第236回 Intel vs. AMDの主戦場はどこになる? CES 2020から考察してみる頭脳放談

年始早々に開催されたエレクトロニクスの見本市「CES 2020」で、IntelとAMDが発表した内容を見てみよう。依然としてCPUの供給不足問題が解決しないIntelと、Ryzenが好調なAMDと少々対極的な構図となっている。両社の次の一手を考察してみる。

» 2020年01月27日 05時00分 公開

 年頭のCES 2020出展にあたり、IntelとAMDがそれぞれ発表したプレスリリースを読んでいた。

 「どちらも驚愕!」などとは程遠いプレスリリースであったのだが、Intelのそれを読んで結構モヤモヤしている人がいるのではないか、と勝手に想像している。

Intelの話題はサーバばかり?

 最近のIntelにとって、多少明るい話題は「3年ぶりに半導体売上高ランキングで首位を奪還した」というニュースだろうか。しかし、それは半導体市況の悪化がメモリ市場を直撃したがために、メモリの比率の高いSamsung Electronicsが大きく売り上げを落として首位陥落したからであって、Intel自体も絶対値的には微減のようだ。

 市況のなせる業であって、正直、喜ぶような話ではない。それどころか、現在PC市場はWindows 7のサポート終了によるいわば「特需」期間中である。PCにはごっつい追い風が吹いているのだ。「その割には何だ?」と思っている人は当然いるだろう。

 そう想像してしまう理由はといえば、Intelが、依然として市場デマンドを満たせるだけの数のCPUを出荷できていない、ということにつきる。もう年単位の話になっている。IntelのCPU不足については、頭脳放談「第225回 なぜ『IntelのCPU不足』はなかなか解決されないのか?」「第228回 Intelがアナリストに語った次の一手」で触れさせていただいているが、Intelは「もう大丈夫だ」的なことを発表していたのだ(Intelのプレスリリース「2019 Investor Meeting: Intel Previews Design Innovation; 10nm CPU Ships in June; 7nm Product in 2021」[英語])。筆者も、これを信じていた。

 それにもかかわらずだ。Intelは2019年11月下旬に、またもやという感じでおわびのレターを出しているくらいだ(Intelのプレスリリース「Intel Supply Update」)。その影響は小さくない。Intelのデリバリーの太さの違い(ワールドワイドで大量に購入するメーカーと、狭い市場向けに比較的少量購入するメーカーの調達量の差)で、日本におけるPCの売上高ランキングが変わってしまったという話が出ているくらいだ。狭い日本市場だが、思うような商売をできないでいるメーカーや販社は苦しかろう。

Intelの顧客宛のおわび Intelの顧客宛のおわび
CPUの供給が間に合わない状態が続いているため、このように顧客宛におわびの手紙を公開するまでになっている。このような状態では、需要を喚起するような施策は発表しにくいかもしれない(Intelの顧客宛の手紙「To our customers and partners,」[PDF]より)。

 正直にいうと、そういう色メガネをかけてIntelのプレスリリースを読んでしまっている。バラ色の夢を語るのもよいが、「もっと足元固めろよ!」と筆者がいっても全然Intelには響かないと思うが、取引先の中にはそういう思いを飲み込んでいる人がいるに違いない。

 マーケティング部門の傾向なのか、Intelのプレスリリースは、常にカッコイイところ狙い。インテリジェントで先端なイメージで、かつ世の中の流向に乗りたい傾向がありありなのだな。まあ、CES向けなので消費者にアピールしそうなものを展示するのが基本ではあるのだが。たとえは悪いが、バブル崩壊しているのに、ついついバブルの乗りでいってしまったあの頃な感じがするのだなぁ、年寄りには。

 CESでIntelが紹介した米国赤十字とのコラボは社会貢献ネタであり立派な話なのだが、裏側を想像するに妥当な線ではある。日本でも大問題な災害対応の話である。災害が直撃してから逃げるのでは遅い、Intel Xeon搭載サーバ上で走るAI(人工知能)と5G通信、それとインテリジェントなエッジ側で災害を予測し、それを地図上にマップしていって人々に知らせようということらしい。必要な取り組みだし、2019年の台風など体験してみると、日本でも有効な取り組みにも思える。

 しかしだな、ひねくれた筆者などはここでもIntelの書き方が引っ掛かってしまうのだ。色メガネで見ているからか? ついこの間まで、この手の話題になると誰かさんは「IoT」だとか言っていなかったか? 確かにIoT向けの小型プロセッサ群をディスコン(生産中止)にしたはずだが、それにはあんまり触れたくない、ということかもしれない。それにしても、「IoT」が一言もプレスリリースに出てこない。

 また、2020年のネタだというのは分かるが、「Tokyo 2020(東京オリンピック)」も持ち出してきている。またもやというべきか、Intel Xeon搭載サーバ上で走るAI(Intel DL Boost)を使った「3D Athlete Tracking」なんだそうだ。カッコイイ話のどこを切っても、切り口に現れてくるのはサーバ機ばかりに見える。ビデオのストリーミングサービス狙いの1つ、「Netflixと高効率な圧縮テクノロジーを実現」という話題もIntel Xeonだ。米国民熱狂のNFLのフットボールの大容量のビデオ配信対応などもIntel Xeonだし、何だか、中小のPCメーカーなど眼中にない感じがする。

AMDの次のターゲットはクリエイター?

 片やAMDはどうか。まずはプレスリリースなのだが、似た体裁で内容が異なる2本が出ている。片方はプロセッサ、片方はディスクリートのGPUについてである。

 北米大陸の西のAMD本体と東の旧ATI Technologiesのそれぞれから出ているのかとも想像される。実際の事情は知らない。

 この2本のプレスリリースは別々に出ているけれども、意志の統一は図られているように見える、といったらAMDの肩を持ち過ぎだろうか。それがまた、Intelの狙っているところとはぶつからない。すれ違っているといってもいいだろう。

 AMDの狙いの一番目はゲーマーとハッキリしている。実際、PlayStation 4やXboxなどのCPUはAMD製ということもあり、ゲーム屋さん御用達CPUベンダー(?)といってもいいだろう。昔からAMDはCESでゲーマーの人たちをお得意にするような展示をしてきた。お得意さまを大事にするのは順当なところだろう。

 この頃、Ryzenで対Intel作戦が順調に進展しているといっても、急に手のひら返してこれからは「AIだ」とか、「サーバだ」とか言わないところがよい。これはいまやゲームでもうけた金をAIにつぎ込む会社になってしまった感のあるNVIDIAとも違う。

 AMDは、「まずゲーム」なのである。しかし、戦線拡張の勢いに乗っているAMDとしては牙城のゲーム以外にも手を広げたいところだろう。そこで何処に手を伸ばしてくるのか気になるところだ。Intelの金城湯池、サーバ機に出てくるのか?

 ところが、AMDが出てきたのは、これまたデスクトップ機の戦線なのだ。クリエイター向けのデスクトップなのである。いまや猫も杓子もYouTuberだ。動画を作っている人は多かろう。3Dもあり、アニメもあり、VRやAR(まとめてXR)もあり、クリエイター人口というものがあるならば、それは確実に増えているのに違いない(実際、そういう統計は見たことないので想像だが)。

 そういう人たちに向け、AMDは、多コア(64コア128スレッド)のx86 Ryzen Threadripperや、自社のGPUを売り込むわけである。Intelも多コアのx86(Intel Xeon Phi)を持っているが、あれはサーバ機のアクセラレータだった。

 AMDは、それをクリエイターの人の机の上にあるPCに入れ込みたいというわけである。それにしてもゲーマー向けPCからクリエイター向けPCというのは自然な流れではないだろうか。多分、販路的に言ってもオーバーラップするのではないかと思う。

 さらに言えば、ゲーマーとクリエイターというのはユーザー層自体が重なっているような気もする。同じようなスペックでもCAD用のワークステーションでは、心トキメかないが、クリエイターはトキメく。AMDは「何かをクリエイトせよ」のような出しゃばりなことはせず、淡々と性能と値段を訴求するだけでいいのではないか。

 今回は、少々AMDの肩を持ち過ぎた感もある、反省。Intelの工場の人もきっと必死にやっている。ただ、CESのネタではなかっただけだ。しかし、見る目は厳しくなっている、きっと。頑張ってくだされ。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。