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» 2020年02月07日 05時00分 公開

ものになるモノ、ならないモノ(85):プライバシーは? 消費電力は? エストニアで成功した「医療ブロックチェーン」が日本でも実現可能な理由

医療分野におけるブロックチェーン利用を推進する、国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター長の水島洋氏に、日本での実現可能性や今後の展望を聞いた。

[山崎潤一郎,@IT]

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 これほどまでに、ネットワークによる高度な情報化が進化した現代社会だけに、病院のサーバなどに保存されている自身の医療情報(治療歴、検査結果、薬歴など)にアクセスできるようにならないものかと、思うことがある。還暦を過ぎ医療機関のお世話になる機会が多くなっているだけに、そういうことを考えてしまう。

 例えば、筆者の場合、数年前の検査で見つかった肝臓の数値悪化を契機に、以後、飲酒を最小限にとどめ、定期的に検査を行っている。数値の推移をさかのぼりつつ、安心して飲酒(?)できる日を楽しみにしているのだが、今は、受診の際、担当医に手渡された検査結果の出力紙をスマートフォンのカメラで撮影しEvernoteにアーカイブしている。このような手間をかけなくても、自身の医療情報が一元的に蓄積されているクラウドのような領域にアクセスすることで、情報をいつでも閲覧できるような仕組みがあって然るべきだと思うのだ。

 例えば、公的年金の過去記録を閲覧できる「ねんきんネット」。ここでは、学校卒業後の23歳以降、所属した組織名が一覧できる。途中、自営業として国民年金に切り替わった期間もあるなど、過去の自分を一気に振り返ることができ、いろいろな感情が去来する。「これまでの保険料納付総額(総合計)」なども分かるので、ならば健康で長生きし、この合計額以上は受給してやろう、という気持ちにもなる。これと同様に、医療情報の過去ログを一覧する仕組みがあれば、少なくとも自分自身の健康に対する意識は高まるのではないだろうか。

透明性と安全性を考えるとブロックチェーンに尽きる

 このような、誰もがアクセス可能な医療情報のデータベースを、ブロックチェーンを利用して構築する動きがある。ご存じのように、ブロックチェーンとは、分散型台帳技術で、ビットコインのような仮想通貨の運用基盤として誕生した。最近では、仮想通貨だけではなく、「改ざん耐性を備えた高セキュリティのデータベースや処理システムを低コストで構築できる」点に注目が集まり、ビジネスの分野においても、導入に向けた動きが活発化している。

 医療分野におけるブロックチェーン利用を推進するのは、国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター長の水島洋氏。水島氏は、ブロックチェーンの医療分野への活用を、前述のような国民の医療情報管理にとどまらず、「医療品のサプライチェーン、薬事申請、医療機器の保守、管理やデータ認証、患者の研究参加、医療費の支払いといった分野で導入すべき」と訴える。

国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター長の水島洋氏。ヘルスケア系ガジェットマニアで、スマートフォンを利用して常に血糖値をモニタリングしている。「おやつを食べると血糖値が跳ね上がるのでバレる」と笑う

 ただ、ブロックチェーンにこだわらなくても、ねんきんネットや「マイナポータル」のように、既存のデータベースの上に、患者自身でアクセス可能とする仕組みを作り込めば事足りるように思うのだが、それでは不十分なのだろうか。「確かに、既存のシステムに対し国民のアクセス権を付与する、という考え方もある。しかし、従来型の中央集権的なデータベースの仕組みだと、特定の管理者に全権を委ねることになり、コンセンサスを得にくい。国民自身が医療情報を自律的に管理可能な仕組みを構築することを視野に入れたら、ブロックチェーンへの期待は高い」(水島氏)という。

 「医療情報を自律的に管理する」というのはどういう意味であろうか。「治療歴、検査結果、薬歴に加え、スマートフォンやウェアラブル端末で取得した心拍や運動量といった日々のヘルスケア情報などを自ら管理し、自分の判断で、それを主治医に提供したり、紹介先の病院などに開示したりすることができる」仕組みがそれに当たる。

 つまり、このようなシステムにブロックチェーンを導入することの最大の強みは「透明性と安全性に尽きる」(水島氏)のだという。自分の医療情報にどの機関がいつアクセスしたのか、といったことが全て記録され、それをポータルサイトで確認できるようになる。そして、その記録自体、不正に改ざんが行えないので、国民も自分の医療情報を安心して預けることができるというわけだ。

 確かに、個人情報の扱われ方に敏感な日本国民にとってブロックチェーンは最適解なのかもしれない。例えば、マイナンバー導入におけるプライバシー議論を思い出してほしい。マイナンバーに反対する人々の理由に、行政機関からの情報漏えいや個人のプライバシー侵害といったものがある。データベースの閲覧が全て記録され、サイバー攻撃に対し高い堅牢(けんろう)性を備えるブロックチェーンであれば、このような懸念に対し一定の解決案を提示できるのではないだろうか。

 これは、余談だが、2017年の春、総務省の高官にインタビューした際、「政府そのもののスマート化(行政手続きなど)にブロックチェーンを導入する」という議論があると教えてくれた。仮にこれが実現すれば、自衛隊日報問題、森友、加計問題、桜を見る会などにおける、文書やデータの隠蔽(いんぺい)、改ざん、捏造(ねつぞう)が事実上不可能になるか、全て記録されることになり、政治や行政の分野でも極めて高い透明性が確保されると期待される。ただ、その場合も一部の政治家は「(ログの)内容を明らかにすれば、不正侵入などを助長する恐れがある」と逃げるのかもしれないが……。

エストニアの成功事例

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