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» 2020年02月10日 05時00分 公開

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(74):退職するなら、2000万円払ってね (2/3)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]

京都地方裁判所 平成23年10月31日判決から(つづき)

労働者が労働契約上の義務違反によって使用者に損害を与えた場合、労働者は当然に債務不履行による損害賠償責任を負うものではない。すなわち、労働者のミスはもともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものであるし、業務命令内容は使用者が決定するものであり、その業務命令の履行に際し発生するであろうミスは、業務命令自体に内在するものとして使用者がリスクを負うべきものであると考えられることなどからすると、使用者は、(中略)加害行為の予防もしくは損害の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、労働者に対し損害の賠償をすることができると解される。

(中略)

受注が減ったという経過は前記認定のとおりであるが、社員Aにおいてそれについて故意又は重過失があったとは証拠上認められないこと、システム開発会社が損害であると主張する売上減少、ノルマ未達などは、ある程度予想できるところであり、報償責任、危険責任の観点から本来的に使用者が負担すべきリスクであると考えられること(中略)、システム開発会社が主張するような損害は、結局は取引関係にある企業同士で通常にあり得るトラブルなのであって、それを労働者に負担させることは相当ではなく、システム開発会社の損害賠償請求は認められないというべきである。

 当然と言えば当然だが、裁判所はシステム開発会社の訴えを退けた。

社員の失敗は会社の責任

 「プロジェクト失敗による損害の賠償を個人に求める」などという考えがまかり通るなら、失敗による赤字が数千万円、ときには数十億円にまで達することもあるシステム開発など、誰もやらなくなるだろう。仕事の赤字は会社が責任を負う――どの業界でも当然のことである。

 少しだけ留意点を上げると、判決文の後半部にある「故意又は重過失」があったときだけは、場合によっては社員に賠償が命じられる可能性がある。

 故意――つまりわざとプロジェクトを失敗させた場合、そして重過失――誰もが当然に払うことができ、また払うべきだった注意を社員が怠った場合だ。例えば、当然行うべきテスト工程を飛ばしてシステムを納入したときであれば、責任が問われる可能性もないとはいえない。しかし常識を持って作業をしている分には、まず起きない。

 いずれにせよ、会社の赤字を損害として社員に賠償させるなどということは通常はあり得ない。

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