたり。そんなことができるバックグラウンドを持ち、追究するモチベーションのある人間は私くらいだろうと思っています。もし私ができなかったら、誰もできるはずがないと(笑)。だからやる。そうやって、10年かけないとできないことを1年で実現させることで、人を助けたいと思っています。

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